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2006年2月26日 (日)

土地区画整理事業における住民参加(1)―行政と業務代行のはざまで―

住民がついに立ち上がった

 都市計画事業における住民参加が叫ばれて久しい。現在の法制度において住民参加制度はどれほど機能しているのか、していないのかを私の住んでいる千葉県佐倉市の井野東開発の例からたどってみたい。

 私たち家族が住み始めて18年になる「ユーカリが丘ニュー・タウン」は土地区画整理事業組合による開発で、いま揺れている。かつてのニュー・タウン開発業者「山万」は、自社の後発開発事業区域48ha(㌶)を土地区画整理組合方式の開発に乗り換えて業務代行におさまった経緯がある。

 2005年の春、認可されて3年弱、私の住む街区に接する工区の高い柵がはずされると、生活道路から6m以上の盛り土とその上を走る傾斜10度に近い9m道路が出現した。認可前後に開催された住民説明会では平面図一枚を配っての工事手順や日程の説明に終始した。宅盤や道路の高さには一切触れなかった。工区の北側には道路とモノレールの軌道をはさんで、数年前、業務代行である山万が建設・販売した8階建てマンションがある。そこの入居者たちも、購入時、公園とか一戸建てができるとの説明を受け、南側の窓いっぱいに盛り土しか見えなくなる話は聞いていないと怒った。とくに34階までの入居者の声が大きかった。

そして、その直後に佐倉市まちづくり課から自治会に、その工区の用途地域変更計画(第1種低層住居専用から第1種中高層住居専用へ)の縦覧予告の掲示用ポスター3枚が届けられ、周辺住民の怒りは爆発したのだ。

住民は自治会を中心に対策協議会を立ち上げ、組合と行政と交渉を始めるに至った。そして、組合は住民説明会の一方的な打ち切り、開発前から工区にあった山万の産廃の処理費を組合の負担に押し付けた問題、モノレール軌道沿いの盛り土の2回の崩落という事態を引き起こしたのである。 

住民参加を名ばかりにしてはならない

2000年、組合準備会の段階で、事業区域の市街化調整区域をはずすにあたり、千葉県による縦覧後の公聴会、意見提出の機会があった。佐倉市都市計画審議会への意見書提出の機会もあった。さらに、組合認可に先立って、事業計画に関する意見提出、口頭陳述の手続きも経た。反対意見は、人口減少期に里山や緑地を失ってまで市街化調整区域をはずす必要性、開発区域のほぼ中央を走る1.6kmの1970年代に計画の都市計画道路の必要性、保留地処分価格の法外に高い設定による資金計画の杜撰さに起因するものであった。市民からの積極的な賛成意見は数が少なく、国道の渋滞対策、後継者もなく荒れたままの土地を住宅地に変えられたら、子孫や町の発展にも役立つと考える零細地権者のものだった。

さらに、認可の申請過程では、周辺自治会から事業計画見直しの要望書、周辺住民有志の意見書も提出されたが、20027月、県は組合準備会提出の事業計画になんの修正もなく組合を認可した。

私は、個人的に、ある時期は自治会役員として、住民参加のすべての機会にかかわり、意見を述べ、提出し、要望を述べた。が、それはむしろ徒労に近かった。県・市の担当者がたびたび口にするのが、決まって「法令に違反していないかぎり、早く認可しないと逆に損害賠償で訴えられる」というセリフだった。「住民参加」とは名ばかりで、行政には初めから、住民の意見を聞く姿勢がなかったというほかない。私たち住民の意見提出などの手続きはセレモニーといっても過言ではないだろう。

というのもが現在の住民参加制度には重大な不備があるのである。都市計画策定にあたって、住民の代表である議会の役割が法律で決まっていないこと、わずかに議員・専門家・市民代表からなる都市計画審議会がかかわる場面があるに過ぎないこと。公聴会の開催にしても任意であり、その時期も明確に規定されていない。さらに、意見提出についての対応が規定されていない。(頼あゆみ・柴田翼「都市整備における行政と住民の合意形成の円滑化に関する研究(中間報告)―都市計画策定における住民参加制度の日独仏比較」『国土交通政策研究』20号、20036月、参照)

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