道路用地費11億円はどのように決まったのか(2)―井野東土地区画整理事業における不動産鑑定の怪―
不動産鑑定は適正に行われたか?
2002年11月12日付の千葉県の関係部局担当者だけの内輪の打合せ記録がある。すでに、公管金総額11億余円の数字が一人歩きしている時点ではあるが、道路建設課国道班、都市整備課区画整理班、印旛土木事務所道路改良課・調整課・用地課のメンバーが出席し、つぎのような基本的な意見交換や確認がなされていた。
①算定する際に、道路用地は保留地と同様に考えるのか、区画整理がなかったら市街化調整区域単価で買収していたはずだから調整区域単価でよいと考えるか
②現在の情勢下では、用地単価の下落が見込まれるが、年度協定締結の際、支払額算定に当たって単価の下落分を考慮する
数日後の11月18日には、上記の県担当者らに組合と不動産鑑定の二業者が参加した会議が開かれ、公管金算定について、組合は市街化区域編入後の単価を希望し、行政は市街化区域編入前の単価を希望した旨が記録されている。この文書の経過説明のなかに、私は、「協議記録では、平成12年12月8日時点での単価で公管金の額が1㎡あたり35,000円の約11億円と算定されている」との記述を発見、この12月8日の「協議記録」の開示を求めたところ、またもや「存在しない」という。さらにその後の鑑定実施においても不透明な事実がいくつか判明してきた。
①2000年12月8日の会議、2002年11月18日当時、資料として机上に置いて打合せしただろう、算定根拠が示されている、その文書が不存在とは、どういうことなのか。狐につままれたような気がした。少なくとも1㎡35,000円という記述があった文書がまさに消えたのである。
②将来鑑定を依頼される不動産鑑定業者は会議に参加し、算定価格・根拠並びに行政・組合の算定意向を十分に知りうる機会があった。
③市街化編入前の2001年3月1日時点の鑑定費用を組合が負担した。公管金の支払いを受けるべき受益者の組合が依頼し、その費用を負担したことになる。
④組合から依頼の市街化編入前の鑑定を受注した、まったく同じ二鑑定業者が編入後の行政の発注の鑑定も行っている。
②③④の事実だけでも、後の「覚書」前に提出された不動産鑑定の結果の信頼性は大きく損なわれているといってよい。業者は鑑定依頼者の意向や思惑を十分知る立場にあり、先入観・予見をもって鑑定に臨むだろうし、依頼者へのサービスもあるだろう、二時点の自らの鑑定結果の整合性を維持するための配慮もあるだろう。客観性や公平性はそれだけでも危ぶまれる。さらに、鑑定にあたっては、取引事例比較方式を採用して、求めた標準画地価格を個別の立地要件ごとにプラス・マイナスの修正をおこなうが、恣意的な操作の余地もたぶんに予想できる。このような鑑定作業や経過から見て、鑑定地の選択やその後の作業の客観性・公平性の担保は困難でもあろう。②③④の状況下では、もはや適正な鑑定を望む環境にはない。
鑑定結果と実態との食い違い!
さらに、関係文書の開示を求めたところ、以下のような表を含む「公共施設管理者負担金認定のための施行種別費用総額比較」(平成15年2月12日現在、印旛土木事務所)という文書が出てきた。その概略は以下の通りである。
施行種別 費用総額 1㎡平均単価
① 公管金方式 11億300万円 35,000円
②買収方式編入前(2001.3.1) 12億5910万円 37,000円
③ 編入後(2002.12.1) 12億9900 万円 38,700円
④保留地方式(2002.7.9認可時) 29億8000万円 105,875円
*
⑤保留地方式(2003.4.11変更後) 15億5428 万円 55,206円
鑑定結果による道路事業施行者の土地買収方式②③と本区画整理組合が採用する11億300万円の公管金方式①とを比較し、①方式が「事業用地取得が最も経済的に思料される」と断定している。④は、総事業費が89億に圧縮される前の数字で、比較に値しないものだ。*⑤は文書には記されてはいないが、参考のため総事業費圧縮後の数字を私が加筆した。
また、①では、平均単価が示されるが、地目ごとで見ると全面積の5%が宅地で、1㎡当たり75,100円、52%の畑が37,500円、40%の山林が32,000円と逆算でき、当時の実勢価格と比較しやすくなるかもしれない。
ここで、まず注目するのは、2001年3月1日時点と2002年12月1日時点の比較で、土地の単価が上昇していることである。当時の国土交通省調査による佐倉市一帯の土地公示価格によれば、2001年から2002年(いずれも1月1日調査)の下落率は15%から19%に達している。下落率が著しい時期にあって、市街化編入が値上がりの要素になり得たのか、たとえなり得たとしてもその値上がり分をはるか超えた下落率であったことがわかる。さらに、不動産鑑定には前述のように取引事例比較法を採ったというが、鑑定地として選択した土地の立地を道路予定地の現況に近づけるという作業を標榜して、意図的な操作がなされたとも限らない。そのように考えなければ、鑑定の事例だけがなぜ公示価格と大幅に乖離するのかが理解しにくいではないか。
厳しい言い方をすれば、①方式の「金額先にありき」の辻褄合わせにしか思えないのである。それに、二つの業者による鑑定対象地の選択が異なるにもかかわらず、その二業者から出た価格の数値は限りなく接近している。そうした鑑定結果は、いわば「談合」に近い構図を推測させるに十分なのではないか。
行政のある担当者は、「公共施設管理者負担金はそもそも事業者の“言い値”でスタートするんですよ、いざ支払う段にその妥当性が判断されるなら問題はないはず」と言い放つ。さらに、別の担当者は、「公管金と言ったって、要するに一種の助成金と考えてもらった方がいいと思いますよ」とも。これまでの経過でも明らかなように、「言い値」の根拠すら不明、その妥当性が判断される手立ては、あまりにもお粗末で、客観性を欠き、納得できるものではなかった。まさに「言い値」で助成金がばら撒かれた事例なのか。私はこれを見過ごすわけにはいかなかった。(続く)
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