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2006年3月15日 (水)

助成金は土地区画整理事業の延命装置か―佐倉市、井野東土地区画整理組合の場合―

 

規則を変えて、助成が可能に!

佐倉市の井野東土地区画整理組合は、20027月の認可以来、コンサルタント業者の変更、資金計画の圧縮、事業計画の変更、長割遺跡の国指定、産廃の出現、地元住民の抗議などにより、20093月予定の清算はかなり困難な局面を迎えているようだ。

 2004年実際の工事が始まって、周辺住民をまず驚かしたのは、トラックによる残土運搬から受ける沿道住民の振動・騒音や危険であった。また、いくつかの工区に放置されていた産廃の量の多さとその処理方法の杜撰さ、直近の生活道路から6mを超える盛り土と雨による崩落、傾斜10度に近い、モノレールの軌道を跨ぐ陸橋の出現などにより、周辺の住環境は一挙に悪化し、周辺住民が怒り始めたのはしごく当然のことだった。いま、行政の仲介により組合と周辺住民との話合い、組合の業務代行、地元開発業者の山万との話合いが続いている。

 折も折、土地区画整理事業への助成に関する規則が行政により改変され、井野東土地区画整理組合への助成金5700万円が来年度予算に計上された。20063月の市議会で可決の運びだ。助成金は、佐倉市土地区画整理事業の助成に関する条例及び条例施行規則に基づくものであるが、従来の規則には「3分の1」条項というものがある。不動産取引・住宅建設その他これに類する業者所有の土地が施行地区面積の3分の1以下であることが条件であった。しかし、その「3分の1」条項を行政は規則から削除した。そのねらいは、業務代行の山万がすでに3分の2以上を所有している井野東土地区画整理組合事業に助成をするためであった。1998年に「3分の1」条項がなぜ設けられたかは、つぎの議会答弁にもしばしば出てくるように「営利目的の事業者の所有する土地の割合が一定以上を越える場合、公金を支出することは好ましくない」という判断からであった。

3分の1条項、迷走の果てに・・・

 現在開会中の20063月の議会で、なぜ、いま3分の1条項をはずすのかについて質問した議員がいた。市長は「土地区画整理事業による都市基盤整備を促進するため、現在の経済社会状況から助成することは必要」といった大雑把な回答でしかなかった。ケーブルテレビの録画では担当部長の回答を聞けなかったので、詳細は議事録を待つしかないが、傍聴した友人によれば「組合による土地区画整理事業は健全な市街地形成にあり、区域内土地についての公共設備整備改善・宅地の利用促進を図るのが目的なので、民間業者と一般地権者を区別する必要はない」といった主旨だったらしい。しかし、それまでの議会答弁でも明らかなように、3分の1条項の制定趣旨との整合性がないのは明らかである。1998年以来、経済社会状況に大きな変わりもない。いや、政府は躍起になって景気回復の兆しを喧伝するくらいであるし、一方、市の財政も悪化している。佐倉市の政策転換は何を意味するのだろうか。

3分の1条項撤廃の背景には、一部の市議会議員の後押しもあったことがわかる。それを議事録で追跡していくと、おかしなことに気づく。以下議事録から要約した。

A(199812月議会、同年10月、井野東土地区画整理組合準備会が結成)

T議員:開発業者が「佐倉市も一枚絡んでいる開発事業だから」という触れ込みで区域内の農家を回って買収を進めている。突然に市街化調整区域を市街化区域に変更する線引きが行われたり、区画整理事業が出てきたり、慌てふためくのはいつの一般市民だ。今のままの生活環境で満足しているのにわざと税金を使い、市役所が勝手に調査などをやり、この土地利用計画に従えみたいな、市のやり方は無謀だ。事前に開発業者による買収も進んでいるとなれば、何のための、誰のための土地利用なのか疑いたくもなる、市の区画整理事業の進め方は民主的ではない。

K都市部長:準備組合に対し、地権者と地域住民の理解、協力を得て事業を進めるよう指導する。

B(20006月議会、同じT議員から)

T議員:佐倉市の区画整理事業の助成条件は厳しすぎるので見直すべきだ。バブルが

はじけた現在の社会経済情勢の中、資金調達やノウハウ等を考えれば、デベロッパー抜きの土地区画整理事業は非常に難しいので、3分の1条項も見直すべきだ。行政側も或る程度の負担をし、組合負担を軽減すべきである。

市長:今後の経済状況を見極めて検討、区画整理事業に支障がないように支援の方策を考えたい。

e都市部長:土地価格が低迷している現在、検討を早めにしなければいけないと判断している。

C(20023月議会 別の議員の登場)

a議員:3分の1条項」には論理的根拠がない。助成金は道路等の公共部分に主として支払われるのだから、開発業者の土地所有の多い少ないは関係がない。

Ne都市部長:公共施設を整備するのは同じだが、宅地を売って利益を得るのを目的とする事業者に公金を支出するのは好ましくないという判断から、今は3分の1条項を撤廃する考えはない。区画整理は指摘のように60%を超えると事業も苦しいのはわかるが、佐倉市の財政も非常に苦しい時期なので理解いただきたい。今後は、国や県の補助メニューを研究し、区画整理の推進をはかりたい。

 D(200212月議会、再びT議員の登場)

T議員:営利を目的とする事業者の土地が事業面積の3分の1以上あるから、公金を支出することは好ましくないとするより、むしろ事業の安定的な経営を確保して事業の促進と良好な市街地整備を図るという視点に立てば、3分の1条項は時代錯誤な条項であり削除すべきではないか。

市長:この条項は、助成が事業者の営利につながってはならないということで、一定の歯止めが必要であるという観点から設けられたと理解している。最近の情勢では区画整理自体が非常に難しい時代なので、現実に合わせた今後の対応も必要だが、現状ではこの条項をいまだあてはめ、今後の状況を見極めたい。

A時点とB・D時点との間に、T議員には何が起きたのだろう。土地区画整理事業、開発業者へのスタンスが逆転している。T議員はもともと地権者でもあったが、2002年組合認可時には、組合監事の役職に就任していた。そして、20063月の議会で、3分の1条項削除による5700万円余の助成がかなったのである。200212月議会の市長答弁でいう「助成が事業者の営利につながってはいけないという歯止め」が取っ払われ、公金をもって3分の2以上を所有する開発業者主導の組合の窮状を助けることになった。「区画整理自体が非常に難しい」時代は、今に始まったことではなく、少なくとも、区画整理事業組合準備会が事前協議申請、認可申請をした時点ほか幾多の場面で、市民たちは事業完遂を危ぶみ、見直しを要望しているのを振り切って、手続きを進めた組合と行政の責任を問わずして、公金投入の拡大を許せるだろうか。助成制度は土地区画整理組合事業、その中核の開発業者への延命装置ではないはずである。

 もともと佐倉市の井野東土地区画整理組合による開発区域は、開発業者山万によるユーカリが丘ニュータウン開発の一環として、第3期開発予定区域だった。そのように記述した山万のPR冊子は、199810月組合準備会を立ち上げた後も作成・配布され、業界新聞の取材にも、そう答えている。自社だけの開発を不利と見て、組合方式に乗り換え、かつてのT議員の質問にもあるように、佐倉市の後ろ立てがあるかのように買収を進め、20007月組合準備会は事前協議申請に臨んだのではないか。そして、そのときの「事業計画書(案)」の資金計画における保留地処分価格の設定が当時の土地価格の下落状況から見て、非現実的であることが素人目にも危ぶまれた。線引き縦覧時、組合認可申請時、事業計画縦覧時などには、私は、個人で、ときには自治会員として、あるときは住民有志の一人として、佐倉市や千葉県の首長に要望書や意見書を提出し、その資金計画の杜撰さも幾度となく指摘し続けた。そこで返ってくる答えといえば、「組合の責任でやることで、保留地処分価格設定も、その時点での算定であって、不合理とはいえない」という類のものであり、さらに、「何十年来の都市計画道路を、行政の手を煩わせることなく、組合が建設してくれるのだから、速く進めなければならないし、認可をしないと行政は損害賠償で訴えられる」などと付け加えていたのである。そして、一方、組合は資金調達がうまくいかないからと事業費を圧縮、それでも運転資金が不如意な昨今、業務代行の業者はなんとしても助成を取り付けたかったのだと思う。

 区画整理は「都市計画の母」なのか 

「条例や規則を変えて、助成金をもらおう」!? 多数決の横暴はおそろしい。清算が難渋したら、また、次の手を考えるのだろう。市や県は「公共施設用地」として買い上げを余儀なくされる日も近いかもしれない。こうした例は全国各地で多発している。たださえ自治体は財政難にあえいでいる。差し迫って必要もない土地を抱え込んでしまわないように、監視の目を凝らさなければならない。組合と行政による事業計画、資金計画のチェックの甘さのツケ、その無責任体制を税金で尻拭いされるのは、もうこりごりだ。現に、土地区画整理事業がらみの助成金関係の住民監査請求の件数も多くなっている。事業者が土地区画整理組合に限らず、佐倉市では、都市再生機構による寺崎土地区画整理事業も市との土地買い上げをめぐる不透明さを抱えて、先行きが見えない状況である。

 「都市計画の母」とさえ言われた土地区画整理事業の時代は、もはや終焉を迎えている。にもかかわらず、それでも、多くの地権者や周辺住民たちは、行政や業務代行の口当たりのいい言葉にばら色の夢を託すのだろうか。区画整理が「環境破壊の父」とならないためにも私たちは監視の目をゆるめてはいけない。

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