社会福祉協議会の「移送サービス」は誰のため?
「移送サービス」って
年をとると、通院や買い物、銀行や役所の諸手続きなどで出かけたいとき、普通の交通機関を利用するのがおっくうになり、年々難しくなる。とくに、高齢のご夫婦だけの暮らしやお一人住まいだと毎回タクシーを頼むことも控えてしまうだろう。とくに病気や障害をお持ちの方は外出自体をあきらめたり、出かけても苦労されることが多い。趣味のサークルや講演会に出かけたいことだってある。その移動を支えるのが、役所や町の社会福祉協議会への申込みや登録によって実施される「移送サービス」である。もちろん、無料というわけにはいかず、ガソリン代やドライバー・介助者費用を含む利用料が設定されている場合がほとんどである。制度的には、道路運送法80条の特例として許可されるもので、介護保険では扱わない、ニーズが多すぎて扱えない、いわば「隙間事業」で、「福祉有償運送」と呼ばれる。自治体は「福祉有償運送運営協議会」を設置して、事業者の参入時にはチェックを行うことになっている。
佐倉の社会福祉協議会がはじめたこと
佐倉の社協は去年10月からこのサービスを始めた。「毎年500円の会費を払って加入する社会福祉協議会の会員」でないとこの「移送サービス」が受けられない、という触れ込みで「社協会員」加入の勧誘をはじめた。近くの自治会は「おタクは会員が少ないから敬老大会に呼べなくなるかもしれない・・・」とか、露骨に社協への協力を迫られたらしい。「移送サービス」を会員獲得のための宣伝材料としたフシがある。というより、社協の幹部の話を聞いて驚いたのだが、「移送サービス」を「会員獲得のための独自の事業」と位置づけているらしい。
しかし、ちょっと待てよ。佐倉社協作成の「移動サービス」のチラシを読むと、利用には「社協会員」であることのほかに、年間登録料2500円、もちろん利用料として基本料金500円+30円/1km、介助料2時間まで1000円、超えた分は30分ごとに400円が必要になる。さらに、登録するには、要介護・要支援認定、要身体障害者手帳、単独移動困難者のいずれかの要件を備えなければならない。利用するにはかなりハードルが高いことになる。だから、昨年度半年の利用件数は数十件だったというが、担当は口を濁していた。そして、社協のホームページを開いて「移動サービス」をクリックしても運転手の募集情報だけで、チラシの内容すら広報していない。やる気があるのか、疑わしくもある。佐倉市の福祉有償運送運営協議会は1回しか開かれておらず、利用資格の詳細にはタッチしていない。
「社協会員」を利用資格にするのって、少しおかしくない?
本来、「社協会員」になるかどうかは、住民の個人ないし世帯の任意であるはずだ。福祉事業の利用対象者を「社協会員」か否かで区別していることに疑問があったので調べてみた。結論からいえば、千葉県下の33市のなかで、社協で「移送サービス」を行っているのは木更津、習志野、柏、我孫子、袖ヶ浦と佐倉の6市ほどだが、利用資格に「社協会員」を掲げているのは佐倉の社協だけなのだ。登録料や利用料が必要なのはある程度認めよう。袖ヶ浦市などはそのいずれも無料で、しかも今年度からは従来通院に限っていたものを市内ならば他の目的などでも利用できるようにサービスを拡大したという。全国的に網羅したというわけではないが、ホームページを持つ社協に限って調査は続行中であるが、いまだ、「社協会員」を利用要件に掲げている社協を見出せないでいる。佐倉社協がいかに突出しているかがわかるだろう。
佐倉の社協は財政的にそんなに逼迫しているのか
平成15年度実績で、佐倉市での社協加入率は65%(年会費500円)で、この数字は、浦安市13%(200円)、市川市34%(300円)、成田市38%(500円)、松戸市46%(300円)と比べたら高い方だが、県下の市全体の平均的な加入率といえる。佐倉の社協は財政的に非常に困っている状況にでもあるのだろうか。
平成16年収支決算によれば、収入総額2億3752万円のうち会費寄付金収入が2600万円約11%、市からの補助金1億0648万円約45%のほとんどが正規職員14人分の人件費であり、単純計算すると平均年収740万円である。県や市からの委託金収入4234万円18%、共同募金配分金2319万円約10%弱ということになる。一方、支出総額2億2447万円のうち人件費が1億2573万円56%を占め、上記正規職員のほか嘱託、非常勤職員などの給与である。事務費3.4%、事業費支出6334万円約28%。その他の支出の中には、財務支出として福祉基金積立や職員退職共済預け金約1000万円や嘱託職員退職金積立も入っている。毎年、「社協さくら」5月号で発表になる予算の収支にはわかりにくいし、決算は広報やホームページでも発表されていない。お金の使い道を明確に広報する姿勢に欠けるのではないか。
「福祉基金」は何のため?
もう一つ驚いたのは、「福祉基金」が平成16年3月末日現在、すでに2億3942万円あり、国債や預貯金でプールしている。平成18年3月末日には2億4016万円と着実に増え続ける「福祉基金」とは何か。市からの補助金や会費を財源とする社会福祉法人が収入総額の同額以上の基金を貯め込んでいることになる。
社協によれば、大災害に備えるというが、本来ならば、日常の事業費につぎ込む財源となるべきものである。それでいて、「移送サービス」の利用資格要件に「社協会員」を掲げ、もともと任意加入であるべき1世帯500円の会費徴収を自治会に丸投げをしている実態がある。一民間社会福祉法人の社協は身の丈に合った事業をしてくれればいい。人件費に苦慮するNOP法人の福祉事業が多い中で、毎年1億円前後の人件費を市が補助すること自体、疑問がありはしないか。
これからの移送サービスの充実のために
「移送サービス」事業にあっては、全国各地ですでにNPO法人はじめ民間企業の参入も活発である。そのサービスも多様化し、利用料にも工夫が見られる。あたかも社会福祉協議会の独占事業かのような対応を黙認する行政の責任も重い。これからの高齢社会において、ますますニーズが高くなる「移送サービス」が、利用者の実態に添いながら、少しでも豊かな老後を過ごす手立てとなるよう、私たちもしっかりと見守っていかねばならないと思う。社協の「移送サービス」は私たち利用者から見れば選択肢の一つに過ぎなくなる日も近いだろう。
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