堂本知事、千葉県都市計画公聴会って何ですか
どこまでもむなしい、この公聴会制度を、地方自治や都市計画の関係者、研究者はどう考えているのだろうか。今回、千葉県における都市計画公聴会の公述人となり、その後、県・市が公述に対応する「考え方」が公表されたのを機会に疑問と感想を述べておきたい。
そもそも、公聴会って何ですか?
2006年春、千葉県は第5回目の都市計画見直し(第1回は1970年)を行い、地元説明会を経て、6月・7月には15市において見直し素案の縦覧がなされた。公述の申込みのあった習志野(5名)、印西(未発表)、佐倉(15名)、千葉(1名)の4市において公聴会が開かれた。佐倉市での公聴会は、8月19日に開催され、その模様はすでに本ブログでもお知らせした(8月24日付「佐倉市井野東・井野南開発はどうなるか」)。そこでの公述に対応する「県の考え方」「市の考え方」が、9月19日付の県・市のホームページでそれぞれ示された。すでに形骸化している公聴会なので、期待はしていなかったのだが、それにしても、その内容のお粗末さにあきれている。
そもそも、公聴会は、都市計画法16条にもとづいて、都市計画決定過程における住民意見の反映を目的として素案縦覧後に開催されるものである。しかし、条文上は「必要があると認めるときは、公聴会の開催等住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする」首長、知事の裁量にかかる任意規定である。千葉県都市計画公聴会規則によれば、公聴会の期日、公述要旨提出期限、公述人の選定、公述時間、記録等々、知事の裁量で決まるという行政にとってはきわめて「都合のいい」システムである。
住民の意見をほんとうに聞く気がありますか?
今回も、公述申出がもし15名を越えていたら抽選になるところだったし、1人10分の公述時間も厳守させられた。加えて、公表された「県の考え方」は実に形式的な文言で綴られている。各公述人の公述内容をばらして、「陳述要旨」として、いくつかの案件にまとめ、それをさらにグルーピングした上、一括して「県の考え方」が示される。要旨の作成、グルーピングも恣意的で、公述した重要事項が、まったく要旨から欠落しているものもある。そして何より、「県の考え方」として示された内容が、「良好な住環境の保全・整備」という抽象的な言葉でくくられている無内容な作文に過ぎなかった。公述人の多くは、具体的内容に即して計画案の不備を指摘、その対策を要請しているにもかかわらず、「法令等によりに適切な対策をとります」の文言を繰り返すばかりである。
これでは、住民の意見をもともと聞く気がないのではとさえ思えるのである。
住民の疑問は募るばかりです
公聴会に先立って、7月に行われた都市計画見直し素案縦覧では、千葉県決定分である「都市計画区域の整備・開発及び保全の方針、区域区分、用途地域変更」についての素案と佐倉市決定分である「土地区画整理事業について」の素案が同時に縦覧に供せられ、公聴会も同時に合同で開催された。合同になったのは、千葉県が調整区域の市街化を今後規制するとの基本方針を打ち出し、井野南の市街化を急ぐ事情があったからと思われる。一方、地元住民の間では、つぎの2点が問題となっていた。
① 区域区分―佐倉市井野南土地区画整理組合準備会対象地(約14ヘクタール)の
市街化調整区域をはずして市街化区域に変更しようとする素案
② 用途地域―すでに事業進行中の井野東土地区画整理組合事業における1工区分の
第1種低層住居専用地域を第1種中高層住居専用地域に変更しようする素案
井野南はもともと地元ディベロッパー山万のユーカリが丘第3期開発区域であったのを組合方式に乗り換えた区域である。山万はその7割以上をすでに取得し、他の地権者をふくめて8割の仮同意を得ているというから、この業者の意向も大きく働いたのであろう。京成ユーカリが丘駅近辺の超高層マンション街に隣接するロケーションでもある。国道のバイパスとなる都市計画道路建設が区画整理事業の目玉でもあり、交通渋滞の解消は図られようが、沿道の超高層ビル街化も必至であろう。山万としては、駆け込みといわれようとも、何としてでも市街化調整区域をはずして置かねばならなかったのだ。しかし、30数軒の従来からの住民の中には、開発の必要性自体に疑問を投げかける人たちも多い。
井野東の第4工区は、開発前は調整池と鎮守の森、八社大神を擁する約9ヘクタールの市街化調整区域であった。ここも、山林の大方は組合の業務代行である山万がすでに買収済みで、土地区画整理事業完了時は、保留地として山万の所有となる特約が組合内部で成立している。そして、ここに、周辺住民に知らされることなく、道路から6.5メートルの盛り土による造成がなされていた。昨2005年の春、秋には、山万から有料老人ホームなどを含む600室近い、13階建てを最高とするマンション数棟を建設するという計画も発表された。住民は、あまりの住環境の激変に驚き、怒ったというのが、この用途地域変更に伴う問題の背景である。
15人の公述人の中、井野東に触れた12人が全員、用途地域変更に反対し、井野南の市街化について触れた5人中2人が反対し、2人が積極的賛成、1人が条件付賛成という内訳であった。素案に反対した公述人は、この「県の考え方」には決して納得できないであろう。
4月の見直し説明会、7月「素案」縦覧・公述申出、8月公聴会、9月「県の考え方」公表、を経て今後は、10月「案」縦覧・意見書提出、意見要旨の都市計画審議会への送付、11月都市計画審議会での決定というコースをたどる。しかし、説明会以来、住民の疑問が解決されることがないまま、中身も何一つ変更されていない。2000年、井野東地区の線引き見直し素案に対する公聴会公述の経験と重ね合わせ、「住民意見の反映」という言葉が実にむなしく響く。都市計画法に基づく住民意見の反映という手続を漫然と進めるのが都市計画決定の実態である。
これからもたたかい続けます
東京都を例に、「都市計画への多重・多段階・多様な市民参加」をキーワードに現行都市計画法の「改革案」を提示しているグループを知った(『季刊まちぽっと』2006年8号参照)。「特定非営利法人・まちづくり支援・東京ランポ」は、つぎのような具体的な提案をしている。
①素案段階での複数案提出の義務化
②縦覧・公聴会における意見の全文・氏名の原則公開
③意見の説明の機会の保障と行政の回答義務化
④大規模開発における計画段階でのアセスメント導入
形骸化した、役所のアリバイづくり的な公聴会や意見提出の制度改革も必要だが、行政・企業主導の都市計画でなく、計画の早期段階からの市民参画が制度化されなければならないと思っている。また、都市計画決定の有効期限を定める(サンセット方式)や計画決定段階での異議申立て・第三者による評価制度なども提案されているが、まさに、持続的な戦いが強いられるだろう。
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コメント
ごみ焼却炉施設に至っては都市計画について住民との早期の納得いく対話をしてほしいもの。
風水師の立場から賛意を表します。
ブログ投稿にあたり参考にさせていただきました。
投稿: 佐藤照 | 2007年10月23日 (火) 17時00分