地域で何ができるのか~ブログを開設してみると
『新日本歌人』連載エッセイ「憲法とわたし」に寄せたものです。これまでの記事と若干重なる部分がありますが、ご覧ください。
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私が「内野光子のブログ―短歌と地域の可能性を探る」を開設したのが2006年2月だった。1982年以降参加していた『風景』が終刊になり、短歌に関する発信の場が欲しくなっていたこともある。たしかに、短歌に関するエッセイは、『ポトナム』などに発表したものも含めて、細々ながら綴ったものを登載してきた。若干の反響もあるので、それはそれで楽しみでもあった。ブログ大先輩の大津留公彦さんのリンク先としてのご案内、青磁社の掲示板に一回だけの書き込み以降、若干アクセスが増えたような気がする。
ところが、2007年8月下旬、このブログへのアクセスに異変が起きた。8月24日に、大阪高裁から「赤い羽根共同募金などの寄付を自治会費に上乗せするのは、事実上の強制で、思想・信条の自由を侵害する」という判決が出た。数年前、私の住む町内の自治会でも似たような問題が持ち上がったときの経験を踏まえて、高裁判決の正当性に触れた文章を掲載したのが、8月31日だった。以降、日を追って、この文章へのアクセスが増え続け、一週間後には、一日で100件を超えた。私のブログ史上?初めてのことで、二か月経た現在でもアクセスは続き、従来から増えた分のほとんどがこのテーマでの検索であった。アクセス分析によれば北海道から沖縄にまで及ぶ。検索ワードも、実にさまざまで、自治会・自治会費・町内会・寄付金・赤い羽根・共同募金・無効判決・違憲訴訟・強制徴収・滋賀県甲賀市・希望が丘自治会・自治会費値上げ・上乗せ・増額など種々の関係用語の組合せによるもので、検索者の思いが伝わってくるようだ。ということは、全国的に自治会や住民が直面する疑問であり、悩みの一つであったからではなかったか。
私たちの自治会でも、かつて日赤の社員、赤い羽根募金、社会福祉協議会員募集にあたって、班長は一口500円の領収書持参で各戸を回って集金していた。当時、まるで強制では、ご近所の手前断れない、募金の使い道がはっきりしない、などとする声も聞き、すこぶる評判が悪かったのだが誰も言い出せない雰囲気があった。私が役員になったとき、メンバーに家計を担う主婦が多かったこともあって、役員会・班長会で改善策が話し合われ、いずれも本来、個人・家庭の自由であって、現在の集金方式は「おかしい」、ということになった。自由意思が尊重されるよう、募金袋の回覧・手渡し方式になった。個人的には、自治会がこれらの募金の仲介をすること自体に異を唱えたいくらいだ。ともかく半端ながら、こんな方式が定着しかけたところ、会員数が伸びないという社会福祉協議会から、お宅の自治会は会員が少ないから、敬老会への招待ができなくなる、などの圧力がかかったらしい。事情を知らない新役員は危うくその手に乗りそうになった。ほぼ、時を同じくして、この街の開発業者がオーナーになっているマンションのすべてが管理費に自治会費を上乗せして自治会への強制加入をはかったのだが、入居者から表立った動きが見られない。福祉を看板にした会費や募金の強制徴収、自治会への強制加入、これらいずれも思想・信条の自由を侵す。身近な憲法問題を見て見ぬふりをしてはいないか。
憲法九条改悪や「君が代」強制は、もちろんだが、短歌と天皇制の問題にしても、今の憲法下で獲得してきたもの、失ってきたものを検証していきたい。
近年、短歌と天皇制についての拙著や発言に触れて、「怖いことはないですか」というナイーブな質問をされることが多い。「怖いから」控えていると、もっと「おそろしい」ことに加担してしまうだろう。
小さな主題から大きなものまで、ブログは有効なメディアの一つとして期待できそうだ。
(『新日本歌人』2008年2月号所収)
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コメント
こちらへも私の名前を出して頂きありがとうございました。
ブログの力は今後どんどん大きくなると思います。
トラックバックも受け付けて貰うといいですが・・・
投稿: 大津留公彦 | 2008年1月30日 (水) 23時44分