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2008年3月 4日 (火)

大賀ハスはどこへゆくのか

34日、今朝の『朝日新聞』千葉版に、検見川にある東京大学緑地植物実験所の多摩農場への移転をめぐって地元の千葉県・千葉市が大学側に異を唱えている、との記事があった。1951年、検見川キャンパスの当時農場(現在、総合運動場)の地下から、植物学者の大賀一郎博士が2000年前のハスの種を発見、その発芽に成功させ、いまでは、この地をはじめ移植先の数か所で毎年花を咲かせている。いわば、古代のロマンをかきたてる大賀ハス発祥の地でもあるのだ。緑地植物実験所には、230種のハスを育てている見本園もある。

毎年実験所内で開催されるには、開花時の朝5時から地元の人で賑わい、親しまれているという。実は私も、地元の友人に連れられて、昨年、この「観蓮会」直後の7月中旬に訪れたことがある。運動場に近い「大賀ハス発祥の地」の池に花を見ることはなかったけれど、見本園では、直径1m近い大きなハスの鉢が数百と並んだ光景をまのあたりにして、壮観でもあった。種類によって開花の時期は異なるし、開花期間が4日間と短く、開花時間となるとさらに数時間に限られるという。その日は、ややぬかるんでいた見本園の鉢の間をめぐり、昼下がりながら、その優雅な名づけとみごとに開いた何種類かの花を楽しむことができた。同じ紅ながら微妙に異なる色合い、神秘的な白蓮の幾鉢にも出会うことができた。実験所はもちろんハスばかりではない。大温室や樹木の見本園もある。

その実験所を多摩(西東京市)に移して、大学が手離す、その跡地をめぐって、千葉県が買い取るか民間の手での再開発になるのか。買い取る財政的な裏づけがない千葉県と地元は困惑している、というわけである。堂本千葉県知事は、県の天然記念物としての大賀ハスを守るためにも施設保存を、民間による開発は貴重な緑地を失う、と大学側に訴えている。

記事によれば、大学側の移転計画も2003年の方針では、他の施設を検見川キャンパスに移すはずが、2007年の計画見直しで実験所が移転する方針に一転したという経緯がある。すでに大学の役員会で決定済みの計画だというが、地元としては腑に落ちないところもあるのではないか。大学・文部科学省側は、さらに意見交換の上、地元の意向を踏まえたい、といっているというのだが、地元県民として私も、国は、大学施設の統廃合先にありきではなく、不必要な道路をつくる無駄遣いをやめて、貴重な緑地を保存し、市民にも開放的な大学施設として残すことを考えてほしい。土地を売ったとしても4.7ヘクタール、数十億の世界である。

なにせ、この文科省側の視察が26日に行われたという、1か月遅れの記事なのだ。この1か月といえば、千葉県は、中国冷凍餃子事件とイージス艦と漁船の衝突事故の地元であったわけだから、後回しにされたのか。ちなみに地元紙の『千葉日報』は、2月12日の社説で、大賀ハスは発祥の地で継承すべきだと訴えていた。(200834日)

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