やはり気になる「働く女たち」,ウィーン美術史美術館所蔵「静物画の秘密展」(国立新美術館)
昨秋のアムステルダム美術館所蔵「フェルメール『牛乳を注ぐ女』とオランダ風俗画展」(国立新美術館)に続き、この夏のフェルメール展も始まったが、会期の終りが近い「静物画の秘密展」に出かけてみることにした。連れ合いは、帰路の買い物の方が目的のようだし、前日に誘った娘も東京についでがあるとかで、久しぶりの3人での展覧会となった。
ウィーン美術史美術館の静物画といえば、何だろう。花や果物の、ときには残酷な鳥の死骸が転がっているような精密画だろうか。やはり、第1室の最初の作品は、切り落とされた頭が脇に置かれ、引き裂かれ、吊るされた「解体された雄牛」だった。日常のすぐ裏側の市場や台所に見る人間の残忍さがここまで精緻に描かれると、厳粛な気持ちにもなる。「魚のある静物」(Sebastian Stokoskopff、1650年頃)は、高橋由一の「鮭」を思い起こさせる構図である。静物画の一つジャンルとしての花束の図も、どれも決して明るくはない。その命のはかなさをメッセージとして秘めているからなのか、「青い花瓶の花束」(Jan Brueghel the Elder、1608年頃)の花瓶の周辺には、萎んで散った花片がいくつか描かれている。「朝食図」というジャンルもあるらしく、今回も何点か出品されている。また、肖像画と風俗画に属する作品も数多いが、これらの作品のリアルさとそこに秘められた「寓意」についていくつかの作品の解説に付されていたが、私には、「そこまでは読み取れない!」という部分があった。たとえば「農民の婚礼(欺かれた花嫁)」(Jan Steen、1670年頃)の事細かな解説は放棄した。あの猥雑な人物群像と一人一人の表情が実にいきいきとしていることが読み取れることができれば、十分ではないかと。
今回の展示で、もっとも気になったのが、「台所道具を磨く女」(Martin Dichtl、1665年頃)であった。整理されて重ねられた鍋や金物、その一つを根気よく磨いている表情には、時代を支えた働く女たちの、多くは決して若くはない働く女の自負がにじみ出ている作品に思えた。時には揶揄的に描かれる厨房で働く女たち、散らかし放題の食堂や台所の絵を見すぎてしまったためだろうか、清涼感さえ漂う作品に思えたのだ。残念ながら絵葉書にはなっていなかった。
今回の美術展の「看板作品」の一つはベラスケスの「薔薇色の衣裳のマルガリータ王女」(1,653~54年頃)らしい。あの王女の愛らしさが、のちの悲劇的な物語の序章のようにとらえられるからだろうか。2002年の「ウィーン美術史美術館名品展」(東京芸術大学美術館)では、「青いドレスのマルガリータ王女」(1659年)がやはり評判であった。そういえば、「魚のある静物」「農民の婚礼」、「青い花瓶の花束」、「朝食図」(de Heem、1660-69年)「楽譜、書物のある静物」(Bartolomeo Bettera、17世紀後半)などは、このときにも出会っているはずなのだが。
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