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2009年5月 6日 (水)

NHK、皇室への姿勢~二つの番組から

新年度からのNHKの番組構成がまだ頭に入らない。NHKスペシャル「象徴天皇 素顔の記録」(410日午後730分~)・NHKスペシャル「天皇と憲法」(シリーズJAPANデビュー第2回、53日午後9時~)の2本を見た。録画はとったもののまだ見直してはいない。リアルタイムでの放送を見た限りの感想を簡単に記しておきたい。

「象徴天皇 素顔の記録」

天皇皇后の結婚50周年を念頭において、これまであまり踏み込まなかったプライベートな映像を交えて夫婦の歩みをたどり、その「素顔」に迫ろうとしていたことがわかる。特殊な体験をしながらもおだやかに老境を迎えようとしている夫妻のプライベートな暮らしはたしかに視聴者の興味をそそるかもしれない。しかし、この番組は、それにとどまらず、天皇(夫妻)が個人的な信条や配慮からなされたとする、さまざまな発言や行動を、象徴天皇制のもとで位置づけ、その積極性を高く評価しようとしているように思われた。

しかし、そもそも生身の人間が憲法上の象徴天皇制を具現しようというところに、制度上の無理があると考えられる。政治とはかかわらない「国事行為」のみの任務が背負わされる中で、天皇(夫妻)が個人的に、誠実に、賢明に、行き届いた配慮のもとになされたとしても、その発言や行動は、個人的なものではありえず、国家が負うべき戦争責任やときの政府の福祉政策や災害対策などの至らない部分を補完する役目を果たすことになり、本来の政治のあるべき姿を求める国民の批判の目をそらす結果をももたらすことにはならないか。沖縄への慰霊の旅、阪神淡路大震災地、福祉施設への視察など思い当たることも多い。

いま、大事なことは、天皇(夫妻)の個人的な信条や心情とかかわりないところでの役割、それを利用している人々が存在するという危機を認識することではないか。日本が、憲法上、天皇制を抱えてしまった以上、皇室が存在するのは仕方がないという前提に立てば、皇室の方々には、なるべく質素ながら、自由に暮らすることができる仕組みを作り、見守るしかないのではないか、という思いである。

「天皇と憲法」

 見終わってみると、これが日本国憲法の施行された日を記念する番組?という疑問が去らない。「明治憲法と天皇」と題した方がいいような内容であった。大日本帝国憲法の制定過程に時間をかけていた。日本国憲法は、確かに、手続き的には大日本帝国憲法を改正して成立したものなので、日本国憲法制定前史として、日本近代史において明治憲法と天皇という制度がたどってきた道を知ることは重要ではある。しかし、今回の内容が明治憲法であったのはいささかアテが外れた。

 明治憲法制定当時の「万世一系」の文言をめぐる論議、大正期における政党の対立、天皇機関説をめぐる学界の論争、天皇の統帥権をめぐっての軍部の台頭などに焦点があてられていた。その焦点の当て方も、御厨貴、立花隆、山室信一という研究者や評論家の解説に依る部分が多く、研究室やキャンパス、議事堂内外などを背景に、その発言自体が権威主義的な、何か重々しい雰囲気で語られるのだった。天皇をめぐる二項対立的な図式的な論争として捉えることが多く、伊藤博文・井上毅とロエスエル、山形有朋と犬養毅、美濃部達吉・上杉慎吉らの対立を際立たせ、人物評伝的な歴史として受け取られがちな構成であった。戦局や政治家、学者、軍人たちの攻防の歴史ではなく、明治憲法下の各時代における国民の生活実態や運動、そこから発せられるメッセージ、植民地政策にも光を当てる視線が必要ではなかったか。山室は、天皇を「利用する」人々や勢力のあることを何度か強調していたが、具体的に言及してほしかった。今後のシリーズで丹念にたどってほしいテーマはたくさんある。今後の行方を見守りたい。

 JAPANデビューの第1回「アジアの一等国」での日本統治下の台湾の捉え方をめぐって、「日本李登輝友の会」などからのNHKへの抗議運動が活発化している。きちっとした歴史認識を踏まえ、日本の歴史教育の間隙や歪みを埋めるべく、メディアの役割を果してほしい。私が仕事を退いた後、学んだ先で提出した論文が「日本統治下の台湾におけるマス・メディアの形成と天皇制」であった。この番組についてもいずれ検証したいと思っている。NHKも民放のマネをして、お笑い芸人やタレント学者を起用するのだけはやめてほしい。面白おかしく盛り上げたり、音楽やナレーションで妙に情緒的に傾いたりすることなく、問題提起と判断材料を的確に伝達してほしいのだ。

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