インターネット「歌壇」はどうなるか(6)大急ぎでまとめてみると
インターネットの効用で着目したのは、歌集のオンデマンド出版の可能性だった。オンデマンドとは、コンピュータへの原稿入力により編集が容易になる上、注文によって必要な部数の印刷・製本が可能になるシステムで、二〇〇一年に、前述のSSプロジェクトが出版企画の「歌葉(うたのは)」を立ち上げた。従来の自費出版歌集に比べて費用は半分といわれた。若い人の個性的な歌集も発売されたかに記憶している。その後どのくらい定着したのだろうか。歌壇では相変わらず、歌集専門の出版社からの自費出版が主流を占め、歌集の贈答が日常化している。出版に関する契約書が交わされることもないのは、歌人が寛容だからなのか、会社が零細で、社主の多くは詩歌にかかわっていたりするからか、歌集出版の旧弊が改まりそうにもない。冒頭部分で掲げた笹井宏之第一歌集『ひとさらい』(二〇〇八年)は、第四回「歌葉」新人賞(二〇〇五年)の副賞での出版で、「歌葉」は、現在三六冊の広告を出し、出版の注文も受付けているらしいが、最近の動向がわからない。「歌葉」新人賞も二〇〇六年を最後に中止らしい。
そういえば、二〇〇九年の「短歌研究新人賞」選考委員には加藤治郎、穂村弘が加わり、受賞者やすたけまりは「うたう☆クラブ」で穂村コーチの指導を受けたという。「現代短歌評論賞」受賞者山田航はブログ上で文章を書き始め、「かばん」に所属、「角川短歌賞」も同時に受賞した。昨年の角川短歌賞受賞の光森裕樹は「短歌ポータルtankaful」を開設、丹念な情報収集力も発揮している。
一方、荻原裕幸は、インターネット「歌壇」からは一歩退いた感じで、歌会や句会を楽しみ、後進の指導や読書に勤しむ様子を淡々とブログに綴り、「世俗」とは一線を画したようにも見える。また、前述のように『短歌ヴァーサス』の終刊、藤原龍一郎のブログ終結に続いて、二〇〇九年には、三月に風間祥「銀河最終便」、五月には奥村晃作「短歌ワールド」の休止・閉鎖などの動きがあった。これらの一連の動きは何を意味するのだろう。歌人によるインターネット上の発信が、一つの役目を終えたということなのだろうか。予告もなしに賑わっていたサイトが消えるのは、急にシャッターが下ろされる商店にも似て、一抹のさびしさを感じる。
なお、既成歌壇とは微妙な距離を保ちながら、また、結社内に在りながら自らの広報戦略により着々と地を固めている中堅、若手によるHPも散見する。彼らはこれからどんな軌跡をたどるのだろうか、興味深い。
インターネットが短歌自体と既成短歌メディアに変貌をもたらした。その現況を短歌作品に即し、歌人・結社・グループなどが立ち上げる個別のHPやブログを訪ね、交わされ続けているインターネット「歌壇」批判も踏まえながら、稿を改め解明できればと思う。
<注記>蓄積と更新状況により主として以下の「リンク集」を参考にさせていただいた。
①ちゃばしら@WEB短歌関連リンク集(二〇〇二年一一月~、二〇〇五年一〇月ごろ最終更新か
②電脳短歌イエローページ:SSプロジェクト管理、一九九八年二月二七日~二〇〇五年二月
③小林信也の短歌のページ:一九九六年七月一二日~、二〇〇九年一月現在閉鎖サイト明示
④『短歌21世紀』ホームページ:文学・大学関係など広範囲
⑤短歌ホームページ:大谷雅彦、一九九六年四月二五日~最終更新二〇〇九年一月五日
⑥短歌ポータルtankaful:光森裕樹、二〇〇六年開設置~書籍情報、各種短歌賞記録なども充実
⑦笹公人の短歌プロジェクトBlog笹短歌ドットコム(お隣ページ):二〇〇六年五月八日~。二〇〇五年四月開設笹公人の短歌blogのリニューアル
⑧ Map@Ogihara com.:荻原裕幸関連サイト更新中
(『ポトナム』2009年12月号所収)
連載を終えて
今年の2月から『ポトナム』に連載してきました「インターネット歌壇はどうなるか」は、大急ぎでひとまず、終わりました。私にとりましては、やや情報過多の消化不良気味ではありますが、せっかくここまでたどり着いたので、今後もウォッチを続け、インターネット「歌壇」について書いてみたいと思っています。アクセスしてくださった方、他の紙面でご教示くださった方、ありがとうございました。
今晩から、NHKではじまるという「坂の上の雲」、NHKのこれでもかこれでもかという鳴り物入りの番組宣伝の一つなのでしょう、朝の「ありがとうノボさん・正岡子規の日本語改革」を見るともなく見ていると、『ホトトギス』での試みを「ネット時代の先駆け・・・」とのナレーションまで聞こえてきたのです。なんだかな、少々走り過ぎではないかなという感じでした。これからは、巷にも、歌壇にも、正岡子規評論家が増えるかも・・・。
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