美術館とカフェと~ノルウェー、デンマーク早歩き<9>ノルウェーの女たち、総選挙に垣間見る
ノルウェー旅行中の8月下旬、ベルゲンで出遭った街頭演説会が気になっていた。ちょうどホテルの前の広場で、多くの聴衆を集め、力強く語っていた女性政治家は誰だったのか。9月14日がノルウェーの総選挙だったことは後で知った。最近、ノルウェーのオフィシャルサイトで、この国政選挙のレポートを見つけた。書き手は、かつて東京都議会議員をされていたノルウェーに詳しい三井マリ子さん。国会議員の約4割を女性が占めるようになったノルウェーの政治に、ジェンダーの研究者として切り込んでいるレポートだった。選挙制度、国と地方の関係など、日本とは随分と違い、とても興味深いものがあった。また、JANJANニュースにも同様の記事がある。関心のある方は、是非これらのサイトをご覧になってください。
私たちがベルゲンで見た演説中の政治家は、その風貌から、今回の選挙で労働党、中央党とともに連立政権を組むことになった左派社会党党首のクリスティン・ハルヴォシェンだったらしい。
選挙結果が判明した9月14日の深夜、記者会見に臨む七大党首が並んだ写真が出ている。最大与党の労働党は男性だが、左派社会党と中央党はともに女性党首だ。大きな伸びを見せた野党の進歩党と保守党の党首も女性で、7人中4人が女性である。スウェーデン、デンマーク、フィンランドのように保守中道が政権奪取するのではないかとの予想に反して、連立による社会民主政権が続投になり、連立が2期連続というのはまれなことらしい。投票率75.4%、169議席のなか連立与党で86議席(労働党64、左派社会党11、中央党11)というぎりぎりの過半数であった。169議席の中、女性66人(39%)、3688人の立候補者の中、女性が1557人(42%)であった。労働党に次いで41議席を獲得した進歩党の女性党首シーブ・ヤンセンは、イギリスのサッチャーを尊敬するといい、減税・移民排斥・民営化を主張して、TV討論をリード、次期首相候補と目されていたという。今回の選挙の争点の一つに男女賃金格差(男性100に対して女性85)があった。ちなみに日本での比は100:66なのだ。女性の男女社会進出が最も進んだ国、福祉が進んでいる国として際立っているが、福祉の民営化が問題になっていることも知った。
ノルウェーの選挙は比例代表制、19県選挙区で支持する政党を選ぶ。選挙権も被選挙権も18歳で与えられる。ちなみに女性の参政権が認められたのは1913年とかなり早い。今回の選挙には23の政党が名乗りを上げた。政党や政治団体は、各県の選挙管理委員会に立候補者リストと党規約を届け、既成政党は、全国で5000票、当該選挙区で500票以上獲得しているのが条件で、新規の場合は当該選挙区の住民500名の署名を付すればよい。さらに各政党は、投票日の約半年前の3月末日までに各選挙区の定数以上の立候補者リストを提出しなければならない。ただ、候補者リスト登載には本人の承諾は不要で、むしろ断わってはならないらしいのだ。当然ながら、現実には、事前の合意がなされているというのだが、立候補者数が多いのもそれで頷ける。選挙運動の期間の定めやその方法にも制限はないという。
2009年9月国政選挙 政党別得票率及び女性議員数・割合
政党 |
得票率 |
女性議員数(総数) |
女性比率 |
労働党 |
35.4% |
32(64) |
50.0% |
左派社会党 |
6.2% |
3(11) |
27.3% |
中央党 |
6.2% |
7(11) |
63.6% |
保守党 |
17.2% |
9(30) |
30.0% |
キリスト教民主党 |
5.6% |
4(10) |
40.0% |
自由党 |
3.9% |
2(2) |
100% |
進歩党 |
22.9% |
9(41) |
22.0% |
赤色選挙同盟 |
1.3% |
||
合計 |
66(169) |
39.1% |
(三井レポートの表と記事から作成)
なお、私が気になったのは、政治と王室の関係だった。1905年、ノルウェーはスウェーデンから独立、デンマーク出身のホーコン7世が国王となった。2005年5月には国交樹立100周年で日本から天皇夫妻が訪問している。国王と王室は政治的実権を持たず、象徴的な存在で、国民に親しまれているという。一方、国王は週1回の閣議に参加するというのだ。また、王室の開放的なことは、2001年皇太子が長い恋愛期間を経て、シングルマザーと結婚したというニュースで私たちにも伝えられている。1991年即位した現国王ハーラル5世がオスロのデパート経営者の娘と結婚したのが1968年だったという。なお、1990年の憲法改正で女子の王位継承も可能になった。日本の皇室との違いや共通点、今後の天皇制を考える上でも参考になりそうだ。
| 固定リンク
コメント