« ノルウェーとデンマーク、日本との違いは何か(1)三井マリ子さんの講演会 | トップページ | マイリスト「すてきなあなたへ」に59号が登載されました »

2010年5月 2日 (日)

ノルウェーとデンマーク、日本との違いは何か(2)ケンジ・ステファン・スズキさんの講演会

 

 佐倉市市民オンブズマンのお二人の方から案内を頂いていた。「デンマークという国について」との演題、429日(木)、佐倉市立美術館ホールの午後、すでに会場は満席に近かった。スズキさんの名前は初めて聞くのだが、略歴によれば、学生時代の1967年にデンマークに渡り、大学で学び、航空会社、大使館、農場と職場を変え、1979年にはデンマーク国籍を取得、1990年代には、デンマークの風力発電などを日本に紹介・普及させる事業を手掛け、環境教育の場としてデンマーク、日本に「かぜの学校」を開設・運営するようになる。現在も両国を往来し、講演活動などで多忙な日を送っている、とのことだ。

まず、デンマークの高福祉政策の実際とそれがなぜ可能になるのかを話された。まさに、ゆりかごから墓場まで、出生、育児、教育、就職支援、医療、年金などすべてを国が責任を持つ制度は、国民の納税額の再配分による「共生」が根幹であると。親の子供の扶養義務は18歳までで、以降は国が負担、大学生の教育費はもちろん生活費まで保障される。思うような仕事に就けない場合でも、生活費は保障される。働けば15歳以上から納税義務が生じ、25%の消費税を含めると、総所得の約50%が税金となり、個人番号制により徴税は徹底しているという。働かなくても生活費が保障されるならば、国民は覇気を失いみんな怠けものにならないかの疑問に、スズキさんは、デンマーク人は実によく働くという。人間は自立したい、社会に貢献したい、働く喜びのある暮らしを望むのが自然で、そんな心配は無用だと明言された。

さらに、高福祉の実現は環境問題との切っても切れない関係がある。環境悪化は医療・福祉の負担が増大し、健康に生きるためには大氣と水の汚染防止が不可欠となり、食やエネルギーの自給が課題であると。

そして、話の後半は、資源の少ないデンマークがEU諸国で、エネルギー自給率100%を超える唯一の国であり、風力発電が盛んになった歴史から、さらに麦わら、木材、家畜の糞尿などによるバイオガスなどを再生エネルギーとする政策の実態と工夫、廃棄物の65%再利用され、26%は燃料化され、埋め立てと特別処理に回るのがわずか9%であることなどに及んだ。

スズキさんは、最後に、デンマーク社会の根幹は、教育、とくに倫理哲学教育の徹底、情報公開による民主主義の追求、中高生からの政治参加、女性の社会進出、権力者監視のオンブズマン制度にある、と結ばれた。

会場の参加者からは、風車の環境への影響、健康被害についての質問があった。日本では正確なデータがとれないということであったが、デンマークでは、建物より300mは離す、騒音は40デシベル、低周波は20デシベル以下という基準があるという。日本の各地で、すでに風車による健康被害が続出しているので、その導入は手放しでは喜べない。山の多い国土環境から慎重な設置が必要と思われるが、被害の少ない洋上設置が一つの方向なのだろうか。

最初は、とても信じられない気持で、別世界の話として聞いていたデンマークのエネルギー政策の転換は1973年オイルショックがきっかけだったというから、その後の日本のエネルギー・環境政策を思うと、まったく実現不可能ではなかったことが分かるのだった。

昨年の夏、オスロへの空路の中継地だったコペンハーゲン空港、洋上に並ぶ風車が描く弧は強烈な印象だった。ウインドファームと呼ぶそうだ。また、ノルウェーからの帰路、2日ほど過ごしたコペンハーゲンで、自転車専用道路を疾走する通勤の人々の群れ、抵抗博物館でのナチスへの抵抗の足跡を目の当たりにしたのが思い出された。

また、昨年末見た、デンマークに侵攻したナチスに抵抗した二人のテロリストの愛と苦悩を描いた映画『誰がため』は、本国での観客動員数は記録的だったいう。実在した二人が抵抗組織のなかで果たす要人殺人のクールな描き方に、私などは違和感を持ったものだが、国民からの賛辞は揺るがないようである。

デンマークから学ぶことはまだたくさんありそうな気がした。

|

« ノルウェーとデンマーク、日本との違いは何か(1)三井マリ子さんの講演会 | トップページ | マイリスト「すてきなあなたへ」に59号が登載されました »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« ノルウェーとデンマーク、日本との違いは何か(1)三井マリ子さんの講演会 | トップページ | マイリスト「すてきなあなたへ」に59号が登載されました »