インターネットの中の短歌情報~楽しく、役に立つ私流ネット検索(4)出版社のホームページやブログの役割
12 本阿弥書店
『歌壇』の出版元で、書店のホームページでは『歌壇』『俳壇』の最新号目次のみが見られる。あとは自社出版の各種短歌賞受賞の歌集歌書を中心に短い解題がつけられた出版情報である。トップ画面は本阿弥秀雄社長の挨拶なのだが、他の情報量が少なく、ややさびしい。
13 柊書房
トップページには、最新刊歌集歌書四タイトルの表紙画像と小解題つき出版情報が見られる。「書籍情報」は、そのトップページの累積で、刊行年月の遡及順に淡々と並ぶ。在庫の有無も記されているから、網羅的な出版目録なのだろうか。このようなどの本にも平等な情報の蓄積は大事なことかもしれない。冒頭に一覧があるとありがたい。ほかに「オススメ」欄の一頁を付す。管理人は影山一男(コスモス)か。『歌壇』の編集長(一九八九六~九六年)から一九九七年にこの出版社を興している。
14 六花書林
ホームページの管理者は宇田川寛之(短歌人)。開設は二〇〇六年九月一日。出版の歌集・歌書の表紙画像と出版事項が示される。まとめて眺めてみると評論集なども積極的に刊行、良心的な仕事をされているな、と思う。管理者のブログは「六花書林日乗」として、随時更新されている。やはり自社出版物の情報が主であるが、仕事やプライベートな記事も多い。最近、「お詫び」と題した次のような記事が気になった。
先日発行の松木秀『RERA』において村上きわみ氏のサイト「gedo日記」の記事より、引用の範囲を越える類似をなした短歌が一三首あり、それが作品としての独自性に欠け、権利を侵害していると判断したため、一三首を削除、整合性をとるため加えて二首を削除して改訂版を刊行することになりました。 (後略) (二〇一〇年四月二七日)
初版を回収し、改訂版刊行次第送付する旨のお知らせと購入者へのお詫びが綴られていた。内容が分からないので、村上きわみ「gedo日記」にあたってみると 次のような記事を見出すことができた。
松木秀氏の『RERA』(六花書林)には、私、村上きわみのtwitterでの書き込み並びに、当「gedo日記」の引用からなる短歌作品一三首が含まれております。今回、作者および出版元の六花書林さんとご相談した上で、該当する作品を一覧として発表することになりました。(後略)(二〇一〇年四月二六日)
http://www.sweetswan.com/kirin/k/sunbbs.cgi
780:ご報告2010年4月26日
781:ごあいさつ2010年5月7日
村上氏は、上記短歌作品収録について歌集を読んで初めて知り、「どのように感じたかをことばで説明するのはとても難しい」が「色々な意味で残念に思っている」と記し、その後、二〇年以上短歌とつきあい、短歌自体を「複雑なかたちで愛し」「その気持ち、二〇年かけて育ててきた短歌への気持ちをどうしても守る必要がありました。終始混乱しながらも、その一点だけは、手放さずにいたかったのです」(「gedo日記」五月七日)と謙虚に記している。さらに、「自分は権利を主張したかったわけではない、そのように見えたのなら自身の粗雑さゆえ」とも述べている。次号になってしまうが、その「引用の範囲を越える類似をなした短歌」の実態を知った。一三首の差し替えで済むものなのだろうか。出版元の村上氏へのオフィシャルなお詫びが見受けられないのにも不安を覚えた。
上段が村上氏の「gedo日記」の該当個所で、下段の★印が『RERA 』収録の短歌作品であり、改訂版で差し替えたという作品である。 村上氏の日記は、多くは、日ごとに一編の詩のようでもあり、日記の最後には本文のどこかでつながる、古典から今にいたる短歌や俳句、ときには自作の短歌が付される。
(1)二〇〇五年一二月一九日「してしまう」
すこし浮いているらしかった
輪郭がたわたわする
のどごしのいいものばかり口にして
あまり脳をつかわづにいる
あちこちで氷柱が育っている
旅人を鳥が氷にしてしまう 正岡豊
★のど越しのいいものばかり口にして
あんまり脳をつかわずにいる(二五頁)
(2)二〇〇六年一一月二九日「原液」
(前略)
このふゆさいしょのゆき
ずいぶん待った
ごめんごめん と
鼻のあたまでたちまちとけてゆく
ゆきめ(後略)
★ずいぶん待った今年最初の雪がもう鼻のあたまでたちまち溶ける(八一頁)
(3)二〇〇七年一月二四日「舌」
導かれているのだろうか
空にふくまれている水の重さそのままに
すこし眠いからだで真夏のことを思っている(後略)
★空にある水の重さをそのままに真夏のことをおもいつつ、冬(八一頁)
といったような具合に、村上氏の一三か所の日記の該当部分(傍線)と松木氏の★印の短歌を並べてみると、どの作品も村上氏の発想と表現が酷似している。というよりひらがなを漢字にかえただけというものもある。村上氏は声高には言わないが、やはり著作権を侵害しているのは明らかなのではないだろうか。松木氏、出版社の責任の取り方も別にあったのではないか。なにか事なかれ主義で、タブー視することだけはやめてほしいと思った。
15 北冬舎
ホームページの管理者は、編集・発行人の柳下和久。いつ開設したものかホームページ上の明記はない。いちばん古い出版物として、一九九五年畑彩子『東京』が載っており、『北冬+(Plus)』というPR雑誌が二〇〇三年四月~〇四年六月に四冊、その後は『北冬』として、二〇一〇年五月までに一一冊を刊行している。その最新号の「特集」をみると「[北村太郎]の探し方」(7号)「[身体]に良い歌」(10号)「[山中智恵子]の居る場所」(11号)などがあり、若手・中堅の歌人が執筆している。出版物を見渡せば、詩集・句集なども手掛けているのがわかる。
以上が、短歌関係出版社が開くホームページを巡ってみての紹介と感想である。所載の情報量にもよるが、常に情報の新しさを保つ重要性を維持、つまり更新をし続けることの難しさは、個人のブログを持って初めて体験した。出版社のホームページは「営業」という目的がはっきりしているが、自社の出版情報を地道に伝達し、それを蓄積するだけでも意味があると思う。
私が知る限りでも、歌人や短歌に関心のある人たちのホームページ、ブログは多岐にわたる。宗匠然とした態度が前面に出たり、読者や同行者の獲得に必死だったり、自己顕示欲の強さにうんざりすることも多いが、短歌を愛しながら、短歌以外にも広い、ときには深い関心を示す人たちを求め、私のネットめぐりは続くだろう。紹介したい個人のブログはたくさんあるのだが。(続く)
(『ポトナム』2010年8月号・9月号所収)
| 固定リンク
コメント
未来に繋げる短歌の世界
国策にもされず 純粋な詩歌であって欲しいなと
強く思います。
投稿: デイーチャ猫のママ | 2010年9月 4日 (土) 09時51分