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2010年9月 7日 (火)

「NHK、ETV特集・60年安保―市民たちの1か月」を見る

ETV特集・シリーズ安保とその時代(3)60年安保―市民たちの1か月

201095日午後10時~1130分放送

 最近、『樺美智子 聖処女伝説』(江刺昭子著 文芸春秋 2010年)を書評する機会があり、すでに本ブログでも625日付で読後の感想を書き、725日にはその書評自体も再録をしている。学生時代に「60年安保」を体験した者として、表題のETV特集を見た。私はノンポリの一学生に過ぎなかったけれど、1時間半の番組を見終わって、「市民たち」の新安保条約可決から自然承認までの「1か月」に焦点をあてたかのような表題に違和感を覚えた。

開拓地を基地にとられた山形の農家の人たち、徴兵制への不安から立ち上がった函館の高校生たち、三井三池争議の炭鉱の労働組合員たち、また戦争に巻き込まれるのはごめんだと大田区や中野区の商店街の人たち、アメリカの施政下にあって日本復帰を願っていた沖縄の人たち、居ても立ってもいられなかった「声なき声の会」の人たちが、同時多発的にやむにやまれず安保反対のデモに参加していた。何かが変わるかもしれないと信じた人々、フランス式デモで見知らぬ人の手のぬくもりに感激したという人々の素朴な気持ちと表情を、番組は、たしかにとらえ、伝えていたと思う。

しかし、番組では、行動的には彼らに先行した、当時の学生活動家たちの面々へのインタビューやコメントがかなりの時間を占めていた。多く「ブント」と称せられた、全学連主流派だった人が登場するときは氏名と在学大学名・学年が示さるのだが、小島弘、葉山岳夫、篠原浩三郎らが、その後どのような道をたどり、現在、何をやっているのかをも示してほしかった。彼らは、当時、安保反対=軍事同盟粉砕の認識で、日本の軍国主義化を阻止するという目標を掲げていた。小島の「弱い大学のラグビー部の連中は、警官隊とぶつかるのを楽しんでいた」とか、葉山の「国会構内突入は、反主流派のハガチー事件への対抗的戦術だった」とかの発言は、自らの行動を落としめ、その無責任さを今に引きずっていることにならないか。そんな言質をとらえるのがこの番組の趣旨ではなかったろう。

さらに、当時の政治家、政党人では、存命者も少なくなり、岸信介内閣の閣僚の一人だった中曽根康弘、赤城宗徳防衛庁長官の秘書だった水野清、安保改定阻止国民会議事務局次長だった伊藤茂らが登場するのだった。彼らの政治的な言動の曲折やブレも相当なものだが、当時学生だったという江田五月や横路孝弘が登場するとどこかひ弱で見劣りがしてしまう。両人とも「社会党」政治家の二世であり、学生運動を経て、弁護士となるのだが、父親の急逝により政治家に転身、その後、たどってきた政治家としての足跡、期せずして衆・参の議長へ上りつめられたのは民主党に拠っていた結果でもある。アメリカとの軍事同盟による核の抑止力などという幻想に惑わされ、いまだに基地を提供し続けるという民主党に拠っていること自体、不思議な夢をみているようだった。

当時の学生たちに遅れて、大学の教授たちが安保反対の活動に参加し始め、新進の研究者だった石田雄は、多くの大学人たちが過去の軍国主義下でおかしてきた過ちへの悔恨が動機であったと語り、60年安保以後、軍事同盟について明確に突き詰めてこなかった反省があって、現在の若者たちに安保の本質を語り続けている映像に、やや救われる思いがするのだった。

60年安保を、今語るのであるならば、他国に例を見ない、偏頗な軍事同盟を今に引きずるに至った経緯を、日本政府の拙劣な政治と外交をたどるべきではなかったのか。60年安保を、かつては燃えていた若者たちの同窓会のセンチメンタリズムで束ねないでほしい、というのが番組への率直な感想であった。

次回は、60年安保に賛成した人々、石原慎太郎らによる「若い日本の会」などをたどるそうだ。これが、NHKの「バランス」のとり方である。なお、今回の番組の末尾にも登場した石原慎太郎は、東京都のど真ん中に横田基地がいまだあることに関連して、アメリカにものが言えない日本の情けなさを「アメリカの妾」と称していた。相変わらずの品の悪さと女性蔑視は治りそうにもない。そこをあえて放送したのは、まるで視聴者を次回につなげるNHKのものほしげな手法に見えてきた。

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