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2010年9月20日 (月)

ある講演会のあとで~雁屋哲氏にお会いして

思いがけない展開で、「美味しんぼ」の原作者雁屋哲氏と数人の会食の席に、私もご一緒できることなった。

918日、調布(市文化会館たづくり)での安川寿之輔氏「日韓併合と福沢諭吉~坂の上の雲は明るい明治か~」の講演会にオーストラリアから帰国後間もない雁屋氏が参加された。講演会後の会が企画され、お誘いを受けた。もとはといえば、「坂の上の雲」批判つながり、福沢諭吉批判つながりで、安川氏と雁屋氏が最近知り合い、中塚明氏・安川氏と共著を刊行したばかりの連れ合いがその会に誘われ、安川氏がマンガ『日本人と天皇』の著もある雁屋氏に拙著『短歌と天皇制』『現代短歌と天皇制』を紹介されて、私もお誘いを受けたという次第だった。

雁屋氏の本は、マンガ『日本人と天皇』(いそっぷ社 2001年、のち講談社α文庫)刊行後間もなく入手、読んでいたくらいだった。大学サッカー部を舞台に、スポーツやその周辺にただよう「天皇制」の残滓をひとりの部員が理解者と共に払しょく、改革してゆき、チームとしても強くなってゆくストーリだった。よく調べてあるマンガだな、と思い、参考文献の多さにも驚いたことを思い出す。それでもグルメマンガぐらいにしか考えていなかった「美味しんぼ」、断片的に雁屋氏のことについては読んだことはあっても、「美味しんぼ」までにはいたらなかった。

お誘いを受けてから、文庫の「美味しんぼ」、新刊の「美味しんぼ」を書店で探したりした。そして、ブログ「美味しんぼ日記」にもたどりつき、氏の関心の広さと探求の深さにあらためて驚いた。20数年前、「美味しんぼ」が爆発的人気を得た直後、お子さんの教育を考えてオーストラリアに移住したこと、以来、仕事はシドニーで、年に数か月、日本に帰国して取材や資料収集などの仕事をこなすという。

会食は原宿の「S」という和食のお店。雁屋氏、安川氏、関係の新聞社、雑誌社、出版社の方々と私たち二人。談論風発ながら、日本の近現代史とくに、当日の安川氏の講演のテーマだった福沢諭吉から始まり、日朝関係、教育、戦争責任、天皇制、メディアの役割などをめぐって、雁屋氏の基本的な姿勢を伺う展開になった。雁屋氏は理系の出身で、論理的、実証的であることを旨とし、曖昧な、感情的な対応には手きびしい。例えば、福沢諭吉信奉者や擁護論者には、福沢の著作をしっかり読んではいないことが多い、日本の、天皇の戦争責任を断ずるためには、日本の旧植民地での暴虐や政策の実態を知ること、日本の識者の変わり身の早いことなどを強調される。近く、福沢諭吉についても書く構想があるそうだ。

そうした議論の合間に、運ばれてくる料理、一品一品にいたるコメントや給仕の方・料理人の方との素材や産地、料理法までのやり取りが聞いてとれるのだった。私にとっては初めてで、格別美味しかったのが、すっぽんのスープ、猪肉の角煮、ぎんなんのてんぷらの小どんぶり、パッションフルーツのゼリーなどだった。。雁屋氏の「美味しんぼ」105冊目の新作は、食の安全をテーマに10月に発売される。次には国家的な公害、ダムについても執筆の由、その創作・研究意欲とに大いに刺激を受けた一夜であった。

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