「自治基本条例」の行方
「自治基本条例」は役に立つのか
11月2日付の「こうほう佐倉」で「佐倉市自治基本条例(素案)」を読んだ。タブロイド判見開き2頁におさまっていた。やっぱりというか、案の定というか、条例案の内容は、下記のサイトで読んでいただければわかるように、「永く市民の行動規範となっている佐倉市市民憲章での精神を礎に、佐倉市の自治の原則を明らかにし、もつて市民の力が最大限に発揮される自立した市民社会を築いていくためにこの条例を制定します」と、その制定趣旨を「前文」にうたう。続く各条項においても、美辞麗句を掲げながら、「努めるものとする」という努力目標、「~ものとする」という確認、「しなければならない」とあれば、「別に定める条例の定めるところにより」という要件が付され、順守のための縛りがないまま、「理念と決意」を表明する文言が続く。市民にとってはなんの保証もなく、毒にも薬にもならない、いわば「無用の長物」を取りまとめたわけだ。いや、百害あって一利なし、といってもいいかもしれない。「大きな声であいさつしよう」「気をつけよう、甘い言葉と暗い道」の方が、まだ実があるかも知れないのだ。策定市民懇談会を立ち上げ、通信委員の意見を取り入れながら、この半年間に開催された13回の会議の成果なのだろうか。
<参考>(仮称)佐倉市自治基本条例(素案):http://www.city.sakura.lg.jp/shiminkyodo/200sanka/010bosyu/20101102_010325000_03_01_.pdf
自治基本条例懇談会委員に応募してみたが
何を隠そう、今年3月に、私も2人の市民委員(全体で市の推薦3人を含め5人)の公募に応募した。のっけから基本自治条例不要論というわけにもいかず、次のような応募作文を提出した(資料①)。 「こうほう」に応募の期間を延長する旨の知らせもあったので、応募が少なかったのだろう。それでも十数人の応募があったということで、私には、落選の知らせが届く。意見提出のみが義務付けられる「通信委員」の応募を勧める文面も付されていたが、落選者の「ガス抜き」のような気がして、放置したままだった。
ある会派のA市議から、今回の懇談会の市民委員はよくわかっている人だと思うし、座長のS先生も自治基本条例先進都市の流山市での策定に参画した研究者だから安心、のような話を聞いていた。しかし、座長のS氏については、私も一期だけ情報審議会の公募委員を務めたとき、顔を合わせていたような気がする。私は皆勤だったと思うが印象が薄い。S氏が他の審議会の委員長時代の進め方を傍聴席で見ていたり、ある会のアドバイザーとして意見を述べたりしていたのを聞いたこともあったが、結局は行政の代弁者のような不信感が残るのだった。それだけに、自治基本条例市民懇談会の行方は気にはなっていた。
“信頼厚い”学者と裏切られやすい市民たち
そんな折、市民活動家のBさんからは「市民サイドに立って考える、とてもいい感じの座長」との報告も入っていた。ぜひ懇談会の傍聴にと誘われたこともある。また、最近、ある会で出遭ったC市議に「自治基本条例って必要なんですか」と尋ねれば、懇談会半年、素案・バブコメ・議案というのはいかにも拙速なので、「急ぐな」と市長に申し入れたという。いずれも革新的な会派や政党の市議や市民なのだが、「市民の手による立派な自治基本条例を策定する」のが前提になっていた。そして、素案が「こうほう佐倉」に発表になると、ふだんから市政に関心の深いDさんが「12月市議会に自治基本条例議案は提出しないで下さい」という署名用紙を持ってこられた。「座長の最初の説明は立派だったけれど・・・」といい、A市議も、あの座長の強引なまとめ方には問題がある、と会派のチラシに書いている。
どこか、みなさん、信用したのに裏切られた悔しさを漏らす。行政や学者に「今度はやってくれそうだ」という期待感が甘いんだなあ。行政は、懇談会も他の審議会同様、市民や専門家に十分協議を頂いた答申を経た議案なのだからと、懇談会をタテに開き直る「口実」に徹している。そこに風穴を開けるには、公募の市民委員の席を獲得して、ものをいう必要があるのだが、その選任権が現行では行政なのだから、最初からはねられてしまえば、「仲良しこよし」の審議会になるのだ。現行の選任システムを変える、少なくとも審議会委員」の「常連さん」を一掃することではないか。「イエスパーソン?」の常連を作り出すのは簡単だ。再任を繰り返し、他の審議会委員も重ねて務めていただき、一つの任期が終わると他の審議会に移っていただき、ベテランということで会をリードしていただく。それに、担当の行政が選抜する公募委員を適宜混ぜれば出来上がりで、その貢献度によっては、他の審議会などにも重用される。これをストップさせるだけでも、風通しは随分とよくなるだろう。ちなみに、座長のS氏の大学ホームページから研究室のサイトに入り、その業績、「社会貢献」欄を見てなるほどと思い(資料②)、さらに、詳細な記録を見て仰天した。行政からの信頼がよほど厚い研究者ということになる。少し恐ろしくなった。
私も、なんとなくじっとしていられなくなって、パブコメだけは届けようと思って、次のような要旨で書いてみた(資料③)。
資料①
私の懇談会委員応募作文
「市民主体の市政運営のルールについて思うこと」
自治基本条例は、自治体の最高法規的意味も大きいと思います。ただ、そこに盛り込むべきは、宣言や理念にとどまらず、住民参加、情報共有による協働の枠組みと具体的なルール作りが重要で、既存の法令・条例との整合性を見極めながら、市民参加の意思と行動力を実効性あるものとすべきだと思います。それも固定的なルールではなく、時代や社会の変動に見合うような流動性も加味すべきでしょう。私は、ここ十数年、自治会活動を通して住環境の保全・改善にかかわってきた経験のなかで、県や市、開発業者との間に在って、まちづくりにおける市民参加の重要性を実感しました。たとえば、住民の環境意識の喚起、意見や要望、苦情などの送り手受け手における組織化、制度活用以前の行政・業者との情報交換、母体となる自主的なコミュニティの形成などを増強できるルールをめざせればと思っています。また、議会と行政・市民との関係については議会基本条例も策定に向けて動き始めたようですので、調整を図りつつ、身近な民主主義実現の場としての住民と行政協働のルール策定に微力を供することができればと思っています。
資料②
懇談会座長S氏の[ 社会貢献]
2004年6月 千葉市・船橋市・市川市合同職員研修講師(~2006年2月)
2004年12月 佐倉市市民協働型社会における地縁団体等の役割及び 行政施策検討懇話会・会長(~2005年11月)
2005年3月 佐倉市情報公開審査委員
2005年11月 佐倉市市民協働推進条例検討懇話会アドバイザー(~2006年6月)
2006年5月 千葉市市民参加懇話会・副会長(~2006年12月)
2006年7月 佐倉市入札監視委員会委員
2006年10月 船橋市市民協働のあり方検討委員会・会長(~2007年11月)
2007年3月 佐倉市市民協働推進委員会・委員長、佐倉市個人情報保護委員
2008年5月 山武市市民協働アドバイザー
2008年6月 香取市市民協働アドバイザー
ちば市民活動・市民事業サポートクラブ(NPOクラブ)理事
2008年3月 大網白里町住民参加・協働のまちづくり委員会・委員長
(~2009年3月)
2009年2月 富里市協働のまちづくり条例策定委員会アドバイザー(~2009年9月)
富里市総合計画市民会議アドバイザー(~2009年11月)
2009年6月 一宮町総合計画策定アドバイザー
2009年9月 松戸市協働のまちづくり協議会・副会長
2009年11月 流山市市民参加条例検討委員会・アドバイザー
2010年3月 香取市まちづくり条例策定委員会・アドバイザー
2010年4月 佐倉市市民自治基本条例策定懇談会・座長
船橋市市民活動支援審査会・会長
<参考>座長の業績「社会貢献」詳細:
C:\Users\Owner\Desktop\市民協働・自治.mht
資料③
私の提出意見
(仮称)佐倉市自治基本条例(素案)への意見
1.条例策定の意味が見いだせず内容もない:各条項の内容は、このままでは憲法・地方自治法における民主的な地方自治の確認と任意規定、努力規定(・・するものとする、・・することができる、努めなければならない、などなど)であって、あらためて条例で定める意味が見いだせない。さらに、基本的な条項における詳細、解釈運用は個別の条例策定に委ねているので、内容が空疎になり、条文は口当たりのいい美辞麗句を並べた、「無用の長物」感を否めない。憲法・地方自治法を基本に、現在の条例を活用すれば十分な内容も多く、時間とエネルギー、お金をかけて策定するに及ばない。
2・他の自治体での基本条例策定事情を配慮する意向が顕著だが、その「先進」といわれる自治体で、現実的に自治基本条例が、実質的にどのように機能しているかをも検証する必要がある。
3.今回の素案は、半年間で13回の5人の市民懇談会(一部拡大懇談会)の論議、19人の通信委員の意見などを反映した中間報告、答申を踏まえているような体裁をとるが、議事録、資料の論点整理などを通覧しても、素案との乖離は著しい。たとえ、自治基本条例の必要性が見出だせたとしても、半年では議論の尽くしようもなく、市民への周知も、市民の意見集約においても、絶対的に不足している。他の都市の制定過程を見てもその拙速さは否定できない。
4.条例の必要性を見出せたとしても、一般市民への資料・情報の伝達・公開が不足しているので、せめて、今回の素案は、市民との議論の出発点にすべきである。
5.パブリックコメントの公募期間が短い:上記素案を初めて市民に周知したのが11月2日、その日を含めて2週間の募集期間はいかにも短い。ほんとうに市民の意見を聞く姿勢がないに等しい。これは都市計画案の縦覧期間と意見書提出期間が同時進行で期間が短いのと同様である。
6.スケジュールがタイトで拙速すぎる:11月16日にパブコメが締め切られ、その意見を踏まえ11月議会に条例案を提出するというスケジュール自体に無理がある。本基本条例を策定するにしても、急ぐ理由は何もない。もし、市長の選挙公約を云々し、形だけ急いで策定するのであれば、市長選対策の一環にさえ思える。事情により変更することは一向に構わないはずだ。むしろその方が市民に対して誠実なはずである。
7.なお、市民懇談会委員、通信委員の選任についても不明な点が多い上、その扱いについても不透明性が目立つ。まず、懇談会委員の総数並びに公募委員二名というのは少なすぎる。公募委員、通信委員の公募期間中の応募が少なかったのか、延期までしたようであった。また選任された委員の住所、年齢、所属など公表されず、通信委員に至っては名前すら公表しない者もいる。何が不都合なのか、任務の公共性からいえば個人情報保護の対象ではないはずである。選任過程の可視化も、議論の民主化の第1歩と考える。さらに、懇談会では、学識経験者として、指導的役割を果たしている座長の委員は、佐倉市においても様々な審議会などの委員や要職を長年務め、さらには、千葉県下各市のまちづくり・市民協働関係の審議会の委員などを務めている研究者である。行政との間で、どれほど客観性を保てるのか、非常に疑問に思った。審議会委員選任一般にも言えることだが、再任、重任、転任が多すぎると思う。行政にとって都合の良い人物の重用に他ならない気がする。公平で、新鮮な人を市民とともに発掘することを希望する。
(追記)その後、12月22日佐倉市議会で、「佐倉市基本自治条例」は否決されました。以下12月27日の記事をご参照ください。 http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2010/12/post-f7c2.html
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コメント
自治基本条例についての御意見もっともです。
いろんな人がもっと多岐にわたって、市に対して意見を言い、それをきちんと聞いてくれるような市だったらいいと思っています。沢山の人にパブリックコメントを提出していただきたい。このブログを読んだ人は佐倉市にどんな意見でもいい、一言、二言意見を言おう。締め切りは16日です。日時厳守で。
投稿: ユキノシタ | 2010年11月11日 (木) 22時34分