佐倉市の縦覧制度と情報公開制度の実態~土地区画整理事業について、先ごろ、こんなことがありました・・・
(1)土地区画整理事業の「事業計画」は取り消し請求ができるか
今年の2月25日、静岡地裁は、浜松市の土地区画整理事業をめぐり、反対する住民14人が市の事業計画決定の取り消しを求めた訴訟の差し戻し審で請求は棄却された(「住民の請求棄却、地裁差し戻し審 事業計画を初審理」『毎日新聞』2月26日)。関東での報道は少なかったが、上記毎日が大きく報道していた。区画整理事業の着工前でも住民への影響が予測可能になり裁判を起こせるという最高裁の画期的な判決(2008年9月10日)で差し戻された裁判で、「事業計画には市の広範な裁量を認めたうえで、重要な事実の間違いや著しく妥当性に欠ける場合は違法となるが、交通渋滞など住環境悪化が明らかだとは言えない」という主旨で、住民の請求を棄却した。2008年の最高裁判決が出るまでは、事業計画は青写真に過ぎず、利害関係者の権利変動が具体的に確定されるものではないから、取り消し訴訟を起こせないという、いわゆる「青写真判決」を42年ぶりに覆し、住民に対して実効的な救済を図るためには計画段階で提訴を認めるのが合理的であると判断して差し戻したのだ。事業計画決定も「行政処分」であるから取り消し請求ができるとした最高裁判決は、画期的に思えた。私は、住んでいる町に接する土地区画整理組合による井野東・井野南の開発事業をウォッチしはじめてから10年以上が経つ。組合方式による土地区画整理事業による開発と千葉県・佐倉市による都市計画が常に混然として進行するのを目の当たりにした。井野東・井野南土地区画整理組合準備会(組合認可後、二つの組合の業務代行となる開発業者が準備会の事務局を名乗っていた)が行政と事前協議を重ねる段階から、行政や開発業者とかかわりを持つようになった。認可後、何回かの事業計画見直し・資金計画見直し変更を経て、今は事業期間延長のさなかにある。認可前と見直し変更のたびに、縦覧と意見提出の機会が設けられるので、周辺の住環境が影響を受ける範囲で縦覧・意見提出も行ってきたし、情報公開制度による公開文書を検証し、納得いかず、千葉県情報公開審議会に異議申し立てもしたこともある。 http://www.pref.chiba.lg.jp/seihou/jouhoukoukai/shingikai/jouhou-shinsa/toushin/toushin-201.html
http://www.pref.chiba.lg.jp/seihou/jouhoukoukai/shingikai/jouhou-shinsa/toushin/toushin-202.html
私の知る限り、県や市は、多くの市民の提出意見や公述意見があったにもかかわらず、あくまでも一方通行で、事業計画が見直されたり、聞き入れられたりすることはなかった。あるのは行政の都合や組合という名の開発業者(業務代行)の都合による恣意的な変更要請に応えるもののように思えた。住環境のさらなる劣化や助成金や公的資金の投入が伴うものもあった。だから、事業計画の段階で取り消しが請求できるようになったという2008年の判例変更は、私たち住民にとっては朗報に思えた。ところが、今回の判決である。事業計画は取り消し処分の対象とはなったが、その計画の内容の違法性を認定する要件として「重要な事実の間違い」「著しく妥当性に欠ける」ことを示した。「なにが重要で、著しくとはどの程度なのか」という行政側の裁量が広く認められた形で、住民側にとっては厚い壁となった。しかし、今後とも住民の監視と都市計画法制の不備の是正についての意思表示を続けることが重要なのではないか。これまでの本ブログにおける主要関係記事もご覧いただければ幸いである。末尾に掲げた。
(2)緊張感のない役人たち~縦覧制度の形骸化
先日、こんなことがあった。月2回発行、発行日当日の新聞折り込みに入る「こうほう佐倉」2月15日号に井野南地区「都市計画案変更・地区計画案の縦覧」の「お知らせ」があった。用途地域・高度地区・準防火地域・地区計画について2月15日~3月1日の期間、縦覧できるので意見書が提出できます、という主旨の「お知らせ」だった。縦覧場所の末尾に「市ホームページでも閲覧可」となっていたので、さっそく市の都市計画課のHPを開いてみるが見つからない。10時近くに業を煮やして電話をしてみると、「あっ、まだみたいです、すいません、まだアップしてないみたいです」とやや間の悪そうな返事だった。相変わらずの役所仕事もいいところで、肝心の縦覧資料がHPに掲載されたのは、その日の午前11時だった。朝の8時半から縦覧場所、HPで閲覧できるはずが、役所のいう「手違い」?で不可能だったわけである。しかし、この縦覧制度・意見書提出は一種のセレモニーであって、都市計画変更にあたって、市民や利害関係者の意見を聞くという制度は最初から形骸化したものだ。上記のHPアップの遅れにみるように、担当課の緊張感の無さが明白だろう。さらに、不思議なのは、ともかく上記のようにHPで縦覧可能な資料が、縦覧場所では決してコピーをとれないことになっているのだ。いまでこそ、HPで閲覧できるのだが、かつてはそれもできなかった時代、その場で必要部分をコピーできず、超能力者でもなければ記憶にとどめられないから、情報公開制度で請求するしかなかった。急いでも数頁のことで1週間から10日はかかる。そして意見提出しようとすると、その提出期間が、縦覧期間とまったくの同時進行で、縦覧期間が終了とともに意見提出の締切りでもある。こんな矛盾した、形式的な意見募集をしたからと言って、市民の意見を聞いたことにはならないし、その意見を採用するか否かは、まったくの役所の裁量(恣意)でしかない、むなしい制度なのである。いわゆる、公聴会制度も同様、意見のいい放し、聴きっ放しの制度であり、要するに「うるさい?市民」のガス抜きの機能くらいにしか考えていないのだろう。行政法の専門家たちや行政のエキスパートが、なんでこんな制度を後生大事に見守っているのかも不思議なのだ。そして自省を込めて言えば、黙っている市民たちも。
(3)情報公開制度における「情報提供」とは
今回、私は、縦覧の対象となっていた「井野南地区」についてではなく、すでに縦覧を終了し、昨年、変更を認可されている「井野東地区」についての「情報の提供」を申し入れた。2~3頁で済む情報で、物理的な負担が少ないと思われ、かつて、類似の情報を「情報提供」で入手したことがあることを申し添えた。しかし、電話の先では「情報公開制度でお願いします」という回答を繰り返すばかりである。「その根拠はなんですか」と尋ねると、「あなただけにサービスすると公平性に欠ける」「今回の文書の作成者は佐倉市でないから」との答えが返ってきた。「公文書」の開示にあたっては、受理した文書であれば、作成者は問われないはずだ。公平性に関しても、何と比べてなのかもわからない。「公文書の定義と公平性については、根拠として明白ではないので文書で示してください」との求めに、二つの条文がファックスで届けられた。私が求めている情報は、もちろん、個人情報でもないし、プライバシーに触れるものでもない情報である。
①佐倉市情報公開条例(平成21年6月3日)(情報公開の総合的な推進に関する本市の責務)第26条 本市は、この条例に基づく公文書の開示を行うほか、情報の提供及び公表を積極的に推進し、市政に関する情報の総合的な公開に努めなければならない。
②佐倉市公文書の開示等に関する事務取扱要綱(平成18年3月28日制定)第3の1の(1)ウ(情報の提供)従来から情報提供されたもの、市が作成する刊行物・行政資料・調査報告書等で、公表を目的として作成されたもの及び既に公表されているもので即日開示が可能のもの等については、極力、情報の提供で対応し、市政に関する情報の総合的な公開に努めるものとする。(この場合においては、条例に基づく開示請求とはならないので、開示請求書の提出は不要である)
しかし、この条例や要綱を読む限り、「公文書」の定義からしても、「情報提供」の根拠にこそなれ、情報提供できない根拠にならないのは明白ではないか。第一、国の法律「情報公開法」の正式名称は「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(平成十一年五月十四日法律第四十二号)で、下記の条文のように、情報提供の対象は「行政機関の保有する情報」なのである。条例や要綱が「保有」をあえて曖昧な表現に変え、作成者云々の解釈をするならば、佐倉市の条例も要綱も、解釈も違法なものとならざるを得ない。 行政機関の保有する情報公開に関する法律(行政機関の保有する情報の提供に関する施策の充実)第二十五条 政府は、その保有する情報の公開の総合的な推進を図るため、行政機関の保有する情報が適時に、かつ、適切な方法で国民に明らかにされるよう、行政機関の保有する情報の提供に関する施策の充実に努めるものとする。 これらの疑問を佐倉市に提出もしているので、その回答が届いたら、紹介したいと思う。
(4)日本弁護士連合会の意見書を読んで
以上のような私の嘆きや意見は、その後の調べで、日本弁護士連合会が、昨年2010年8月19日付で公表し、関係大臣等に提出した下記の意見書の中にもすでに取り入れられていた(20~25頁)。73頁に及ぶ大部なものだが、都市計画行政にかかわる職員や国や自治体の弁護士にはぜひ読んでもらいたいと思った。
「'持続可能な都市の実現のために都市計画法と建築基準法(集団規定)の抜本的改正を求める意見書」 http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/data/100819_2.pdf#search
この中で、都市計画行政の政策形成過程と実施過程での住民参加によって、地域社会の活性化と持続可能性が結実すると述べ、具体的には、住民参加の手続きとして、以下の4つの問題点が指摘されていた。現行法の基本的な 不備といえる。
①早期段階で住民が参加する権利が保障されていない
②複数案検討が義務付けられていない
③公告縦覧・意見縦覧の期間が短い
④行政から住民への応答の義務付けがない
なお、意見書中の「要綱行政の誕生と限界」の項における、都市計画行政にかかる「要綱」の位置づけについては、私の「要綱」認識とは明らかに違う。意見書では、次のように述べる。
「1960年代以降,高度成長のひずみで,東京・大阪の大都市周辺部において過密化・過疎化が進み,地方自治体は,国の定める都市計画の狭いメニューの中で,乱開発を防ぎ,住民の生活環境を守るため,開発指導要綱による開発抑制手法(要綱行政)を編み出した」(19頁)
国の強硬な都市計画政策の暴走への防波堤、開発抑制手法として機能したように書いてあるが、確かに、小回りの利かない、機動性の少ない国法を補完する側面を持つ場合もあったろう。しかし、私が佐倉市で体験した「条例」や「要綱」は、そんなものではなかった。開発業者の都合や佐倉市のその場限りの方向転換を助長する内容が多い。その典型は、かつても述べた一つの開発業者が3分の1以上の土地を所有している区画整理組合には助成金は不可としていた「条例」、その「3分の1」条項を外した例や今回の情報公開「条例」も「要綱」も、国の法律を明らかに劣化させるものだった。 そして今、各地で盛んに作られている「まちづくり条例」も、多くは市民参加、市民協働とうたわれながら、その「市民」があちこちで束ねられた、行政にとって「安心・安全な市民」になりがちなのを、普通の市民はよく監視し、自らも覚悟をもって参加してゆかねばならないだろう。
<本ブログ主要関連記事>
・佐倉市都市マスタープランの見直しへ、市民の意見を反映するというけれど (2010年7月13日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2010/07/post-b8ec.html
・無計画な都市“計画”~千葉県佐倉市の場合も(2009年4月27日) http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2009/04/post-eae9.html
・堂本知事、千葉県都市計画公聴会って何ですか(2006年9月25日) http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2006/09/post_0a99.html
・佐倉市井野東・井野南開発どうなるか(2006年8月24日) tibakentosikeikakuminaosisoankoutyoukai.pdf ・区画整理組合への助成金は、やはり業者への後押しだった!(2006年6月17日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2006/06/post_9ffe.html
・区画整理組合による開発の企業主導と行政の後押し―「佐倉市都市計画見直し」説明会に参加して(2006年4月25日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2006/04/post_088c.html
・助成金は区画整理事業の延命装置か―佐倉市、井野東土地区画整理組合の場合(2006年3月15日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2006/03/post_2f8d.html
・土地区画整理事業における住民参加~行政と業務代行のはざまで(1)(2) (2006年2月16日・28日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2006/02/post_59e3.html
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2006/02/post_501d.html
・道路用地費11億円はどのように決まったのか~井野東土地区画組合公管金の謎1~3 (2006年3月7日・10日・13日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2006/03/11_59ed.html
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