震災報道と「NHKニュース7」(2)「NHKニュース7」の記録 <2011年2月13日~4月12日>
前回に引き続き、大震災発生の3月11日以降の1か月間の「NHKニュース7」の記録の一部を表にまとめた。検証という作業には至っていないが、断片的な感想になってしまった感は否めない。録画をとることも考えたが、かえって時間と作業量が増すので、リアルタイムのメモに拠った。ニュース項目や読み上げ原稿の一部と思われる記事を検索できるサイトもあるので、参考にした。NHKでは、全面的な大震災特別報道番組が前掲のように約8日間で解かれた後も、種々の大震災関係の特別番組が数多く組まれている。「ニュース7」も拡大版が続いていた中での検証である。
(5)震災報道
①地震発生の3月11日は午前中から東京に出ていて、帰宅困難者となった私は、残念ながら、翌日の午後までテレビのニュースは、ほとんど見ていない。記録は13日以降となった。ただ、地震直後の報道については調べているので、別の機会に譲りたい。
②3月13日夜、突然の翌日朝からの計画停電実施の予告は具体的実施計画が伴わないまま報じられたので、我が家も大いにあわてた。グループ分け報道は10時過ぎの「報道ステーション」が一番早いようだった。佐倉市が第1~3グループにわたって属していることが分かるだけで、我が家がどのグループに属するのか、県・市に問い合わせても不明。東電の電話は通じなく、計画停電を了承したという政府の無責任、無計画ぶりが明らかになった。メデイアも菅・枝野の発表を伝えるだけでなく、国民の立場からの疑問を質すことをしないし、首都圏での混乱の責任を質すこともあえてしなかったのではないか。後から思えば、「計画停電」の実施は、東京電力の原発が必要欠くべからざるものとするためのパフォーマンスと政府の今後の原発政策を維持するための方便ではなかったかと思う。「節電」で十分対応できる、原発なしでも賄える需要量であったことが、いま証明されようとしているのではないか。
③前半の災害報道においては、ライフラインの復旧、救助・救援物資の搬送がなぜできないのか、を冷静に取材し、報道する姿勢がみられなかった。被災地市町村の首長の悲痛な声、被災者・避難者の物不足の声に応えきれない現実、何がネックになっているかなどを取材する視点が見えず、閣僚の暢気な無内容なコメントなどは不要であった。
④福島原発事故の危険性について
東電・保安院・政府・専門家の説明の中で、危険性の尺度があいまいなまま、「ただちに人体に影響がない」としながらも、放射能対策を詳細に述べる矛盾をはらんだまま報道していた。少なくとも先行研究の正確な情報を把握した上で、一時的な危険の可能性の有無だけでなく、放射能が累積した場合の健康被害についても率直に認め、海外の事故の教訓に学ぶ視点で報道すべきではなかったか。「冷静に対応せよ」という、NHKは、会見主催者の発表を「伝聞で」「繰り返し」報道していた。一方で、鎮静化というメッセージを発信しても、逆にパニックをあおることになるだろう。政府(枝野ほか)、保安院、東電は、原発事故の現況を断片的に発表するが、その断片的事実が事故の推移の中でどういう意味を持つのか、時系列でいえばどういう結果や可能性をもたらすかの解説がない。各記者会見、発表資料は相変わらず続いているが、微妙にずれていることがあって、真相は別のところにあるのではないかとなおさら不安にかられる。それぞれの会見報道において、速報性・同時性が問われ、中継することが大事な場合もあるが、だらだら流すだけでなく、一方で、きちんとまとめて、問題点を整理して伝える機会を設定することもメデイアの重要な任務ではないかと思う。
もちろん、網羅的に知る権利もあるわけで、その手立ての担保は重要で、各会見の文章起こしや動画記録は、後に重要な資料として欠かせないことにある。総理官邸のホームページには、発表の読み上げ原稿と質疑を含めた動画配信があるので、あとからの検証が可能である。しかし、保安院は記者への配布資料がその都度ホームページに登載されるが、会見での発表や質疑の記録は一切発信してないことが分かった。
17日の『ニュース7』でも、枝野会見で、対策本部の人事強化をながながコメントしているのを流していた(約7分)が、中身は数十秒で事足りる内容で、速報性もないから中継の必要もなく、済んだ後で簡略に報じればよい内容だった。人事や組織・会議を「整備」するよりも、先にやるべきことがあるはずで、現在の組織でも十分対応できることは多い。会議や組織立ち上げをいかにも重要な仕事のように、右から左へ報じる姿勢に問題がありそうだ。
⑤「報道」の形式と繰り返しによる偏向の危険性
福島原発のつぎつぎ発生する事故について、東電・保安院・政府の記者会見について、中継や録画で流した後、記者や解説委員にアナウンサーが質問するかたちで進められる方式が多く、さらに専門家のコメントを挿入する構成が多い。詳細なほどかえってわかりづらくなることもある。ここで繰り返される、相乗効果としての「事故の安定化」と「軽微な健康被害」は、視聴者にとってはどういう意味を持つのだろうか。
その点、NHKではないが、17日『報道ステーション』での福島原発できょう何がなされたのかをテロップなどでまとめた形で報道したのは分かりやすかった。ただ、一方、古館アナの「被災地で苦労されている人たちが大勢いる中で、私たち国民が心を一つにしてこの難局を乗り切りましょう」みたいなことを毎夜繰り返すのには閉口している。
⑥明るいトピックスについて
救助された人、再会を喜ぶ人など明るいトピックスはさておき、とくに、NHK『ニュース7』拡大版では、必ず明るい話題として、救助された人、家族に巡り合えた人などに焦点をあてたり、避難所やご近所での助け合いやボランテイアの人々が「美談」のように報じられたりする。しかし、今回の大災害における対策は、そうした奇跡的な出来事や個人的な努力や協力では解決しがたい、政府や自治体、企業が基本的に主体的に取り組むべき難事業のはずである。心温まる出来事がいつか伝わり、癒されることも大切だが、かたや現に、遺体がなかなか収容できない現実、避難の途上であるいは避難先で亡くなられる人々がいて、飢えと寒さで震えている人々がいる中で、ことさら明るいトピックスを取り上げることがメディアの仕事なのだろうか、と考えさせられるのだ。
⑦取材姿勢について
震災発生当初、民放も含め、競うようにヘリを飛ばし、レポーターが被災地・避難所に立ち入り、ぶしつけなワンパターンの質問を繰り返すより、その分、救援のエネルギーに差し向けてほしい。共同取材や輪番放送で節電、節ガソリンなど省エネができるのではないか。
⑧民放のCM復活は意外と早かった。しかし、大量に、繰り返されるACジャパン(旧公共広告機構)の押しつけがましい公徳心PRには辟易とした一人だ。その後のバージョンも、送り手や出演者の自己満足的なメッセージで、実際に被災者や一般視聴者が見て何を感じたろうか。これは一企業のCMだということだが「 上を向いて歩こう」の著名人たちの「輪唱」にも、無責任な「励ましメッセージ」に終わってはいなかったか、きちんとした検証が欲しい。
「NHKニュース7」上位項目と所要時間(2)<2011年3月11日~4月12日>
月 |
日付・主な出来事 |
日付・「NHKニュース7」の主な項目
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3 月 |
11日:14時46分東日本地震、観測史上最大M9.0岩手・宮城・福島大津波・火災などにより壊滅的な被害 12日:原発①弁開放、圧力放出、午後水素爆発 、海水注水開始指示 13日:夜、菅総理記者会見、首都圏計画停電発表、翌日から日交通など混乱 14日:原発③水素爆発、夕方から東電計画停電実施 15日:原発②高濃度放射能検出、20~30キロ屋内退避 16日:円76円16年ぶり高値 発生、陸上自衛隊③へ散水 17日:警視庁機動隊、原発③に放水 開始 18日:大災害による統一選挙延期法 成立 死者6911人、阪神大災害上回る 原発①②③の事態をレベル5に引上 19日:福島県内、牛乳・ホウレンソウに規制値を超える放射性ヨウ素検出 20日:石巻市倒壊家屋より男女2名 21日:政府ホウレンソウ等出荷停止 22日:福島県知事、東電社長の面談・謝罪拒否 23日:最高裁、09年衆院選挙「1票の格差」違憲状態との判決 東京金町浄水場でヨウ素131規制値2倍検出、乳児摂取制限指示 政府、ホウレンソウ他12品目摂取制限指示 24日:統一地方選挙、12都道県知事告示 秋葉原無差別殺傷事件、東京地裁で、加藤智大被告に死刑判決 25日:多国籍軍、リビア軍へ猛攻 東電計画停電グループ細分化発表 26日:原発②高濃度放射線量水流出 28日:原発敷地内土壌よりプルトニウム微量検出 29日:来年度予算92兆4116億円成立 30日:東電勝俣会長、原発①~④廃炉 31日:原発南側海水、放射性ヨウ素基準値の4385倍検出
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11 日:地震発生直後の14時48分~ 3月19日12時45分まで特別報道番組(7日間22時間弱連続)
13日(~20時30分)①大震災各地の被害状況(44分) ②福島第1原発関連1・2・3号機トラブル、避難対象7~8万人、海外の反応(6分) ③菅総理会見、被災者見舞、原発憂慮、計画停電明日より実施了承(10分) 15日(~20時55分)①福島第1原発事態深刻、4号機水素爆発(34分、水野解説委員) ②被害状況、死亡3079、不明1万5000、避難所2457、避難民44万2875、各地の死者不明者数、救出2件(約16分) ③各地の避難所生活(25分) *株価暴落、計画停電情報不備批判など 18日(~20時55分)①原発事故、4機とも深刻な事態、その時原発内では(24分) ②被害、被害地の状況(50分) ③菅総理1週間後の会見、国民に敬意と感謝、日本の危機を乗り越えて(11分) *家族再開、被災者支援、卒業式、復旧・再開の喜びなどのトピックス多くなる 25日(~20時10分)①原発2・3・4号機の現況、3人被爆、外部通電、放水海水から真水へ、汚染水の流出原因不明(15分) ②被災地現況(19分) 29日(~20時)①原発2・3号機復水器の水はどこから。冷却放水と水たまりのジレンマ、燃料棒溶融によるプルトニウム放出(10分) ②原発周辺自治体の現況(11分) ③被災地各地の動向、自治体への職員支援、復興の兆し(32分)
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4月 |
1日:日本相撲協会、八百長関係力士処分発表、7日夏場所中止決定 2日:原発②取水口付近放射能汚染 水流出確認 4日:原発放射能汚染水海に放出開始 7日:宮城県沖余震M7.1 震度6強 最大か 11日:17時16分、強い余震 12日:福島第1原発事故25年前のチェルノブイリと同じレベル7に引上げ 政府、復興構想会議立ち上げ発表 プロ野球開幕 証拠改ざん元主任検事に懲役1年6か月判決 |
6日(~20時)①原発2号機汚染水流出止、漁業への影響、原発1号機爆発防止策、高濃度汚染水の処理(24分) ②長期にわたる避難生活(11分) *相撲八百長問題、夏場所見送り、技量審査場所で無料公開 12日(~20時55分)①原発事故レベル7引上げ深刻な評価(15.5分) ②活発な余震、広範囲に及ぶ(8.5分) ③計画避難区域の新設(4.5分) *菅総理1か月会見(7.5分)、15歳未満脳死判定による初の臓器移植(6.5分)、証拠改ざん元検事に懲役1年6か月判決、NHK経営委員長決定 |
(注1) 4月23日現在「ニュース7」は20時までの拡大版が続いていた。
( 注 2) 「ニュース7」の概要欄には、通常10前後のニュース項目の内、トップの
2 項目及び場合によってはそれ以降も所要時間とともに記した。*は、他の特徴的な
ニュースとして、参考のため付記した。
( 注3) 項目など確認のため、「NHKオンライン」「NHKかぶんブログ」「TVでた蔵」な
どのサイトを参考にした。
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