震災報道と「NHKニュース7」(1)「NHKニュース7」の記録 <2011年2月13日~4月12日>
震災報道と「NHKニュース7」(1)
「NHKニュース7」の記録 <2011年2月13日~4月12日>
私たちは、どうかすると、情報の海に身を任せがちになり、ときには心地よく揺られていたのではなかったか。しかし、マス・メデイアの発信する情報が、どこまで本当なの?何か隠されてやしない?と思うことに度々出遭うことになった。また、どうでもよい情報を次々と流され、うんざりすることも多くなった。今回の震災報道を目の当たりにして一層その感を強くした。私たちが、ふだん、何気なく接しているNHKテレビのニュース番組、なかでも視聴率が高い「ニュース7」*①について、何が、どんな順序で、どれほどの時間で報じられたかを検証することにした。
2月中旬から、地元の憲法9条の会のメンバー6人で記録を取り始めていたところ、3月11日からの震災報道に遭遇した。その後を含め、2か月間の内、私は14日分を記録していた。合わせて28日分の記録が集まったところで、友人たちの14日分も含め、次のような表にまとめてみた。生の資料は膨大になるので、今回は、とりあえず、各日の最初から2番目までの項目とその放送時間を記した。また、日によっては、2項目以下でも、長時間かけていた項目などは続けて記した。さらに、NHKの特色を表している項目などは順序にかかわらず*印以降に項目と時間を示した。感想には、一覧表に表示していない元データから引用する事項もあるのはご容赦願いたい。
2011年2月13日から記録を取り始めた当初は、大きな事件がないだけに、時々入る「調査報道」あるいは事件性・緊急性のない事項が気になる程度だった(2月15日児童虐待と親権6.5分、13日理科離れ8分、20日外国人看護師の国家試験4.5分、外見、白髪・アザなどへの偏見3.5分、3月10日全国検事の意識調査3.5分など)。ところが3月11日を境に、報道は一変した。震災後の総合テレビ「NHKニュース7」は拡大し、その他の番組もすべて特別報道番組の一環として組まれるようになり、8日間近く続いた。19日の昼、朝のドラマ「でっぱん」の再放送時刻から、特別番組は通常の流れに戻り始めた。しかし、注②「NHKニュース7」も拡大版が続き、4月下旬に至っても19時から30分という枠を超えることがあった。なお、震災直後の3月12日、15日の「ニュース7」に限った記録のすべてと感想は、すでに本ブログに登載しているので、合わせてお読みいただきたい。↓
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2011/03/post-0ed3.html
注①たとえば、産経ニュース「週間視聴率30」(2/28~3/6)によれば、日曜日3月6日を除く2月28日(月)から3月5日(土)の6日間、視聴率20.8~15.0%を占め、すべて30位までに入っている。「ビデオリサーチ関東地区日報データ」を基に作成しているというが、他の週も30位内に3~4日の「ニュース7」が入っていることが多い。
注②ちなみに、テレビの東大震災特別報道番組の放送時間としては3月11日午後地震発生以降、いつまで続いたか、関東圏のテレビ放送でいえば、以下のような調査がある。
NHK総合: 11日14時48分~3月19日12時45分(7日間21時間57分)
日本テレビ系:11月15時01分~3月17日19時(6日間4時間)
朝日系: 11日14時57分~3月14日21時30分(3日間6時間33分)
TBS系: 11日16時08分~3月14日12時30分(2日間20時間22分)
フジテレビ系:11日16時07分~3月14日0時35分(2日間8時間28分)
テレビ東京: 11日14時54分~3月12日23時55分(1日間9時間1分)
BSジャパン:11日19時57分~3月13日0時20分(1日間4時間23分)
作業の当初、小沢一郎をめぐる「政局あって政治なし」の閉塞感に苛まれながら、中東での反政府運動で、体制を変えようとしている人々の動きを知ることになった。ワイド番組をにぎわせていた海老蔵騒動もやや下火になったと思ったら、2月2日、相撲のメール八百長問題が浮上し、そこに、ニュージーランド地震で、語学学校に留学中の日本人が多数犠牲となったというニュースが飛び込んだ。さらに2月27日からは、京大入試問題がネット上に流出し、回答を求めていたという不正が大々的にしかも詳細に報道されるようになった。が、そこに待ち受けていたのが、3月11日の東日本大震災であった。記録的な津波の高さと威力は沿岸部に壊滅的な被害をもたらし、福島第一原発稼働中の1~3号機は地震により自動停止し、送電線の損壊、外部電源の断絶により非常用発電機が稼働したものの1時間後の津波で水没、原子炉の水による冷却がストップした。夜7時03分、政府は福島第一原発の「原子力緊急事態宣言」を発令、9時23分には3キロ以内避難指示、10キロ以内屋内退避の指示がなされている。原発事故の発生による思いもよらぬ展開に、私たちは情報の重要性と報道の役割について身をもって体験することになった。振り返って、国民は正確な情報を共有していたのか、メディアは、何を伝え、何を伝えなかったのか。「ニュース7」の調査結果から検証してみたい。
便宜的ではあるが、3.11を区切りとして、2回に分けて、記録と検証の一端を記しておきたい。
「NHKニュース7」上位項目と所要時間
(1)<2011年2月13日~3月10日>
月 |
日付・主な出来事 |
日付・NHKニュース7の概要 |
1月 |
27日:新燃岳、52年ぶりに爆発的噴火 31日:小沢一郎強制起訴 |
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2月 |
2日:日本相撲協会八百長メール問題 発覚 6日:名古屋市長・愛知県知事選挙 11日:エジプト、ムバラク大統領辞任、 中東各国に拡大 20日:リビア反政府デモ100人以上の死 21日:上野動物園にパンダ到着
22日:ニュージーランド地震M6.3、 日本人学生行方不明者多数、後、28名 と判明 小沢一郎党員資格停止処分決定
26日:京大入試問題ネット流出発覚 28日:11年度予算案衆議院可決 |
13日(日)①エジプト情勢(11分) ②新燃岳関連(2分) *理科離れ(8分) 17日①民主議員16人会派離脱(8分) ②若田光一宇宙船長任命(5.5分) 18日①民主党会派離脱の波紋、予算案巡る攻防(6分)②日本調査捕鯨、妨害で中止(5分) *武富士相続人の課税取消訴訟で国の還付最高裁判決(4分)海老蔵殴打事件初公判(3分) 22日(~20:00)①NZ地震、日本人学生行方不明者多数(35分)②リビア軍に離反者続出(5分) *最後に再びNZ地震、日本人7名救出ほか(約10分) 27日(日)①京大入試問題流出事件、他大学でも(16分)②NZ地震、身元確認作業、救出活動続く(4分) *東京マラソン(4分)中東情勢波及、北京でも厳重警備(2.5分) |
3月 |
1日:スカイツリー600m超え世界一に 2日:リビア、カダフィ政権、反勢力に攻勢 3日:入試投稿の予備校生逮捕、単独犯 4日:熊本スーパー女児遺棄大学生逮捕 5日:東北新幹線「はやぶさ」運転開始 中国成長率平均5%、全人代開幕 6日:前原外相外国人献金で引責辞任 10日:沖縄「ユスリ名人」発言で米国務省メア部長更迭
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1日①各大学入試携帯電話対策(7分) ②NZ地震から1週間、ビルの耐震性調査も(7分) *スカイツリー601mに(1分)日航ジャンボ機最終フライト(1分) 4日(~19時32分)①熊本市三歳女児遺棄で大学再逮捕(15分)②京大入試問題流出事件、予備校生取調べ、監督態勢に問題?(3.5分) *⑥中国国防費2ケタ伸び、約7兆5000億円(4分) 5日①熊本女児殺害事件犯人逮捕までの経緯(4.5分)②前原外相外国人献金問題と民主党内事情(4分) *東北新幹線はやぶさ試運転(4分)中国全人代、社会の安定確保、不満解消を強調(4分) 9日①三陸沖地震M7、養殖網など被害、都庁舎でも揺れる(7分)②NZ地震、新たに3人死亡確認(3分) 10日①沖縄「ユスリ名人」発言のメア日本部長更迭(9分)②連続リンチ殺人事件最高裁判決、元少年3人全員死刑、NHK実名報道(5分)③NHK全国検事に意識調査アンケート、任意性のある供述困難、多数の結果(3.5分)
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(1)国内政治関係
日常的に「ニュース7」は国会会期中でも、日曜日には政治関係の項目が少なく、あっても「政局」の動きに終わることが多い。2月中旬までは、小沢一郎の処分問題と予算案をめぐる民主党内外の動向を中心に時間をかけて報じていた。たとえば2月14日①番目7分、17日①番目8分、18日①番目5分、20日①番目3.5分、21日②番目4分(+)、22日④番目5.5分、24日②番目3.5分とトップあるいはかなり高い順位で報じられたが、小沢の党内処分が決定した22日以降からは、もっぱら民主党内外の予算案をめぐる駆け引きとなった(2月25日②番目5分、3月1日④番目4分)。前原外相の外国人からの献金問題が浮上すると、前原外相辞任、年金主婦優遇問題による細川厚労相辞任要求などとの関連で予算案が報じられるようになった(4日③番目5分、5日②番目4分、9日⑤番目5分、10日④番目6.5分)。国内政治といっても、もっぱら小沢処分をめぐる与野党の党内事情、閣僚の不祥事による辞任騒動についてであった。来年度予算案の問題はどこにあるのか、予算案の内容に立ち入る審議もなく、報道にあってもその中身についての問題点の指摘や解説は皆無に等しかった。
(2)外交・国際関係
1月のチュニジア政変を受けて、エジプト、リビア、バーレーン、マナマなどに波及した反政府運動関係項目では、調査を開始した2月13日(日)、中東情勢について高橋和夫放送大教授の解説もあって、時宜を得たものと思われた(11分)。同じく18日には、バーレーン情勢と石油価格について4分、20日(日)にも中東・北アフリカ・中国にまで波及した反政府運動の現況を各地から伝えていたが、5.5分はやや短く感じるほどだった。海外情勢は、たださえ分かりにくいので、丁寧に伝えるべきだろう。その日の他のニュース徳島の遍路道の清掃活動3分、大リーグでのイチローの練習風景2分などを削ってもう少し時間をかけてもよかったのではないか。公共放送の重要な役目でもあろうかと思う。翌21日、多くの市民の犠牲死を機に、トップでリビアの歴史に10分、さらに、後半で国営テレビでは報じない反政府運動におけるネット情報の重要性についても触れていた。2月22日ニュージーランド地震、2月27日京大入試問題流出不正事件、3月2日八百長相撲事件などが発生・発覚すると、中東情勢を中心とする海外ニュースの順位、放送時間は低減していったが(2月27日⑤番目2.5分、28日④番目4.5分、3月1日⑤番目4.5分、3月9日⑥番目1分であった。
中東情勢項目の順位と所要時間の推移
日付 |
2月13日 |
2月17日 |
2月20日 |
2月21日 |
2月27日 |
2月28日 |
3月1日 |
3月9日 |
順位時間 |
①11分 |
④4分 |
②5.5分 |
①10分+ |
⑤2.5分 |
④4.5分 |
⑤4.5分 |
⑥1分 |
(3)事件報道と他の報道とのバランス
上記(2)でも見たように、事件の発生が他の重要項目報道に与える影響を見てみたが、
「事件」の持つ社会的・歴史的な意味・影響を十分に見極めながら、報道していくことが重要ではないかと思った。最近、NHK番組の民放化が各所から指摘されているが、民放のニュース番組やワイド・ショウ番組とNHKのニュース番組とがかなり接近していることも確かであった。ニュージーランド地震による日本人犠牲者関連のニュースでは、日本人の犠牲者が多く、なかなか身元確認ができなかったこともあって、犠牲者一人一人のエピソード報道や物語性が強調されることが多く、本来の災害報道、地震の規模や範囲、なぜ語学学校が入っていたビルに犠牲者が集中していたのかなどの状況や背景に言及することが少なく、災害の全貌を伝えきれていなかったように思う。
また、京大入試問題流出不正事件については、 京大入試当日の夜には、すでに発覚していたようだが、翌日2月27日から、3月3日予備校生逮捕、3月10日の京大合格者発表までの「ニュース7」での流れを追ってみたが、2月27日から3日間連続トップで、しかも、7分~8分かけて、流出状況・実態、インターネットを利用しての入試不正事件として、厳しく、熱心に追及していることにやや異様さを感じざるを得なかった。というのは、個人的には、当初、インターネットを悪用しての一種の「愉快犯」を想定していたし、大学の教員生活が長かった連れ合いは、日常的に大学入試の監督態勢や学期試験・レポート評価の甘さを憂慮していたので、むしろ、受験生よりも大学側の問題を指摘していたのだった。この報道の後半、予備校生の単独犯行と分かった後、ようやく監督態勢への批判や大学の安易な捜査依頼などに若干言及することもあったが、3月11日を境に、まったく報じられなくなってしまった。あのトップニュースでの時間をかけての物々しい報道は何であったのか、の疑問は去らない。
京大入試問題流出不正事件の報道経過
2月27日 |
①番目 入試問題流出状況詳報 7.5分 |
2月28日 |
①番目 ネット上からの流出実態詳報、犯人特定方法、事件性 8分 |
3月1日 |
①番目 大学からの被害届、捜査開始 7分 |
3月4日 |
②番目 ケータイでの入試問題・解答の送・着信方法、監督態勢の問題点 3.5分 |
3月5日 |
⑤番目 予備校生の犯行動機など 2分 |
3月10日 |
⑦番目 京大合格者発表、予備校生不合格 1分 |
また、今回の調査対象期間の前ではあったが、2月2日になって、野球賭博捜査過程で力士たちのケータイメールから発覚したという八百長相撲事件について、なぜこの時期に発表に至ったのかも疑問だった。NHKは、「相撲」のこととなると「国技」であること、独占的な場所の中継局であることを前面に押し立てて、必要以上に報道もするし、かばい立てをしているような報道になることは否めなかったようだ。現在は、春場所・夏場所を中止し、NHKの中継もないことが、相撲協会の反省の証となっているようだが、その後の相撲協会の動向を見ていても一向に改まった風はない。
(4)スポーツ関係
日曜日の「ニュース7」に共通していることは、夜の9時50分から「サンデースポーツ」という番組があるにもかかわらず、スポーツニュースの占める時間が多いことであった。上記2月13日(日)では、女子カーリングの準決勝・決勝戦での本橋に、プロ野球キャンプでの斎藤祐樹に焦点を合わせた、ラグビーの帝京大対東芝戦が合わせて5分間以上報じられた。2月27日(日)においても、ラグビーのサントリー9年ぶりの優勝及び東京マラソンでは一般参加の川内優輝の日本人最高位などが5分間報じられている。かつてはゴルフの宮崎藍、大リーグのイチローの「ニュース7」への登場頻度は突出していたと思うが、今は、石川遼あたりなのだろうが、「ニュース7」の製作者は、何か勘違いをしてはいないか。
スポーツネタを「ニュース7」の頭出しとして使い、視聴者のチャンネルを何とか替えさせまいとする意図が見え見えで、むしろ見苦しい。視聴率、接触率向上自体が、NHKの事業の最終目標ではないはずで、受信料に見合う、良質で、公正な番組を、ニュースを送り届けてほしい。
ついでながら、全国放送で、電波塔たるスカイツリーの高さを逐一報道するのは、どうしたわけか。地デジ対応の促進のコマーシャルなのかとも思えてくる。(続く)
表などは、以下のpdfの方が見やすいかと思います。 http://dmituko.cocolog-nifty.com/nhksinsaihodo1.pdf
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