原子力安全・保安院の情報公開はほんとうか~間違った情報を流しながら、名乗ることもしない係員たち
3月11日、帰宅困難者となった私は、翌日までテレビを見られなかったので、当時の原子力安全・保安院の記者会見の様子を知りたく、保安院の地震関連情報のサイトに行き着いた。保安院のその後のメディアへの対応についてもたどってみたかった。記者会見がいつ開かれ、何を発表し、どんな質疑がなされたかを知りたかったが、通商産業省のホームページからは分からなかった。保安院の広報課に尋ねてみると「記者会見での配布資料はホームページ上でも見られるが、会見の記録はネット上にはない」という。議事録は文書となって残っているが「それはお見せできないことになっている」と女性係員は譲らず、その理由を明らかにしなかった。「会見内容を知りたければユーチューブやニコニコ動画を見たらどうか」という返答には、こちらが仰天した。どうも、気になったので、名前を尋ねたところ、組織の一員として答えているので、名乗れないという。従来、広報課ならずとも省庁の担当者に問い合わせたときなど、必ず応対者の名前は聞かせてもらっていた。いったいいつから「名乗れない」ことになったのだろう。
記者会見の議事録は、情報公開法の趣旨からも、また、実務上からも、公開にはなんら支障がないはずの情報である。どうも腑に落ちないので、翌日同じ広報課に電話してみると、男性係員は、議事録は、通常の閲覧手続きを取ってもらえれば閲覧はできると答えた。ならば、昨日の女性係員の無知と横柄な対応は何であったのか。情報公開制度への理解がまるでないことが分かった。日付と文書名ないし内容が特定できれば、郵送でもできるはずである。
いまやインターネットの時代、総理官邸の記者会見の模様は、記者会見時の読み上げ原稿と質疑を含めた動画が配信されている。総理や官房長官がいつ防災服を脱いだのかは、その動画配信を見ればたちどころにわかる。ところが今注目を浴びている保安院の記者会見時の記録は一切ネット上登載されていない。読み上げた原稿と会見時の動画を配信はしてないのだ。記者との質疑によって明らかになる事実もある。また、当然のことながら、メディアは中継の途中で打ち切ったり、録画や紙面では自在に編集をした結果を報道する。少なくとも省庁の記者会見は、必ず国民がアクセスできる手立てを整備するのが、情報公開、知る権利を保障することになるはずだ。「ニコニコ動画があるじゃないですか」との言に「役所が責任をもって発信した情報ではないでしょう」の質問には答えてもらえなかった。
保安院のサイトを見ていると、日本各地のこれまでの原発事故や安全性についての住民説明会の議事録も動画もネット上登載されているのだから、国民的関心の高い現在の記者会見の記録が辿れないのは、そのこと自体、情報の隠ぺいにもつながる。さらに、発表された内容の信憑性の検証もできないことになり、不信感は募るばかりである。
ちなみに、地震発生、津波発生、原発事故発生直後の保安院記者会見の日時・主な報告者・その内容は、テレビ、新聞、ネット上の関係情報からまとめてみた。いずれ会見議事録という原資料にあたってみるつもりである。
・3月11日午後3時30分頃(中村幸一郎審議官)
福島第1原発1・2・3号機冷却機能維持、4・5・6号機停止中
・3月12日朝6時過ぎ(寺坂信昭院長)
中央制御室から通常値の1000倍、1号機からは微量の放射能が漏れている
住民の健康に直ちに影響はないことから落ち着くように。
・3月12日午後2時過ぎ(中村審議官)
1号機炉心溶融が進んでいる可能性があり、セシウム確認。
・3月12日夕6時頃(中村審議官)
15時36分、1号機で爆発音、原子炉の心臓部が損なわれ、炉心溶融が進む可能性あり。
http://www.youtube.com/watch?v=kjRiMvwpabw
・3月13日深夜1時30分(八木原子力事故対策防災広報室長、中村審議官)
水位計測器がダウンスケールの現状、負傷者4名。会見動画によれば、不明部分多し。
http://www.youtube.com/user/zannengenpatsu#p/a/u/0/QJ1FkZ4M2mA
・3月13日朝5時30分(根井寿規審議官)
スポークスマン交代の経緯。
自動停止中の原子炉は海水注水が継続すれば事象の悪化はない。
http://www.youtube.com/watch?v=cyTBf4fgAL0&feature=related
・3月13日午前10時(スポークスマン不明)
福島県原発10基の現況、第1原発1・2・3号機の事故について。
http://www3.nhk.or.jp/news/genpatsu-fukushima/20110313/1235_s_hoanin.html
・3月13日夕4時40分(西山英彦審議官)
20キロ圏内避難を開始した。
http://shunkashuto.osakazine.net/e355443.html
(3月11日から13日までの震災関係のプレスリリースは、21回であった。なお、5月13日現在、137回に及んでいる)
それにしても、記者会見の記録の非公開、閉鎖性は、原子力安全・保安院の情報開示の低度、隠ぺい体質の象徴ではないか。電話での係員の理不尽な、閉鎖的な対応を腹立たしく思う一方、この事故収束への行方を思うと、非常に不安に思うのだった。係員になぜ名乗らなくなったのかを尋ねると、ようやく返ってきた答えは? 「最近、係員を怒鳴ったり脅迫まがいの電話が多いもので・・・」ということだった。それが名乗らない理由?そんなことで名乗れない組織なのか。しっかり名乗って責任ある公僕として働いてほしいが、無責任な風潮は改まりそうにもない。
もっとも、保安院の記者会見中の画面で、NHKは4月中旬までの長い間、「西山審議官」の名前を出さなかった。ようやく一時肩書とフルネームが映し出されたと思ったら、また消えた。どうしてなのだろう。
ユーチューブなどの会見動画はどんどん消され、NHKで放送された部分も著作権により消去されていく。保安院自らの会見時の文字による記録・動画のネット登載は、情報公開の基本ではないか。
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