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2012年6月10日 (日)

近年のアンソロジーはどうなっているか~『ポトナム』6月号に書きました

 『短歌』四月号に「アンソロジーの功罪―短歌史に残すべき歌」という篠弘と永田和宏の対談がある。篠は、いくつかのアンソロジーの編集にかかわっている。刊行する以上は、まず売れなければならない、学生やカルチャーセンター受講生などのテキストとして利用されるには、価格も手頃でなければならない。選歌は、大方、故人は編者、存命であれば自選という方法が多いが、この自選は、作者の思い込みが強く、代表作が選ばれなかったり、改作がなされたりする場合もある、との話には興味深いものがある。
 アンソロジーといえば、近年では、朝日新聞に一九七九年~二〇〇七年に連載され、一九冊の岩波新書としてまとめられた大岡信の『折々のうた』、項目別や用語で検索できる『現代短歌分類集成―20世紀“うた”の万華鏡』(千勝三喜男編 おうふう 二〇〇六年)、『角川現代短歌集成』(全五冊 角川学芸出版 二〇〇九年)なども入るだろう。
筆者は、女性歌人の位置づけが知りたくて、アンソロジーを比較し、その一部を一覧としたことがある。いずれも収録歌人は編者が選ぶが、①は、収録歌人の生死にかかわらず、編者ないし他の歌人による他選が特色である。たとえば、岡井は斎藤茂吉・近藤芳美・玉城徹らの、篠は土岐善麿・大野誠夫らの選歌を担当し、他に菱川善夫、来嶋靖生、宮地伸一、大島史洋らが選出者として名を連ねる。収録歌人が六一名と少ないのに、他には見られない明石海人(篠選出)・伊藤保・滝沢亘(岡井)、相良宏(大島)らが登場する。女性歌人も一三人と数少ない中に生方たつゑ、三国玲子が収録されていることなどにも着目したい。編者の意図が明確に出ていると言えよう。また、収録歌人が世代的に幅広いのが④である。③は、姉妹篇「近代短歌の鑑賞七七」(二〇〇二年)と合わせると、収録歌人が最も幅広く、多い。改訂版『現代の歌人一四〇』では歌人を入れ替え、人数も増やし、小暮政次(一九〇八年生)から永田紅(一九七五生)まで、全員一律に各人二頁三〇首というのが特色でもある。この点、①②④では、歌人を三ランクに分け、三〇、六〇、九〇首前後としている。①は三段組みで活字が小さい分、さらに歌数は多い。
筆者は、少人数の歌会での現代歌人や短歌鑑賞に③を利用しているが、これらのアンソロジーは、読者にとって、短歌入門の一つの手がかりとして利用していけばよいと思う。
④も二〇一二年に出版社を変えて新版が出た。玉城徹が島田修二と入れ替わっただけで、窪田空穂(一八七九年生)から梅内美華子(一九七〇年生)まで変更はない。作品については、一部新たな歌集からも収録なされている。いずれのアンソロジーについても、編者の好み、結社・出自などが収録歌人や選歌を大きく左右している事実は当然ではある。それらは、いずれ短歌史上において評価されるだろうし、「歌壇事情」に流されない見識も問われよう。 

近年のアンソロジー一覧 

http://dmituko.cocolog-nifty.com/kinnennnoannsorojiitirann.pdf

(『ポトナム』2012年6月号所収)

 

 

 

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