« 『天皇の短歌は何を語るのか』(御茶の水書房)刊行のご案内 | トップページ | 残暑お見舞い申し上げます~根性スイカと犬の快癒に励まされて   »

2013年8月16日 (金)

8・15が過ぎてゆく~二つの特集番組をみました

ことしは忙しいからと帰省する者がいない。食欲をすっかりとり戻した老犬といつもと同じ時間が流れる。自分が欲しくなって、おはぎを作り、仏壇に供えた。千葉市立美術館での高村光太郎展をぜひと思っていたが、あまりの猛暑に外出を控えた。

NHKスペシャル『従軍作家たちの戦争』(814日午後10001055

814日のNHKスペシャルは『従軍作家たちの戦争』であった。芥川賞作家、火野葦平(19061960)が陸軍報道部のプロパガンダにいかに取り込まれていったか、そして、当時も敗戦後も、死後発見された従軍手帳や父への手紙、周辺の人々、内外の研究者らの証言により、本人はいかに苦悩していたかが語られていた。

火野は、敗戦後、戦時下の活動により公職追放になったが、執筆活動は続き、その華々しさと小説家に似合わない、精悍で任侠の雰囲気を漂わせた写真などが子供心に印象に残っている。19601月の病死は、12年後、遺族により自死であったことが公表され、いささか衝撃を受けたことが思い出される。戦争責任の取り方の一つの形であったのかもしれない、と思ったものだ。

番組では、火野が過酷な前線の現実と自らの作品とのギャップに苦悩した姿を浮き彫りにする。南京攻略戦において石川達三の『生きている兵隊』などによる<真実の漏えい>という、軍部の広報・宣伝の失敗を払拭すべく、ナチスのPK部隊を真似た<従軍作家>を立案した陸軍報道部の馬淵逸雄についても語られる。「メディア戦略」を担ったキーパーソンとして紹介されるのだが、番組としての評価が曖昧で、遺族も登場させている。戦時下のNHKにはどんなジレンマがあったのか。今のNHKが、現在の政府のメディア戦略にどう対応しているのかにもかかわる問題でもある。過去の他人事のような流れが気になった。同時に、従軍作家として活躍し、多くの若者たちを戦場に駆り立てた、火野以外の作家たちの戦後にも焦点をあてて欲しかった。さらに、浅田次郎が番組の冒頭と締めくくりに登場し、戦争が始まり、真っ先に侵害されるのが表現の自由であると結論づけるのは、その通りなのだが、火野の苦悩や良心という個人的な事情が、あたかも、他の従軍作家たちの免罪符にもなっているような印象を免れなかった。

火野は、最晩年の『革命前後』で、死後、日本芸術院賞を受賞したという。もし、生きていたら、授賞を受け入れたか、辞退したか。『革命前後』は、私の夏休みの課題図書になりそうだ。

ミヤネ屋の「終戦の日スペシャル」(日本テレビ、815日午後155~)

 知覧からの全編生中継ということであった。特攻隊の基地「知覧」については、出かけたことのある連れ合いからもよく聞かされていたので一緒に見たかったが、緊急の仕事ということで、前半だけだが一人で見た。途中からは、電話があったりで、見たり見なかったり。録画はなんと肝心の後半が時間切れであった。宮根キャスターに同行するコメンテイターは百田尚樹、ベストセラー『永遠の0』の作者だという。

番組では、知覧の滑走路跡、特攻平和会館、戦闘指揮所跡、三角小屋跡地、移築三角小屋、富屋旅館などをめぐりながら、何人かの特攻隊員のエピソードというにはあまりにも過酷な出撃に至る経緯が語られる。また、生き残りとされる人々の証言も挿入される。そこで強調されるのは、特攻隊員はほとんどが命令によるもので、本心は誰もが死にたくはなかったにちがいない思いを証する資料や証言、それぞれの隊員たちにはかけがえのない家族がいて、その家族には心配を掛けまいともする思いに溢れる遺書や手紙が紹介される。そこには、祖国を守るとか、敵を撃墜するとかの言葉はもはや薄らいでいたといってもいいようだ。生還を想定しない特攻作戦は、かなり早い時期から練られていたともいう。

陸軍による航空特攻作戦は、250キログラムの爆弾を装着した戦闘機で敵の艦船に体当たりをして沈めるという無謀な計画だが、機体や操縦の不備で帰還する者もあったという。19453月から719日まで続けられ、犠牲になった隊員1036名のうち、439名が知覧から発進している。九州には鹿児島の鹿屋はじめ、宮崎、熊本、福岡をあわせて12の基地があった。

番組は、2時間近くに及んだ。隊員の、家族の悲劇は語られ、家族の絆は強調されるが、特攻作戦の拠って来る所、こうした戦争が始められ、やめられなかったのはなぜか、一切、遡ろうとしないのであった。

|

« 『天皇の短歌は何を語るのか』(御茶の水書房)刊行のご案内 | トップページ | 残暑お見舞い申し上げます~根性スイカと犬の快癒に励まされて   »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 『天皇の短歌は何を語るのか』(御茶の水書房)刊行のご案内 | トップページ | 残暑お見舞い申し上げます~根性スイカと犬の快癒に励まされて   »