福島第一原発事故の汚染水問題から見えるもの
福島第1原発の汚染水漏れ問題は、安倍首相のIOC総会でのプレゼン「状況はコントロール下に」「汚染水の影響は完全にブロック」発言以降、逆に注目されるに至った。国会での質疑の中で、「全体として状況は・・・」となり、「汚染水の影響はブロック」と「完全に」が消えたではないかと質されていた。しかし、言葉の問題以前に、少なくとも、東電が発表する限りにおいても、現実は、汚染水の漏えいは続き、海への流出は続いている。いったいどういう経過だったのだろうという疑問が、頭をかすめる。私のいつもの流儀で、情報整理のため、以下のような、「福島第1原発の<汚染水>漏れ問題経過年表」を作成し始めた。当初は簡単なつもりがだんだん大掛かりな年表づくりになってしまった。これからも追加や手直しを続けたいが、出来上がった年表をながめて、総じて言えるのは、9月7日の安倍発言は、当然のことながら、その信頼性は国内外で、あっという間に崩れていった。各種の世論調査でも、時がたつにつれて、国民は、その嘘を見抜いて、80%以上が信頼していないことを示した。汚染水の問題が、9月3日の原子力災害対策本部会議における基本方針で「解決に至っていない」としながらの安倍発言であったこともわかった。国内向けと、海外向けを使い分けるということになる。
汚染水問題の基本でもある、福島第1原発では、原子炉冷却のための汚染水は、どのように処理されているのか。処理されるはずだったのか。その、どの過程で、どこで漏えいが続いているのかを時系列でたどると、少し見えてくるものがある。以下は私の理解での感想となる。
「福島第一原発<汚染水>問題経過年表」
http://dmituko.cocolog-nifty.com/fukusimaosensuikeika.pdf
(当初の年表を修正・補充版に差し替えました。10月30日)
・「汚染水」という呼び方
当初は、「放射性物質を含む汚染水」「放射線汚染水」「放射性汚染水」などと記述されながら、「汚染水」に定着してしまった。強制わいせつや強姦を「いたずら」「乱暴」、暴行や虐待を「いじめ」などと表記するのと一緒で、その犯罪性を後退させる役目をしてないか。こんな川柳があった。
「汚染水 きちんと言おう ヒバク水」(茅ヶ崎市 K・K)
(「時事川柳」『東京新聞』2013年10月12日)
・汚染水処理の流れ
建屋の地下貯水槽:2013年1月までに1~7号まで完成、その最大貯水量は約5.8万トン
(原子炉への注水一日約360トン、地下水・雨水流入一日約400トン)
↓ ↑(注水)
セシウム除去装置 ⇒ 淡水化装置 ⇒ 淡水受けタンク
↓
濃縮塩水受けタンク
↓
アルプス
↓
地上貯水槽(高濃度トリチウム含む)
(2013年8月現在量33万トン、容量39万トン、2017年3月までに80万トンまで増やす予定)
↓ ↓
(高線量の廃棄物) (薄めて海へ放出予定)
・汚染水問題はいつから?
3・11直後の、2011年4月4日、東電から放射性物質を含む汚染水1万1500トンを 海 に放出したとの発表があったことから始まる。いきなり大量の海への放出、そ の重大さと過去はどうであったのだろうとの認識が、当時の私などには薄かった。政府は「危険回避のため止むを得なかった」とした。稼働し始めた淡水化装置や汚染水セシウム浄化装置からの漏水は2011年6月に発覚、東電は、港湾内や外洋への流出は認めようとしなかった。しかし、東電は、地下貯水槽自体からの汚染水漏えいの可能性を、2013年4月5日になって初めて認めた。また、海への流出を認めざるを得なくなったのは、海に近い観測井戸におけるトリチウムの数値が増加していた事実からであり、2013年7月22日であった。国の対策も遅れるわけである。それでも、2013年9月3日には、原子力災害対策本部会議で「汚染水問題に関する基本方針」が出され、汚染水問題は「いまだ解決に至っていない」から、国が前面に出でて470億投入するとした。安倍発言への布石だったのだろう。
・汚染水はどこから漏れるのか・・・
地下貯水槽、汚染水浄化装置及びその周辺、汚染水移送配管、地上貯水槽及び堰からの漏えいが想定される。漏えい確認は、上記個所以外のほか観測井戸、港湾内海水、外洋海水などに放射性物質がどの単位で検出されたかどうかが目安になる。現実には、漏えい個所が特定できないまま、放射性物質の検出数値が高くなるケースも多く、地元が懸念する海に近い井戸、港湾内、外洋での数値が高くなっても、長いあいだ、証拠がないと、海への流出を認めようとしなかった。
・「汚染水浄化装置」の故障が続く
汚染水漏れの原因が浄化装置だったという事実も皮肉だが、新聞報道などでは、
「汚染水浄化装置」としか伝えられなかったが、セシウム除去装置であり、まず使 用されたのが、フランスのアレバ社製、アメリカのキュリオン社製の装置だった。その不具合は拭いようもなく、アレバは6月21日に停止した。東芝製の「サリー」も登場するが、2011年9月24日にはこれも停止になった。
・放射性物質除去装置ALPSは機能しなかった・・・
汚染水処理の切り札として、2012年9月東芝が完成させ、2013年3月福島第1原発で試運転が始まったが、6月にタンクの水漏れから一部停止、8月8日不具合から停止した。9月27日再開直後不具合から即日停止となった。9月30日再開、10月4日停止、原因不明という。62種の放射性物質は除去できるが、トリチウムだけは除去できない。平均処理能力は一日640トンと言われる。試運転の再開と停止を繰り返すのは、完成品ではなく、試作の段階ではなかったのか。
・汚染水問題が解決しない一方で
福島第1原発事故の解決や復興が進まないさなか、安倍首相は原発の再稼働に向け、外遊しては、原発輸出の前提ともなる「原子力協定」を、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、インド、トルコ・・・で進める、その心と目は、国民を無視するものではないか。
・「会議は踊る」ようなことになっては?
10月22日、衆院予算委員会の笠井議員の「9月3日の原子力災害対策本部会議で基本方針を決めたが、その後会議は開いたか」の質問に答えて、茂木経産相は「たくさんの会議を作って、連日のように会議だけが踊っていれば問題が解決するとはわれわれは思っていません」と答えていたが、そのまま、政府にそっくりお返ししたいセリフである。年表を見ればわかるように、汚染水問題についても沢山の会議が作られたが、現状の改善は全く見られず、むしろ悪化の一途をたどっているような状況である。上記の、原子力災害対策本部会議は第32回9月3日以降、10月30日現在開催されてはいないのである。本部長の首相は、トルコへの原発売込み営業に奔走中である。
3月7日: 第1回廃炉対策推進会議(議長茂木経産相)
4月26日: 第1回汚染水処理対策委員会(委員長大西有三)
(廃炉対策推進会議のもと)
7月1日: 第1回陸側遮水壁タクスフォース(主査大西有三)
(汚染水処理対策委員会のもと)
9月9日: 第1回汚染水対策現地調整会議
(赤羽原子力災害現地対策本部長/経産省副大臣)
9月10日: 第1回廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議
(原子力災害対策本部会議のもと)
廃炉・汚染水対策チーム会議 (チーム長茂木経産相)
こうした会議の他に原子力規制委員会は、つぎのような会議を発足させた。
2012年12月21日:第1回特定原子力施設監視・評価検討会
2013年8月2日:第1回特定原子力施設監視・評価検討会・汚染水対策検討
ワーキンググループ
2013年9月13日:第1回海洋モニタリングに関する検討会
(担当名中村佳代子原子力規制委員)
これでは、仕事が進まないはずである。まさに「会議は踊る」ではなかったのか。
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