NHKの番組編集権とはなにか~31日衆院予算委員会の質疑中継と「ニュース7」
NHK会長の品位とは
NHKの籾井新会長の1月25日の記者会見での発言は、報道機関のトップとして決して許されるものではなく、辞任に値しよう。個人の発言として取り消して済む問題ではない。安倍首相が仲の良い経営委員を送り込んで選任した会長人事だった。いまだに、「従軍慰安婦はどこにもあったでしょう、フランスはありませんでしたかァ?ドイツはありませんでしたかァ?」とそのへんの一杯飲み屋の酔っぱらいの風情だった。あの品位のなさはどこからくるのだろう。安倍首相が口にする「女性の力の活用」の本気度が知れる。
衆院予算委での質疑
この件に関して、1月31日の衆議院予算委員会では原口議員(民主党)が質問した。NHKの国会中継を見ていたのだが、議員は、放送法の第1条と4条を前提に、番組制作の最終責任は会長にあることを確認した上で、会長①「特定秘密保護法が通っちゃったんだからしょうがない・・・」発言、②国際放送における政府が右と言っているものを左とはいえない・・」発言に絞って、放送法4条第4項「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」に反するとの質問であった。NHK会長は、どの質問にも、参考人席の真後ろの事務方が脇の下に差し出す紙片を受け取ってからの答弁となった。しかも、慣れない席での記者会見で私的な意見を述べたことを陳謝したが、答弁は、放送法の条文を読み上げることを繰り返すばかりで、質問とはかみ合わない内容のないものだった。
「毎日新聞」(2014年2月1日)朝刊
三本の手?背後から伸びる手は?
二つの疑問
このやりとりで、私はつぎの2点に疑問があった。番組制作・編集権は、ほんとうに会長にあるのか。放送法のどこにもその記載はない。NHKの総括的な責任は会長にあることは確かだが、制作・編集は実質的には番組担当者だと思うし、番組にかかわる件は番組担当者に伝えるというのが、NHKの視聴者センターの姿勢でもある。もっとも会長に最終責任があるということが大昔からの「内規」にあるらしいとは、放送関係者から聞いたことがある。今回のNHK会長の暴言は番組編集の責任者である会長として「ケシカラン」というよりは、報道機関、公共放送のトップとしての資質の問題ではないだろうか。 選任した経営委員会にも大きな責任があるはずだ。
つぎに、質問者の原口議員は、委員会質問の事前に行われたNHKのレクで、「従軍慰安婦関連の記者会見のやりとりのみが私的な意見として取り消されたので、この問題には今日は触れない」と、質問の冒頭で明言したことである。ということは、記者会見における他の質疑における会長答弁は、公人としての発言だったことを認めたことになる。だとしたら、あの会見の暴言は、経営委員長の国会での答弁のような「今回のことを踏まえても、会長として適任だ」として「お咎めなし」で済まされる問題ではないはずであろう。この2重の意味での経営委員会の責任がある。にもかかわらず、安倍首相は、経営委員の選任についての質問に「経営委員会の決定に介入するつもりはない」と、意図的にすり替えた答弁をするのである。
その日の「ニュース7」
そんな疑問が去らないまま、当日の「ニュース7」を見た。
「消費者物価指数上昇」「有効求人倍率、職種で違い」「ソチオリンピック、あと1週間」に続いての「国会質疑」であった。エネルギー政策、核密約問題、特定秘密の廃棄問題についての質問は、要約のアナウンスだけで、安倍首相の答弁のみを画像と肉声で放映するとう方式である。さらに、NHK会長の質疑に移るが、原口議員の質問は一か所だけ取り上げられ、あとは、会長の答弁が続くのだが、いくつかの質問の回答を適宜、つなげての編集であった。しどろもどろの繰り返し答弁が、整った形で答弁したように映るしかけである。さらに経営委員長には、会長の記者会見発言に経営委員会ではどういう議論がなされたのかの質問については、一切アナウンスがないまま、会長答弁に続けて、答弁の一部のみが放映されたのである。何に応えているのか、ニュースだけを見ている人はおそらくわからないだろう。伝わるのは、ただ最後に、軽々しい発言を遺憾に思い、注意したことがわかる程度で、この件は、一件落着という筋書きのニュースであった。そして、このニュースのつぎに流れたのが、「外国観光客にもわかりやすい、地名・施設標識」で、これまでのローマ字表記がわかりにくいので、たとえば「roppongi dori」の「dori」を「street」にするとか、「sensoji」の後ろに「tenple」を付記するとか、大きなパネルまでつくって、それは丁寧にいくつもいくつも紹介していた。前記「国会中継」のニュースより長いくらいの時間を割いてであった。しかも、このニュースは6時台の首都圏ニュースでも放送されたのを、私は見ていた。「ニュース7」の全国ニュースで、こんな扱いを受けるニュースではなかったのではないか。
この実に恣意的な編集がまかり通る恐ろしさを、改めて感じた。発言の切り取り方、画像の切り取り方、自由自在なのだから。放送法第4条には、「1.公安及び善良な風俗を害しないこと。2.政治的に公平であること。3.報道は事実をまげないですること」の3項もあるのだ。とくに報道番組の編集は、先の第4項も踏まえて、どのニュースを取り上げるか、どれほどの時間をかけるのか、繰り返し報道するのか、などさまざまなバランスが問われる仕事で、不断の努力が要求されるはずである。
NHK会長の記者会見発言のNHKの報道の絶対量が極端に少なかったのは歴然としていた。1月25日の会見当日の「ニュース7」では、放送法を順守するという所だけを伝えるのみで、他局が報じた従軍慰安婦発言領土問題についての発言は全く報じなかった。28日「ニュース7」になってようやく、衆院本会議の民主党海江田代表の質問で言及したことで会長の従軍慰安婦発言が伝えられただけだった。そして、31日の「ニュース7」での報道となったのである。
「なに様」のNHK?
少なくとも私が、ほぼ毎日見ている「ニュース7」は、とくに最近、このバランスは大きく崩れ、政権へのすり寄り、政権の広報が顕著になり、「安倍首相」を主語とするコメントと「経済の好循環?」の一端をどこからか拾ってきて流し続け、ソチオリンピックや6年後の東京オリンピック関連、サッカーや野球選手の移籍のニュースを長々伝え、災害や事件・事故があれば、大々的に報じ、政治ニュースを押しやる傾向が続いている。ニュースの軽重のバランスが取れていないことが続く。と感じるのは、私の偏見でもなさそうなのは、テレビ欄への番組に対する投稿でもよく見かけるようになった。
ニュースに限らず、他の番組、たとえば、大河ドラマさえ、「黒田官兵衛」のあとは、安倍首相の地元を舞台にしたいと、ドラマになりそうな話を探って、ようやく吉田松陰の妹をヒロインにすることになったという話さえ聞こえて来るではないか。
受信料で成り立っている公共放送「みなさまのNHK」への監視を怠ってはならない。
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コメント
花燃ゆ は、安倍首相のシンパである、小田村四郎拓大氏のご先祖の物語です。小田村氏の兄寅次郎氏は、戦時中、自由主義的な教授にクレームをつけ、謝罪させるような活動に熱中した右翼学生。矢部貞治、宮沢俊義、河合栄治郎、といった人たちへの嫌がらせを得意にしていた人間です。あまりのひどさに退学処分。これを勲章に右翼の大物にといった人物。四郎氏も、学徒出陣したものの安全な主計、戦後は日銀のお偉方。
投稿: 藤原正樹 | 2014年2月11日 (火) 00時03分