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2014年2月 5日 (水)

戦争体験文庫企画展示「愛国百人一首を読む」展へ行ってみたい~少し遠い奈良県立図書情報館

 

 

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 ネット検索をしていたら拙著の一冊がヒットしたサイトがあったので、アクセスをしてみると、上記の展示に行きあたった。1月から3月までの展示なので、お正月にゆかりのある「百人一首」にちなんだ企画だったのだろう。拙著との関係でいえば、この展示会の「展示資料リスト」の最後尾に『現代短歌と天皇制』(風媒社 2001年)が記されていたのだ。

http://www.library.pref.nara.jp/event/booklist/W_2013_36/book.html 

戦争体験文庫とは

 実は、今回、この奈良の県立図書館において200511月開設された「戦争体験文庫」の存在とそれを核にした企画展示が、2006年以降、今回で36回に及んでいることを知った。それぞれの小テーマをもっての展示会は毎回13か月の期間で、ブランクなく続いているようで、その一覧を見ていると、館長や職員たちスタッフたちの資料収集と保存の心意気と何よりも資料を通じて歴史を伝えようとする姿勢に感動さえ覚える。こうした地味な活動が営々となされていたことに敬意を表したく、出かけてみたい気持ちにもなり、とりあえず紹介したいと思った。

5万点以上の資料の中から、たとえば、「戦地と手紙」シリーズでは、「出征」「戦地からの手紙」「戦地への手紙」「帰還」の4回、「戦争と食べもの」シリーズでは「コメの配給と供出」「野菜」「調味料」「代用食」の4回、最近では「かるたで読む『戦陣訓』」「日赤奈良班看護婦の手記から」シリーズでは「原爆の惨禍を目のあたりにして」「病院船上にて」「灼熱の陽の光の下で」「815で終らなかった戦争」4回、「大和の隣組・戦争を支えた地域組織」「貯蓄報国」などという、キメのこまやかさで、戦争体験を伝えようとしている企画であった。当時の図書・雑誌資料に限らず、非文字資料や軍票やチラシなどもふんだんに展示した上、さらに背景及び周辺の軍関係資料、国や地方の行政資料、現在に至る歴史研究の成果なども併せて展示されているのが特徴と言えよう。「看護婦の手記」は、日赤奈良支部に寄せられた直筆の体験記を翻刻したものがテーマに合わせて数点づつが展示されている。銃後の衣食住は、現在の朝ドラ「ごちそうさん」などの時代考証に役立つものばかりだろう。

http://www.library.pref.nara.jp/sentai/kikaku.html

 私の戦争体験記録へのこだわりは、遡ること数十年前、私の国立国会図書館職員時代、外部からの依頼で、初めて作成したのが、「戦争体験記文献目録」(阪上順夫編著『戦争体験の教材化と授業』明治図書 19759月)であったからだ。現在にあっては、戦争体験記録自体の絶対量がケタ違いに多くなっているだろうし、その公開態様、電子版、私家版、自費出版など多様化、死蔵されている例も多くその発掘、検索ツールも多様化して、膨大なものになるだろう。追補版いやあらたな作成をする時間と体力がもはやないのは確かとなってしまったので、こうした奈良県立図書情報館、一自治体での事業を心強く思うのだった。なお、かつて紹介したこともあるが、NHKの「戦争証言アーカイブ」の努力も評価したい。いま、結論を急げば、究極的には、国立国会図書館などが中心になって、早急に進める計画が立てられないものだろうか(吉田裕「戦争体験記録を後世へ~国の責任で専用の図書館創設を」毎日新聞 2013815日)。

NHK戦争証言アーカイブ

http://www.nhk.or.jp/shogenarchives/

「愛国百人一首を読む」展

 今回の展示のテーマである「愛国百人一首」とは、何であったのか。展示の解説においては、日本文学報国会が「昭和1711月〈愛国百人一首〉として、上古から近世までの〈愛国歌〉百首を発表しました。これは、佐佐木信綱、釈迢空(折口信夫)、斎藤茂吉ら第一流の歌人からなる日本文学報国会短歌部会が、 歴史家や大政翼賛会、内閣情報局や新聞社などの協力を得て選定したもので、数多くのかるたや解説本が商品化されるなど、大きな反響を呼びました。 終戦までの3年弱と短い期間ながらも、異種百人一首としては異例の普及を遂げた愛国百人一首」であったと述べている。

 

また、今回の「資料展示リスト」は、つぎの4部立てになっていた。「愛国百人一首」は、が発表されたのは、194211月、新聞、雑誌、ラジオでの宣伝はもちろん解説書類の出版にはすさまじいものがあった。私が、これまで、比較的よく検索してきた『短歌研究』などの短歌雑誌、結社誌、婦人雑誌においても、「愛国百人一首」の解説記事が氾濫した。その一部が、以下の13のリストにも表れている。

 

1. 解説本(11冊)

2. 選者の歌論など(36冊)

3. 日本文学報国会の刊行物(7冊)

4. 文学史的位置づけ(4冊)

 

 解説本のうち、いま私の手元にあるのは、昨年末、櫻本富雄さんから頂いた『定本愛国百人一首解説』(日本文学報国会編纂 毎日新聞社 1943325日発行、4371日再版、70000部)であり、このリストにはない、つぎの2冊もあった。

 

・『愛国百人一首年表』(日本文学報国会編 協栄出版社 194311日、一万部

・『愛国百人一首』(窪田空穂著 開発社 1943721日、1万部1944318日、6千部)

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 用紙不足のこの時期、発行部数を見ても、当時のこの種の書物がいかに優遇されたかがわかる。これまで私の調査の限りでも、通常の歌書や評論集などでも多くて30005000部が通常であった。上記の解説書『定本愛国百人一首解説』で見てみると、 選者は、佐佐木信綱、窪田空穂、尾上柴舟、太田水穂、斎藤茂吉、釈迢空、土屋文明、松村英一、川田順、吉植庄亮、斎藤瀏の11人であった。

上記『定本愛国百人一首解説』の「凡例」によれば、日本文学報国会が、情報局、大政翼賛会の後援、毎日新聞社の協力により、選者11人とともに選定顧問として、文部省・陸軍省・海軍省・日本放送協会などの役職と徳富蘇峰・下村海南・辻善之助・平泉澄・久松潜一らが名を連ねる。なお、緒論は窪田、解説は土屋・尾上・吉植・川田・松村の5人が分担執筆している。緒論では、愛国百人一首の選定は、「現在われわれが抱いている愛国の至情が祖先の血肉と共に伝えられ来たものであることと、高貴な和歌の形式をもつて伝えられてゐることを一般に味解させる事業」である、と言う趣旨のことを述べている。さらに、「解説は、名のごとく解説に止どめ、その事の精細は期してゐるが、文芸としての和歌の方面へは、心して亘らせまいとして」いるとも記していることは着目したい。柿本人麻呂「大君の神にしませば天雲の雷の上にいほりせるかも」から橘曙覧「春にあけてまづみる書も天地のはじめの時と読み出づるかな」までの各首のに大意・作者略伝・制作事情・語釈・出典が示される。丁寧な解説書にはなっているが、短歌とあまり縁のない一般国民はどんなふうに受けとめていたのだろうか。各種のテキストや解説書などが今日のベストセラーなみに流布していたと思われるがその受容が知りたいと思った。

 

 「2.選者の歌論など」では、選者たちの、「愛国百人一首」発表前後の著作が、いわば時代の背景として展示され、本展の中でも一番の多い冊数となった。「3.日本文学報国会の刊行物」では、詩歌、詩や俳句の分野での出版物が紹介されている。「4.文学史的位置づけ」において、拙著は以下のように4冊の1冊としてリストに掲げられていたのだ。

                                                               
   

書名

   
   

責任表示

   
   

出版者

   
   

出版日付

   
 

911.16-コイケ

 
 

昭和短歌の再検討

 
 

小池光ほか著

 
 

砂子屋書房

 
 

2001.7

 
 

911.16-118

 
 

昭和短歌史

 
 

木俣修著

 
 

明治書院

 
 

1964.10

 
 

911.16-サエク

 
 

昭和短歌の精神史

 
 

三枝昂之編著

 
 

本阿弥書店

 
 

2005.7

 
 

911.16-ウチノ

 
 

現代短歌と天皇制

 
 

内野光子著

 
 

風媒社

 
 

2001.2

 

 

 

 

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コメント

展示を担当した者です。取り上げていただいてありがとうございました。内野様の著作では、Webなどで調べていて、『短歌と天皇制』のほうが、愛国百人一首の問題に近いのかな、とも思いましたが残念ながら、職場の蔵書になく、代わって『現代短歌と天皇制』をピックアップさせていただいた次第です。
「2.選者の歌論など」については、選書が雑で恥ずかしい限りですが....

ちなみに、この展示の準備でサイニーを見たのですが、取り上げた論文が少ないのには驚きました。やはり、佐々木など戦後短歌界の巨匠にとっては、暗部なのでしょうかね?

投稿: まつき | 2014年4月15日 (火) 21時35分

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