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2015年3月26日 (木)

春の六本木~白日会展とルーヴル美術展へ

開花宣言も聞かれる東京に出たが、323日、用事が済んで向かったのは、国立新美術館。恩師の乙黒久先生が属されている「白日会展」へ。沢山の力作の中をめぐって、先生の「夕装」という題の山の絵の大作も見つけることができた。池袋三越の閉店と共に乙黒先生の個展が開かれなくなり、「白日会展」も私には、久しぶりだった。米寿も近く、ご健筆ぶりにただただ脱帽の思いである。会場は、心洗われるような風景画と共に若い女性を描いた人物画が多く、なかでも美しさや愛らしさを超えたところの志や意思を秘めた表情に惹かれるものが多かった。先生、ご招待状、ありがとうございました。

同じ美術館では、「ルーヴル美術館展」が開かれているのを知った。そう、フェルメールの「天文学者」が来ているというのが話題になっていたのを思い出した。「日常を描く―風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄」の副題がある美術展だった。中世の宗教画は苦手だけれども、16世紀から19世紀まで、この時代の風俗画は、農民や職人、商人たちの暮らしや家族や階層の関係が分かって興味深い。83点ほどの作品は以下の構成による展示だった。

プロローグⅠ 「すでに、古代において…」風俗画の起源  

プロローグⅡ 絵画のジャンル  

第Ⅰ章 「労働と日々」―商人、働く人々、農民  

第Ⅱ章 日常生活の寓意―風俗描写を超えて  

第Ⅲ章 雅なる情景―日常生活における恋愛遊戯  

第Ⅳ章 日常生活における自然―田園的・牧歌的風景と風俗的情景  

第Ⅴ章 室内の女性―日常生活における女性  

第Ⅵ章 アトリエの芸術家  

鳩売りや抜歯屋という商売もあったことや画家たちが占い師や物乞いの人たちにもクールながらときにはあたたかい眼差しをもって描いていることも知らせてくれる。プロローグⅡにあったル・ナン兄弟の「農民の食事」(1642年)という、テーブルを囲み、ワインとパンだけのような食事をする男たち、彼らを巡る家族たち、加えて左端には画家を見つめる子犬を配したかなりの大作である。日常のなかの家族のやすらぎと生活のきびしさが感じられる一場面のように思えた。2009年の国立西洋美術館のルーヴル展でも、同じル・ナン兄弟の「農民の家族」にも犬がいたのではなかったか、思い出すのだった。

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ル・ナン兄弟「農民の食事」

コローの作品は何点かあったが、第ⅴ章にあった「身づくろいする若い娘」と「コローのアトリエ」のマンドリンを右手に持ったまま、キャンバスの書きかけの絵に見入っている若い女性の絵が印象的だった。この絵とほぼ同じ構図の作品もあるそうなので、愛着の深かったテーマだったのでは。また、第Ⅵ章は画家の内面を見るような楽しみもあった。

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コロー「コローのアトリエ」

今回のシャルダンは、「買い物帰りの召使い」が、なんとなく物憂い感じが出ていて、袋をはみ出す品は何だろうと親しみを覚えるのだった。

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 シャルダン「買い物帰りの召使い」

フェルメールの「天文学者」は、チケットやチラシにもレイアウトされていて、その展示も、ほぼ一部屋が当てられ、別格扱いであったが、想像よりもむしろ小さな作品だった。2009年の「ルーヴル展」では「レースを編む女」はさらに小品であったことも思い起こす。昨年11月の旅先で、フランクフルトのシュテーデル美術館では貸し出し中で見ることができなかった「地理学者」、今回は、そんな「地理学者」のコピーとの対比で解説がされていたのも興味深いものがあった。 

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    フェルメール「天文学者」

美術展のハシゴは、やはり疲れました!

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2015年3月24日 (火)

<法治国家>が聞いてあきれる~政府の沖縄知事への対応

   なんとまあ、どこから「我が国は法治国家ですから」なんて言うセリフが飛び出してくるのだろう。 これも「表現の自由」?とでもいうのだろうか。  

   近頃の安倍首相や閣僚たちの「日本語」が間違っているのではないか。いや、言うに事欠いて、自らの道理が通らず、不都合なことになると、「法治国家」や「粛々」「遺憾」が登場してくるのだ。自分たちの違法や脱法行為が指摘されると、無視か「真摯に受け止める」程度のことなのだ。  

   きのう3月23日、翁長沖縄知事の沖縄防衛局への「辺野古作業停止指示」を受けて、菅官房長官は記者会見で「この期に及んで、報道されているようなことが検討されているなら、防衛省と沖縄県が事前に十分な調整を行った上で許可を得ているので、甚だ遺憾だ」と述べ、「現時点で中止する理由は認められない。環境に万全を期して粛々と進めたい」と明言した。また、中谷防衛大臣も記者会見で「手続きについては法令に従って、適正に行った上で、現在作業を進めているところであって、引き続き、粛々と進めていく」と述べた。そして、両者とも「日本は法治国家ですから・・・」と投げやりとも思える風情で発言していたのを私も聞いている。
    これらの発言と政府の対応に、地元の新聞は、その「社説」で次のように述べている。

  「見たくない現実  から目を背け、都合のよい事情だけ取り入れて強がり、恫喝(どうかつ)する。仲井真前知事による埋め立て承認にすがりつき、沖縄の民意を問答無用で組み敷くことしか打つ手がないことの表れだ。子どもじみた心性が際立つ。民主主義の価値を損なう政権の低劣な品格が映し出されている。」(「琉球新報」2015年3月24日社説)  

  なお、ちなみに、国会議事録による安倍首相、菅官房長官になってからの2012年12月以降の発言を以下のキーワードで検索すると、つぎのような結果となった。これは、議会内の発言であるが、記者会見やぶら下がり取材での発言では、また異なる傾向を示すかもしれない。「遺憾」「万全を期す」は、窮地や危機的状況にあっての常套句となっているのではないか。「シッカリ、テイネイ」と発するのは、まず、「しっかりと、丁寧な」説明や取り組みがなされなかったことを意味し、これからもその気がないことを示しているときの合言葉でもある。

「国会議事録」にみるキーワード収拾

2012年12月~   安倍首相           菅 官房長官  

法治国家         2件               7件
粛々            2                 4
遺憾             32                   5
万全を期す        31                             5        
真摯に受け止め    15                  4
しっかり         171                84
丁寧           100                10
しっかり 丁寧        67                 3

期間中の国会で
の全発言件数     180件              146件

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2015年3月16日 (月)

「順天堂大学誘致」はどうなったか、佐倉市議会の質疑から見えるもの

  2月9日、3月8日の当ブログでは佐倉市の「順天堂大学誘致」に関する、地元の不動産業者「山万」と順天堂大学のおかしな動きについて調べてみた。その後、佐倉市2月議会の中継録画が下記にアップされた。新聞記事は市長の答弁の要約であったが、中継録画を見て、誘致推進派議員たちの、市民そっちのけの、税金を市長のポケットマネーのように24億円を「持ち出せ」、「金を出せ」と迫る言い分にはあらためて驚いた。

  以下のサイト「録画配信」の用語検索で「大学誘致」のキーワードを入力すると、過去の議会にさかのぼって質問をした議員と市との質疑の全容が分かるので、進行の見当を付けて、その部分の画像と音声が視聴できる。
http://www.sakura-city.stream.jfit.co.jp/

  録画によれば、2月議会で、質問の大部分をこの「順天堂大学誘致」問題にあてた、さくら会古参のK議員は、後半は、まったく中身のない執拗さで市長に質問していた。私は、現市長の市政に対する考え方について、さまざまな疑問や注文を持つ一市民ではあるが、いまのところ、この順天堂大学誘致の件については、フラフラしながらも、まあ、まっとうな答弁だったと思っている。

  K議員は、2012年11月、市議会の多数で大学誘致に関する意見書を可決し、以後、2013年11月に山万からの用地無償提供、大学からのスポーツ科学部キャンパスの移転に伴う建設費の半額24億円支援要請があった以上、大学とも早く話し合って決断すべきだったとする。

  市長は、大学の当初の佐倉市進出計画は、他の学部新設だったり運動部用の寮建設だったりで方針が定まらなかったが、上記の計画が提示されたのが2013年11月、昨年の「懇話会」設置で、第三者の意見提出を得た。さらに大学側の建設計画と費用の積算根拠の提示を求めてきたが、いまだにその提示がない以上、この計画は進められないとする。

   先の当ブログでも報告しているように、市議会の大学誘致意見書可決は、あくまでも一般論で、具体的な計画があってのことではなかったこと、公的支援要請の積算根拠が不明な以上、市民への説明責任が果たせていないことは確かである。さらに、都市計画変更の手続きは、いまだスタートしていない。山万が業務代行となって進められる土地区画整理事業組合を立ち上げるための準備会がようやく申請されたばかりで、地権者、周辺住民の合意形成はこれからだろう。どんなビルが建ち、周辺の環境に与える影響が分からず、学生の移動や活動内容、職員の動向も知らずして、財政支出を決断せよというのは無理な話ではないか。

  ユーカリが丘一帯を区画整理事業という形で開発を進めてきた山万は、つねに土地区画整理組合の業務代行として、都市計画の変更や宅地造成工事を仕切ってきた。千葉県や佐倉市を巻き込んで、ときには公的資金を引き出し、周辺住民に意向を無視して進めてきたのが実態である。私は周辺住民の一人としてそうした状況を目の当たりにしてきた。その一部は、ブログ記事として報告してきた。土地区画整理による開発が住民に、佐倉市にどれだけの成果をもたらしているか、いないかも実感しているだけに、この問題は、重大な関心事であり、その成り行きを注視したい。 

   なお、先のK議員は、質問に事欠いて、この間、当ブログでも紹介した新聞報道について「新聞を利用して世論誘導をしたのは誰だ」というのだ。それでは、31日の朝日新聞の妙な記事をどう読むのか。それを言うのなら、いまのテレビや新聞、はてはネット情報に至るまで、みな世論誘導、世論操作の具になりかかっている部分がある。だからこそ、情報の海におぼれないためにも、私たち市民は、市議会、審議会、市は何をしているのかを、できれば直に、根気よくウォッチしなければならない。

  当ブログの、「土地区画整理事業」に関する記事は、以下の他、カテゴリー「土地区画整理事業」「都市計画」の記事を合わせてご覧いただきたい。

・ユーカリが丘駅前の大学誘致をめぐるおかしな動き、やっぱり、山万が ~第3回「大学等の誘致に関する懇話会」(20141010日)傍聴から振り返る」(1)(2)

http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2014/10/post-7e2b.html
 
20141010日)

http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2014/10/320141010-ebd5.html 

20141014日)

・ユーカリが丘、順天堂大学キャンパス誘致、見送り?201529日)

http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2015/02/post-fea7.html

・佐倉市の大学誘致はどうなるのか~順天堂大学おかしな動き、その蔭に
201538日)

http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2015/03/post-5d0f.html

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「ユーカリが丘地域まちづくり協議会」はなぜ不認証になったのか(2) 2012.02.08

「ユーカリが丘地域まちづくり協議会」はなぜ不認証になったのか(1) 2011.12.06

佐倉市の縦覧制度と情報公開制度の実態~土地区画整理事業について、先ごろ、こんなことがありました・・・ 2011.03.02

「奇跡の街、ユーカリが丘」、開発の基本に立ち戻ってほしい~「カンブリア宮殿」を見て 2010.09.15

佐倉市都市マスタープランの見直しへ、市民の意見を反映するというけれど 2010.07.13

マイリスト「すてきなあなたへ」に5657号を登載しました 2009.08.14

町の名前、こんな風に決まるんだ~「ユーカリが丘」って、どこまで?! 2009.07.06

ディベロッパーの責任~宣伝がすぎると 2009.05.07

無計画な都市計画~千葉県佐倉市の場合も 2009.04.27

住宅街の真ん中に、24時間営業のスーパーができる、大店法は何を守るのか 2008.09.06

「考える街。ユーカリが丘」って、ディベロッパーは何を考えているの(2) 2008.06.04

「考える街。ユーカリが丘」って、ディベロッパーは何を考えているの? 2008.03.31

道路は誰のために佐倉市はなぜ車輌通行止めを拒むのか 2007.11.24

マイリスト「すてきなあなたへ」に49号を登載しました 2006.12.23

佐倉市都市計画審議会、やっぱりおかしい~~行政・議長の露骨な賛成誘導と議長の条例違反明らか 2006.11.19

マイリスト「すてきなあなたへ」に48号を掲載しました 2006.09.30

堂本知事、千葉県都市計画公聴会って何ですか 2006.09.25

佐倉市井野東・井野南開発はどうなるのか 2006.08.24

区画整理組合への助成金は、やはり業者への後押しだった! 2006.06.17

区画整理組合による開発の企業主導と行政の後押し「佐倉市都市計画見直し」説明会に参加して 2006.04.25

すてきなあなたへ
No44,45
号をアップしました。

2006.03.23

助成金は土地区画整理事業の延命装置か佐倉市、井野東土地区画整理組合の場合 2006.03.15

道路用地費11億円はどのように決まったのか(3)異議あり!井野東土地区画整理事業への公管金 2006.03.13

道路用地費11億円はどのように決まったのか(2)井野東土地区画整理事業における不動産鑑定の怪2006.3.10 

道路用地費11億円はどのように決まったのか(1)井野東土地区画整理事業公管金の謎 2006.03.07

土地区画整理事業における住民参加(2)行政と業務代行のはさまで 2006.02.28

土地区画整理事業における住民参加(1)行政と業務代行のはざまで 2006.02.26

 

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2015年3月11日 (水)

桜は、まだ、かたい蕾の上野公園、「新印象派展」へ行ってきました

  久し振りの精養軒でランチを済ませ、連れ合いは、東京駅近くでの約束があるということで、韻松亭の前で別れ、私は、新聞の販売店から抽選で?頂戴した招待券で、「新印象派展」へ行ってきた。「新」がつく「印象派」、ピサロ、スーラ、シニャックらの点描派を指すらしい、というくらいの知識での入館、それほど混むこともなく、ゆっくり回ることができた。

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チケットの作品は、スーラ「セーヌ川、クールブヴォワにて」(1885)

1874年の第1回以来、8回の印象派展すべてに参加したピサロは、早くからスーラ(185991)、シニャック(18631935)らの新しい技法の可能性を認め、1885年頃には自らも点描技法を用いたとのこと。ピサロ(18301903 )は、スーラ、シニャックに、1886年に開催される最後の印象派展に参加するよう勧め、3人の運命的な出会いの場にもなったのがセーヌ川の中州「グランド・ジャット島」の由、スーラの代表作「グランド・ジャット島の日曜日の午後」の習作4作品(188486)が展示されている。この島は住宅街になっているそうだが、ゆったりとくつろぐ家族連れ、カップル、犬などを配した川岸の光景が描かれていた。

点描派と言えば、水面や空に映る光と影を微妙な色合いと筆致で描くやさしく穏やかな作品が多いといった先入観があった。

今回、私は、これまで、まったく気づかなかった一人の画家マクシミラン・リュス(18581941)と新印象派を理論的に支えたフェネオンという批評家の名前を知ることになった。とくにフェネオンについては、西洋美術史上では、新印象派の命名者であり、擁護者であった批評家、編集者、晩年は画商として著名で、何人かの研究者が言及する人物であった。

リュスの作品で、この日、見ることができたのは、つぎの11点ほどだ。

①モンマルトルからのパリの眺め(1887

②ルーブルとカルーゼル橋、夜の効果(1890

③若い女性と花束(1890

④城塞の丘、サン・トロペ (1892

⑤サン・トロペの港(1893

⑥墓地への道、サン・トロペ(1892)

⑦カマレの埠頭、フィニステール県(1894)

⑧海の岩(1893

⑨工場の煙突(189899

⑩シャルルロワの高炉(1896

⑪シャルルロワの工場(1903

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⑦カマレの埠頭

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⑩シャルルロワの高炉

①②は、パリ散策の思い出の地でもあり、そんな俗な関心もあったが、同じ点描でも、他の画家に比べて、荒々しさと力強さが感じられた。サン・トロペでの作品は、南仏サン・トロペに魅せられて移り住んだシニャックに招ばれた頃の作品である。⑦の岸に寄せられた幾隻かの小さな帆船の内外に動く人々のシルエットには、思わず引き寄せられた。フィニステール県は、フランスのブルターニュ半島の先端に位置し、その漁港でもあるのだろう。また、⑨以降は、ベルギー南部の工業都市シャルルロワの工場とそこに働く人々が描かれていて、その題材は、私には、想定外であり、いささか驚いたのである。さらに、リュスは、ピサロから親しく点描主義を学ぶのだが、会場の年表によって18944月、リュスは、フェネオンとともに、アナーキスト三十人事件で逮捕拘留されていたことを知る。リュスが、その後、工場や労働者を盛んに描いたのもうなづけることだった。フェネオン(18611944)の名は、今回の展覧会の「チラシ」の冒頭にも登場していた。

 「美術批評家フェリックス・フォネオンが「新印象派」と名付けたのは1886年のことです。この年の5月、最後となる印象派展が開催され、ここでジョルジュ・スーラ、ポール・シニャックらによって色彩を小さな点に分割する新しい技法の作品が初めて発表されました。観る人の目の中で混ざるように置かれた小さな点は、色彩の輝きと光の効果を高めるものでした。新印象派の作品は、翌18872月にはベルギーに出品され、すぐに国際的な広まりを見せます。」

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展示されていたシニャックのパレット

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2015年3月10日 (火)

「籾井NHK会長 NO!~NHKを国策放送局にするな」の院内集会に参加して

 NHKは変えられるのか

 昨日39日、参議院議員会館で「籾井NHK会長 NO!~NHKを国策放送局にするな」という集会に参加した。主催は、放送を語る会と日本ジャーナリスト会議、集会に先だってNHKには、「籾井会長・百田・長谷川経営委員罷免要求署名」と申入書を届けている。賛同団体の視聴者・放送関係者代表ら23人と会見する部屋さえ用意しなかったというNHKの対応にもあきれる。

 集会では、主催団体から、これまでの署名73000余の署名と全国に広がるNHK問題に取り組む視聴者の動向が報告された。NHKが時の政権に左右されることなく、自立性を保つにはどうすればいいのか。NHKへの不満や抗議をぶつけるだけでなく、制度上の問題や制度改革の対案をということで、短い時間だったが、メディア研究者の松田浩さんと醍醐聰NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ共同代表の話があった。焦点は、やはり会長と経営委員を選任する仕組みだった。このうち、経営委員の選任は国会の同意人事となっている。NHK予算・事業計画を国会で承認するという今の制度の是非も取り上げられた。

前者の提案は、先進諸国に学び、特別法で第三者候補者選定制度を新設し、そこで会長や経営委員を選んで、内閣総理大臣が任命するというのが骨子である。さらに、敗戦直後の電波監理委員会にならって独立行政委員会(機構)を設置して行政権限を移し、委員の任命は推薦公募制を採用するというもので、いずれの構想も立法論の域を出ない。

後者の提案は、立法を待ってはいつのことになるか分からないので、現行法でできることから始めようとする趣旨で、放送法では、経営委員会が会長を選任する権限はあるが、会長候補推薦過程で、推薦・公募制を導入することは現行法の下でも不可能ではない。この過程で、各関係団体や視聴者の意見を反映できる仕組みを考えるというものだ。経営委員は、現行法上は国会の同意人事であるため、政権を監視すべきメディアの経営委員を政権が選ぶという実態から抜け出せない。これは法改正を伴うものであるから、大変な作業と時間を要することは確かだ。また予算と事業計画は経営委員会の議決事項であり、さらに、業務監督、番組基準、編集に関する基本計画を議決する権限も、放送法に規定されているのだから、この権限をフルに活用して自立性を高めようとするものだ。これも経営委員人事の国会同意制は、放送法の放送の公平・自立という目的自体と矛盾をはらんでいるので廃止すべきだとする。

現行法でできること、法改正をしなければ出来ないことを明確にすることが大事だと思う。ただ、松田さんの立法論の中で、NHKの会長も経営委員もなぜ内閣総理大臣が任命とするのだろうか。税金で賄う国営放送ならいざ知らず、民主的な立法を目指していながらなぜ?という、違和感があった。

視聴者の危機感と意思表示

そこで考えるのは、私たち視聴者が、いまのNHKに異議を申し立てするとしたら、どんな方法があるかということである。

そんな中で、全国の視聴者や放送関係団体が立ちあがり、この日の集会の賛同団体も26団体に及んだ。そこでは様々な試みがなされている。その報告を兼ねたリレートークは、なかなか迫力があるものだった。メデイアのトップとしての資質に欠ける会長の辞任、その会長を選任した経営委員の責任や辞任を迫るグループ、さらに、そのもとで働くNHK職員たちは奮起せよ、組合は何をしているのか、とさまざまである。なかには、NHKは良い番組を作ることもあるのだからほめてあげようという人もいた。

しかし、私が思うのは、視聴者の意思表示として、最も有効なのは何かということだ。コールセンターに意見を伝えるのも大事だが、ほんとうに番組担当者や役職者たちに届いているのかは疑問だ。もし、届いていたとしてもその対応は私たちに何一つ届かない。視聴者の意見を妙なまとめ方をした統計が公表されるだけである。やはり、偏向報道やタレントの大騒ぎ番組を見せられると受信料を払う気がしない。役員・職員給与の異様な高さを思うと払う気がしない。今日のような集会に職員組合「日放労」は参加しようとしない。視聴者の声を本気で聞こうとしない姿勢が蔓延しているのか。 

集会の中の報告で、どなたかが「NHK朝ドラばかりが平和主義」という川柳を紹介していたが、朝ドラが「平和主義」だなんていう認識自体が、番組の人気に迎合しているだけではないのか。その危機感の薄さにいささかがっくりした。たとえば、「花子とアン」では、村岡花子と柳原白蓮を「モデル」と称しながら、都合の「イイとこどり」しかしてない史実との向き合い方を、私は許せないでいる。多分、戦時下の大政翼賛的な発言や行動を知っていながら、そこをスルーして、あたかも反戦主義者のような、ひそかに抵抗していたような人物に仕立て上げていることについて、いくつかの反論が出ているにもかかわらず、それを無視して、よかった、よかったとする放送関係者が多いのはどうしたわけだろう。NHKの放送史や花子や白蓮の戦時下の作品を読んでみたらすぐわかることなのに。

視聴者は、受信料を払った上に、NHKを「ほめて」育てないといけないのか。

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2015年3月 8日 (日)

佐倉市の大学誘致はどうなるのか~順天堂大学のおかしな動き、その蔭に

 佐倉市議会2月議会では、推進派の何人かの議員が「順天堂大学誘致」について市長に迫ったらしい。録画はまだアップされてないので、新聞記事の限りだが、蕨市長の答弁では、必ずしも明確でなはないが「計画実現のために、解決すべき問題を一つ一つ解消していく必要がある」「市民の納得できる内容になればすみやかに計画を立て議会に諮りたい」と述べた、と報じている(朝日新聞 201532日)。

かねてより、大学は、事業費の半分の約24億の公的負担を佐倉市に要請してきた。佐倉市は、大学に詳細な事業計画を求めていたが、期限の2月末日までに回答がないままだった。24億円と言えば半端ではない支出で、詳細な積算根拠があってこその要請でなければならないはずだ。順天堂大学の姿勢も「佐倉市に進出してやる」と言わんばかりの態度ではないのか。市長に誘致の決断と負担を迫る議員は、市の財源の税金を誰のものと思っているのだろう。大学と推進派の議員の後ろには、これまた、ユーカリが丘駅前の土地3000坪を無償貸与すると言っている不動産会社山万がいるのだ。

そんなキナ臭い、利権が絡むような背後の様子が垣間見えるような事態を知った。上記の市議会の質疑が始まる直前、31日の「順大誘致『市長に意思ない』佐倉のシンポで同大学部長」という新聞記事だった(朝日新聞)。228日、順天堂大学主催のシンポジウムでスポーツ健康科学部の部長の挨拶の中での発言というのだ。どんなシンポジウムだったのか、どこで開催されたのか、記事からは分からないので、支局に問い合わせると、ユーカリが丘のウィシュトンホテルで開催された「第11回順天堂大学スポーツ科学部国際シンポジウム」でのことだった。ネットで調べると「アダプテッド・スポーツ(障害者スポーツ)とつながる力~多様性に応じた実践と今後への期待」と題され、障害者スポーツイベントの事務局長やパラリンピックの元アスリートの講演と知的、身体、精神障害者スポーツの各団体の役職者たちによるシンポというプログラムだった。シンポのテーマとは全く関係がないところでの発言であることが分かると同時に、記事では、4月の市長選の立候補予定者も登壇して「歴史ある順天堂にぜひ佐倉に戻ってきてほしい」と挨拶したとある。会場の障害者スポーツ関係者は、さぞかし驚いたことだろう。関係のないシンポで、市長選立候補者が登壇してきたのだから。

この立候補予定者というのが、このシンポの前日227日に、立候補を公表したN元衆議院議員だった。維新の会から次世代の党に移った議員で、昨12月の総選挙で落選した。維新の会時代に、原発事故で飛散したセシウムは人体に影響がないから避難住民は即時帰還させるべきだと政府を質し、物議をかもした人物だった(衆議院予算委員会2013313日)。こんな候補者を立てて、順天堂大学のキャンパスの一部を佐倉市へ誘致しようとする市議会保守会派も地元の不動産業者も、何を考えているのだろう。現市長が設置した「大学等誘致に関する懇談会」の報告書も、その内容は、前にも当ブログで指摘したように、ハッキリしない。800人規模の学生が往来する「誘致による経済効果」の議論を傍聴したかぎり、明確な根拠も見当たらず机上の空論のようなものだったし、結論としては、市がかつて東邦大学病院(20億)や聖霊病院(15)を誘致したときの負担額より、市民への便益から考えて、それより低く抑えるべきだ、とするものだった。誘致を推進して、地元の不動産の付加価値を目論んでいるのかもしれないが、それによって住民へ還元されるものがあるのか。この不動産業者は、担いだ市議や政治家との関係が長続きしないことでも知られている。市長選も、巨額の公的補助をめぐる論議も注視していかねばならない。

 

これまでの当ブログの関連記事は、以下の通りです。併せてご覧いただければと思います。

・内野光子のブログ「ユーカリが丘駅前の大学誘致をめぐるおかしな動き、やっぱり、山万が ~第3回「大学等の誘致に関する懇話会」(20141010日)傍聴から振り返る」(1)(2)

http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2014/10/post-7e2b.html
(2014年10月10日)

http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2014/10/320141010-ebd5.html 

20141014日)

・ユーカリが丘、順天堂大学キャンパス誘致、見送り?201529日)

http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2015/02/post-fea7.html

 

(参考)
・佐倉市ホームページ「大学誘致に伴う公的支援のあり方について」

(佐倉市大学等の誘致に関する懇話会 201519日、122日佐倉市HP公表)

http://www.city.sakura.lg.jp/cmsfiles/contents/0000011/11401/daigakuyuuti_all.pdf

 

 

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