佐倉市、順天堂大学誘致をめぐる「選挙戦」 ~誘致の効果は机上の空論、得をするのは誰なのだろう
なぜそんなに急ぐのか
いま、ユーカリが丘駅周辺には、「順天堂大学誘致の会」のノボリがあちこちではためいている。そして、マラソンの小出義雄監督と市長候補者Nの顔写真が大きいポスターと4月16日には「順天堂大学誘致を実現する集い」が開催され、同大学スポーツ健康科学部長とN市長候補の挨拶があると顔写真入りのポスターもやたらに目につく。他にも県議とのコラボのポスターがうるさいほどだ。
2015年3月28日、「順天堂大学誘致の会」が発足、山万のウィシュトンホテルでの発会式では、順大の部長と小出氏は、誘致に消極的な現市長をののしるような口調の話が続いたらしい。これらは、上記「誘致の会」が4月になって開設したブログに掲載されているので、一度確かめられるといいと思う。ことの経過を示した記事は、いつ・だれが・何をしたかが不明瞭で、現市長の個人的中傷に終始する。
私は、現市長のこれまでの市政への姿勢には疑問も多く、多岐にわたる問題で、グループや個人で市役所担当課に足を運んだり、情報公開や要望・意見書を提出したりしてきている。今回の誘致の問題の経過を見ても市長はじめ行政側にも不明確な点が見受けられる。しかし、大学に建設予定地を無償貸与するという山万、誘致推進派の市議たちやN市長候補者の発言が余りにも性急で、利権が露骨で、市民の生活を置き去りにした無責任な態度が許せないでいる。
さらに、N市長候補の公式サイトには、経済効果抜群の順天堂大学誘致こそが、佐倉市躍動への道とばかりに、かなり“エモーショナルな”言葉が飛び交う。子育てにも力を入れるというが、どうも高齢者対策などはどこかへすっ飛んでしまったような勢いで、誘致を前面に出した施策で、中身が伝わってこない。それに、この候補は、色々な政党や、選挙地を渡り歩き、国会議員時代には、原発事故によるセシウムの影響は皆無だから避難住民は、ただちに帰還させよと政府に迫って物議をかもした人物でもある。
最近、ご近所の知り合いからは、「今の市長は、大学誘致に反対なんだってね。ユーカリに大学が来ればにぎやかになるのにね」という声を聞いた。
市長選挙戦は、もう始まっていて、公職選挙法すれすれの熾烈な前哨戦のさなかと言ってもいい。
顔写真と名前の大きいポスターは、近づいて探さないと分からないような小さな字でトークや講演会の日時・場所が申訳のように記されている、よくあるシロモノである。
以上の順天堂大学誘致推進派の話には、二つの重大な事柄が抜け落ちている。というよりは故意にはずしての発言が横行しているのだ。
補助金24億円は市民の税金!
一つは、すでに市議会での質疑では、順天堂大学側が新キャンパス建設費「約49億の半分、24億円を佐倉市が負担せよ」と示していることについて、推進派は、24億円という佐倉市の財政負担への言及や説明が一切ないことである。たださえ苦しい市の財政からの24億の負担は大きすぎる。積算の根拠が示されないまま、市民の税金から24億を出せ、とにかく補助を出せという無謀さは逃れようもない。推進派は、誘致に関する懇談会が示した「経済波及効果」を鵜呑みにして、人口増、雇用増、さらに建設時に佐倉市でなされる消費が65億、以降毎年21億に達すると言う「とらぬタヌキの皮算用」、いわば机上の試算ばかりを強調する。学生・職員あわせて千人が定住・通学したときの消費、大学の研究管理費用、イベント関連費用合わせて21億になるという試算なのだ。順天堂発祥の由縁と伝統、文化教育振興も合わせて力説するのだが、870人規模のキャンパスができたからと言って、上記の劇的な数字は、にわかに信じがたい。
学生が増えても税収につながらず、大学の固定資産税には免除が続き、少子化の中での学生確保自体の困難さ、キャンパスの都心回帰による撤退などへのリスクをどう考えるかの視点が抜け落ちている。誘致に伴う「期待」だけが先行していると言ってよい。
「順天堂大学の佐倉回帰実現に向けての署名のお願い」という文書を見ても、上記の額や財政負担自体の要請については一切触れてはいない。順天堂大学が、自力で、ないしは業者と組んで、環境に与える影響を配慮の上、この地にキャンパスを新設したいというのならば、歓迎する市民も多いだろう。しかし、一学部のキャンパス新設が、佐倉市を劇的に変えることなどありえない状況のなかで、積算根拠も示されない24億の負担は、市民にとっては納得しがたいのも当然ではないか。
経過、その双方の違いは?
他の一つは、このブログでも何回か記事にしているが、佐倉市のこの地区の開発や再開発にいつも絡む業者の関与についてである。今回の大学誘致問題は、2005年、前市長と開発業者山万の嶋田社長が順天堂大学の佐倉進出を要請したことに始まったらしい。山万運営のモノレール、ユーカリが丘駅舎に、順天堂大学ヘルスプロモーションリサーチセンターユーカリが丘支局なるものが開設されたのもこの頃か。健康づくりの社会化を目指すというが、毎年開く国際シンポもなじめないものだった。しかし、このシンポにも、佐倉市からは毎年100万以上の助成金が出ていた。
大学と市との交渉はいつからとみるべきなのか。2012年10月23日には、「学校法人順天堂と佐倉市との連携協働に関する協定」が締結されるが、そこでは、教育・文化・スポーツ・健康・まちづくりなどの分野での相互協力、地域社会の発展と人材育成に寄与する趣旨が記されるのみで、キャンパスの進出・誘致は一切述べられていない。この辺の経過が不明ながら、同年の12月17日市議会において、「大学誘致に関する意見書」が発議され、採択されるのである。その内容は、人口及び生産年齢人口を減少させない施策として、市とのゆかりが深い順天堂大学誘致をせよ、というもので、何ら具体的な提案につながるものではなかった。この意見書に反対する議員たちの質問に、市長は「現時点で、大学側からは、進出の話は聞いていない」と答え、ある会派は、順天堂大学の本部に佐倉へのキャンパス進出の意向を確認に出かけたところ、「佐倉への進出は、選択肢にない」との回答であったという。
ところが、2013年11月28日、順天堂大学(総務局長)より「山万からの建設用地3000坪の無償提供、佐倉市からの建設費49億の半額の財政援助を条件に新キャンパスを開設したい」という提案があったのである。その後、市は、財政支援、補助金を出すか否か、その額を検討するにしても、詳細な計画が必要と求めていたが、その期日までに大学側からの回答がなかった。一方、大学側は、その期日までに市の姿勢や支援への回答がないので、「市長には誘致の意思がない」と判断、その表明の新聞報道に至った。さらに、市は、その後、幾度か、大学側との交渉の継続を表明するも、大学側は、市側による報道発表には虚偽があると、決裂を表明して、対立候補の支援に至った。
得をするのは誰なんだろう?
市は、財政支援にあたっては、当然のことながら、詳細な事業計画を見て、市民への説明責任を果たさなければならない。順天堂大学が詳細な建設計画を佐倉市に提出できないのにはわけがあったのではないか。
というのも、山万が無償貸与するという大学建設予定地約3000坪を含むユーカリが丘駅北口の一画約3.64ヘクタールは、山万を業務代行とする区画整理事業の対象地区で、山万は、2010年8月20日に市の担当課と事前相談を開始している。その結果2012年10月3日「ユーカリが丘駅北区画整理組合準備会」を結成、基本計画協議に入っている。2013年4月10日、市街地整備課との何回かの協議の結果、「基本計画協議書」が提出されるも、さらに変更の協議が続いているのが現況のようだ。
今年2015年3月11日には、上記区画整理組合準備会から「都市計画提案事前相談書」が提出された。これは、新しい都市計画提案制度に基づく民間からの都市計画変更提案のスタートともいえよう。区画整理事業地区と駅周辺地区の第一種住居地域(建蔽率60%、容積率200%)・第一種低層住宅地域(50%・100%)・近隣商業地域(80%・200%)の4.23ヘクタール(138筆、地権者山万他12名、現在は、千葉銀行とみずほ銀行に挟まれた形の駐車場など)をすべて近隣商業地域とし、幹線道路沿いを80%・300%、その後背区域を80%・200%に変更、順天堂大学、商業施設、都市型居住機能を集積し、土地の高度利用を図り、効率を高めたいという構想である。
「都市計画変更事前相談書」の地域の位置図
上記事前相談書」の「土地利用計画図」緑の斜線部分が大学予定地という。
上記2枚の図表を含め、他の資料も、末尾の区画整理組合準備会の参考資料をクリックしてください。
2013年7月6日の区画整理組合準備会による周辺住民説明会当時は、20階以上の高層ビルを2・3棟建設し、1・2階は商業施設、上層階はマンション、その内の1棟の一部に大学が入居するという内容であった。その後、現在は、ビルの高度もかなり制限された形で協議が進められているという(市関係者)。周辺住民にとっては、日照権、ビル風被害、交通渋滞などは生活に直接影響する重大問題である。
誘致推進派は、まだ、その用途地域が決定していない段階で、キャンパス計画も確定せず、その建設費の詳細も決まらないまま、市に補助金を要請していることになる。
山万が「区画整理事業」とその地域を含む「都市計画変更」を主導で進めるにあたって、その地域内に3000坪(9920㎡)を無償貸与してでも、順天堂大学を誘致したい理由は何か。「大学を中心とした若年層の流入」や「にぎわい」を標榜して、周辺を含めた不動産の付加価値を目指しているのではないか。だが、駅から少し離れると、空き家は急増し、高齢者家族や独居の高齢者の割合が高く、地元商店が消え、買い物難民が増えている現実などを直視することこそ、市や開発業者の重要課題ではないのか。
それにしても、例のマラソンの監督は、現市長後援会ニュースでも、にこやかに握手をしている写真を見かけたし、今回の対立候補のポスターにも登場している。節操のない者が利用されるのも利用するのも見苦しいではないか。
<ユーカリが丘駅北土地区画整理組合準備会資料(2015年3月11日)>
・都市計画提案事前相談書(2015年3月11日、都市計画課受理)
http://www.city.sakura.lg.jp/cmsfiles/contents/0000012/12896/soudansyo.pdf
・同上添付資料(位置図・都市計画図土地計画利用平面図等ほか) http://www.city.sakura.lg.jp/cmsfiles/contents/0000012/12896/tennpusyorui.pdf
<当ブログの関連の過去の記事>
・ユーカリが丘駅前の大学誘致をめぐるおかしな動き、やっぱり、山万が ~第3回「大学等の誘致に関する懇話会」(2014年10月10日)傍聴から振り返る」(1)(2)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2014/10/post-7e2b.html
(2014年10月10日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2014/10/320141010-ebd5.html
(2014年10月14日)
・ユーカリが丘、順天堂大学キャンパス誘致、見送り?(2015年2月9日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2015/02/post-fea7.html
・佐倉市の大学誘致はどうなるのか~順天堂大学おかしな動き、その蔭に
(2015年3月8日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2015/03/post-5d0f.html
・「順天堂大学誘致」はどうなったか、佐倉市議会の質疑からみえるもの
(2015年3月16日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2015/03/post-2f8b.html
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コメント
私は神奈川県伊勢原市の住民です。協同病院の移転問題で、似たようなことがありました。やはり、何十億という税金が使われました。昨年開業しましたが、当初計画どおりのメリットが、市民にもたらされているのでしょうか?市議選がこれからですが、現職が何を語るか聞きたいものです。
行政は税金を私物化している。検証をするころには、その役職にいないので、責任をとらない。市議も行政のやることに反対しない。(共産党は反対しますが、共産党だというだけで、内容を理解しようとしない市民が割といる。)という状況はどこでも似てるんだろうな、と思いました。
投稿: きしずえ | 2015年4月15日 (水) 12時12分