マイナンバーに法的根拠はあるのか~内閣官房も自治体も、その説明に苦慮している!
下の過去記事にあるように、内閣官房の担当の“お勧め”で、私は、昨年12月7日に下記のような、住民票に付記されたマイナンバーの削除届を佐倉市長あてに提出した。マイナンバー実施への抗議と阻止の意思を示したかった。年末の御用納め12月28日付で別添のような回答が届いた。関心のある方は、過去の記事とあわせてご覧いただければと思う。さらに、ご意見もいただければ幸いである。
2015年12月5日
マイナンバー通知、到着、どうしますか~「ニューデンシャ」って何?
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2015/12/post-8d52.html
================
2015年12月7日
佐倉市市長 蕨和雄様
****
住民票に付与された個人番号
削除届
去る11月22日に、個人番号の通知を受けたものですが、つぎの理由により、個人番号の削除を届けますので、速やかな措置をお願いします。
1.法律第5条は、地方公共団体の責務として、個人番号の取り扱いの適正と利用に関して、国との連携と自主的・主体的な施策の実施を求めているのみである。適正な取り扱いに関して、具体的な法律上や条例上の担保がないままでは、私の個人番号の業務利用を希望しませんので、住民票に付与された個人番号をただちに削除してください。
①なお、12月3日に「内閣官房社会保障改革担当室・内閣府大臣官房番号制度担当
室」に問い合わせたところ、住民票のある自治体に、削除を申し出ることができ
るとの指導を受けた。
②別表その他は、利用する場合の指標であって、住民個人が自治体の個人番号の利用を許容しなければならない義務の根拠にはなりえない。
③住民個人が自治体の個人番号利用を希望しない場合、自治体が削除することを拒む法律上の根拠が見当たらない。
2.個人番号の通知は、世帯ごとに配布され、世帯内の各個人番号は、世帯内の家族間では、知りうる情報となる。その時点で個人番号の情報は世帯内で漏えいしていることになる。生計を一にする同居人においても同様で、その同居が解消されたときの情報漏れを担保する明文がない。少なくとも私の個人番号は、いかなる目的にも利用することができないように住民票から削除してください。世帯内の「信頼関係」の有無云々について、法律は介入することは不可能なはずである。
3.事業者において、従業員が個人番号を提出しない場合でも、それによって、公共サービスなどを受けることに何ら支障がないことが明文化されている以上、 一般個人においても、個人番号付与を希望しない場合でも何ら支障がないこと、現状の社会保障・税制度において不便を来してないので、私の住民票に付与された個人番号は直ちに削除してください。
4.総務省がマイナンバーの管理を委託している地方公共団体情報システム機構からの情報漏えい防止対策が明確に示されておらず、過去の年金機構の大量情報漏れの原因が調査中の段階での運用開始は、情報漏れリスクへの担保や漏れたときの責任をだれがとるかの保証が不明確なので、私の住民票に付与された個人番号は直ちに削除してください。
5.マイナンバー制度が、行政の効率化・国民の利便性を目的としながらも、現実には、制度スタートの段階で、通知遅配、通知未達、通知誤配、カード交付ミス、マイナンバー関連詐欺事件が続発していることは、運用後の情報漏れのリスクとあわせ、プライバシーの侵害、不平等と公共の福祉に反し、憲法に反するので、マイナンバー離脱の任意性は、当然の帰結である。よって、私の住民票に付与された個人番号は直ちに削除してください。
以上の理由による削除届への措置を直ちに実施してください。上記の理由各項に従って、条文などを丁寧にたどれば、実施を受ける理由はあっても、拒む理由はないはずです。今回の法律の個人番号利用にあたって、佐倉市長は、独自の、主体的な取り組みが要請されているわけですから、条文を精査し、責任を持って、市民の要請に真摯に取り組み、少なくとも、届けを受理の上、上記届けに明記した理由の各項別に検証と説明の上、個人番号削除のお知らせをくださるよう、誠実な対応をお待ちしています。
================
上記「削除届」への回答の全文は、別添の4頁にわたるものだが、その内容は、読めば読むほど、説得力に欠けるものであった。が、とりあえず、そのポイント部分を紹介し、私の感想を記しておこう。回答書の構成が、削除届と対応しておらず読みにくいのだが、どちらも通覧の上、お読みいただくとありがたい。回答書の中の要注意の文言を太字に、私の結論部分を太字にし、マーカーを付した。
1.総論部分
市の回答の前半で、番号法では個人番号を通知することは、「市区町村の法的義務」としている点は、その通りだ。しかし、後半で、住民基本台帳法の「住民票への個人番号を記載されることとされております」を根拠に「以上のことからして、お申し出にございます個人番号を削除することにつきましては、それ自体、法律の予定するところではなく、当市に、裁量は認められていないものと判断」した点である。
住基法でも、たしかに個人番号を「記載する」ことまでは規定されている。さらに、職権による「消除」規定が細かく規定されているにもかかわらず、住民からの「削除」についての規定がない。ということは、「法律の予定するところではない」からこそ、裁量が可能なのではないか、と思う。
2.番号法第5条について~回答2.指摘事項の(1)
番号法第5条は以下の通り短い条文だが、市の回答は、末尾の「個人番号の利用に関し、国と連携を図りながら、自主的かつ主体的に、その地域の特性に応じた施策を実施するものとする」を素通りし、その上「自治体の責務」とされている「(個人番号の取扱いの)適正を確保するために必要な措置を講ずる」具体的な施策をとらないまま、「講じずるから」担保しているというが、無回答に等しい。なお、「法律上、適正な取り扱いを担保しているものと認識しております」の一文にいたっては、無策のまま、何を「認識」しているのか、不明である。
参考:「(地方公共団体の責務)第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、個人番号その他の特定個人情報の取扱いの適正を確保するために必要な措置を講ずるとともに、個人番号及び法人番号の利用に関し、国との連携を図りながら、自主的かつ主体的に、その地域の特性に応じた施策を実施するものとする。」
3.「削除届」1-②自治体の個人番号利用を住民が許容しなければならない根拠~回答(1)-②
今回の「削除届」において、私がもっとも明確な回答を求めたい核心部分であった。
回答の冒頭に「番号法第3条における規定からして、行政事務処理において、市区町村が番号法を遵守しないことを想定はしておりません。」とあるが、第3条は、法律の主旨・目的を明示した部分で、要は、個人番号の推進と拡張の「必要」がうたわれている。法律の成り立ちから当然の記述ではある。また、別表に掲げられた個別の法令には「個人番号を記載する義務が明記されている。」というが、たとえば、健康保険法や雇用保険法にあたってみると、社会保障関係の事務手続きにおいて必要なのは、「個人番号又は基礎年金番号」、「個人番号(個人番号を有する者)又は被保険者番号」であることが明示されていて、あくまでも選択が可能であることが分かった。個人番号の記載が義務化されているわけではない、としか私には読めなかった。
回答の後半部分は、内閣府大臣官房番号制度担当室の回答が引き写されている。回答文を繰り返せば、以下の通りだが、この一文の中にも、法解釈上の大きな矛盾を抱えているのではないか。すなわち「『個人番号を利用できる』と規定されているが『番号法の趣旨に鑑みれば』、自治体の裁量に委ねるということではなく」とか、「別表第一」を根拠として「すべての自治体において個人番号を利用すべきであると解される」というが、「別表第一」というのは、法令ごとに、上段に「個人番号を利用することができる者」、下段に「個人番号を利用することができる事務」が記載されている表である、番号制度担当室による「逐条解説」に明記してあるではないか。「番号法の趣旨」とは、第三条に並列しているような行政の効率化・国民の利便性・給付及び負担の公平化・適正な取り扱い・活用の可能性に資するなどを示すのであれば、この条文を義務規定と読むことはまず不可能であり、担当室が「すべての自治体において個人番号を利用すべきである」と解する根拠とはなりえない。いや、むしろ、条文からは義務規定とは「読むことができないような」構成になっている。義務規定ではないと「言い訳できる」ような、細心の配慮をした条文になっていることがわかる。だから、担当室も「利用すべきであると解される」としか言いようがなかったのだと思う。
参照:内閣府大臣官房番号制度担当室 番号法逐条解説 154頁http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/pdf/chikujou.pdf#search='%E5%86%85%E9%96%A3%E5%BA%9C%E5%A4%A7%E8%87%A3%E5%AE%98%E6%88%BF%E7%95%AA%E5%8F%B7%E5%88%B6%E5%BA%A6%E6%8B%85%E5%BD%93%E5%AE%A4++%E9%80%90%E6%9D%A1%E8%A7%A3%E8%AA%AC'
4.「認識」だけで、法律の解釈や施行ができるのか
「自治体が住民票から個人番号を削除することはできないと認識しております」というのが、佐倉市の私の「削除届」への結論であった。回答書に、目立つのが「認識」という文言であった。法律用語でもない「認識」、「認識」って何だ?ということになる。認識には、当然個人差がある。「時代認識」「歴史認識」といった熟語で使われることが多いし、「共通認識」という言葉もある。今回の市長の回答書には「認識」満載なのである。市民としては市長の「認識」だけで、法律を施行してもらっては困るのだ。
その最たる一文が、上記の結論にいたる回答書(1)-②の以下の文章であった。
「住民基本台帳法第7条8号の②において、住民票の記載事項として、個人番号が規定されており、また、住民票の記載事項を個別に削除する規定もないことから、自治体が住民票から個人番号を削除することはできないと認識しております」
要するに、住民基本台帳法は、自治体として「個人番号を記載するものとする」と規定するが、その「削除」については規定がないことが「削除」できない根拠にはなりえないのではない。私の結論から言えば、自治体が市民の求めに応じて「住民票から個人番号を削除」しても罰則はない。むしろ、その要望に応えることは、個人情報が付せられることにより発生している、さまざまな不安やリスクから、市民を守ることに連なるはずである。
かつてと住民基本台帳自体と「住基ネットワークシステム」と接続しなかった自治体もあったほどである。すでに記入された個人番号を「自分の住民票から削除してください」という、ささやかな「願い」が、なぜ実現できないのか。ささやかではあるが、個人の尊厳、プライバシーにかかわり、重大な憲法問題であることから、これからも、国や自治体の対応を注視したい。
そもそも、「削除届」を提出したのは、上記担当室から、「お住まいの自治体に提出できます」と言われたことに端を発している。今回、佐倉市の問い合わせに、担当室は「(そのような)指導はしていない」との回答がなされたらしい(回答書(1)-①)。しかし、私は、担当室の一員から、名前まで聞いて確認している。ということは、回答に窮しての対応であったか、あるいは担当室の中でも、法律への共通の理解ができていない証左でもあるのだろう。欠陥だらけの番号制度、番号法を認めるわけにはいかない。不要なのである。
==============
| 固定リンク
コメント