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2016年8月17日 (水)

歌人は、沖縄とどう向き合うのか~私の歌壇時評

 昨年の『ポトナム」の歌壇時評(7月号)(当記事末尾の昨年の記事参照)でも触れたが、戦後七〇年間、沖縄の短歌・歌人について、本土の短歌メディアは、わずかな例外はあるものの、あまりにも無関心であり過ぎたのではなかったか。

  ところが、二〇一四年一二月、翁長雄志沖縄県知事誕生で辺野古新基地建設をめぐる県と国との対立が多くの国民の知るところになると、短歌総合誌の沖縄への視線にもやや変化が表れ、沖縄の歌人の登場や時評での言及が活発になった。『現代短歌』では、今年五月から「沖縄の歌人たち」の連載が始まった。『短歌研究』では、昨年一〇月、歌文集『アジアの片隅で』を出版した新城貞夫の評論と作品が登場した(二〇一六年三月、六月)。新城の『花明かり』(一九七九年一一月)は、佐藤通雅の解説とともに遠い記憶にある歌集だった。結社誌や同人誌でも、私の知る限りながら、沖縄歌人特集や時評などでの言及が増えたように思う。 これらの動きの前触れは、ややさかのぼって、『短歌往来』の沖縄特集(二〇一三年八月)の小高賢「歌の弱さと強さ」における「沖縄にとって自明の固有性(文化、戦争体験、基地問題への怒り)が、逆に、ずれを生んでいるのではないか」「背負っている環境から一度離れてみることではないか」という問題提起であったと思う。小高は、沖縄の短歌は作品と作者の取り換えが可能なほど個性がないというのだ。

  また、松村正直は『毎日新聞』「短歌月評・沖縄戦70年」(二〇一五年五月二五日)において、「自らの主張をただ述べただけの歌も多い。〈政府の蛮行〉〈大和の犠牲〉〈権力の横暴〉といった言葉が入ると、どうしても歌は硬直化し、スローガンになってしまう。今回のアンソロジー(『歌壇』二〇一五年六月の沖縄特集)は沖縄出身者の社会詠でほぼ占められているが、もっと多様な視点があっても良いだろう。例えばそこに、俵万智、松村由利子、光森裕樹といった沖縄移住者の歌を加える柔軟さも大切だと思う」と指摘した。

  これに応える形で、名桜大学(沖縄市)で教鞭をとる屋良健一郎は、『心の花』の時評で「沖縄歌人の作品は、スローガン的、類型的という、幾度となく指摘されてきた基地詠の表現上の課題を(私を含め)克服できていないものも多い」(二〇一三年一〇月)「沖縄の作者の歌は漠然と<基地>や<オスプレイ>を詠むに留まって、現場であるはずの<現場性>が乏しい」(二〇一四年六月)と述べ、小高の指摘を卓見とした。さらに、『現代短歌』二〇一六年一月号「全国秀歌集」一〇首の選歌では「一年間に総合誌に発表された県内在住者の歌から作品本意に選んだ。戦争・基地を詠む歌が多かったが、〈秀歌〉はどれだけあっただろう」として、俵万智、光森裕樹、松村由利子、佐藤モニカという本土出身歌人の四首を含めていた。屋良が沖縄の短歌や歴史などの学習会や展示会などに積極的に取り組んでいるにもかかわらず、短歌総合誌重視という中央志向といわば全国区の著名歌人への傾斜に、私は、危惧を覚えたのであった。

  その一方、名嘉真恵美子が、沖縄の短歌(主に反戦歌や基地詠)が、「類型」や「ナマ」という評言を受け入れ、作歌が萎縮し、高く歌い上げるような強いひびきの歌が減ったと指摘し、玉城洋子が、「日本国の沖縄への眼差しは冷酷なもので、歴史の中で見て来た「琉球」「沖縄」への構造的差別がある沖縄の現実、沖縄戦を引き継ぐ「米軍基地」の「命どぅ宝」を掲げ、時事詠を多く詠んできた自負を語っていたのが印象的であった(『短歌往来』二〇一三年八月) 沖縄のことを少しでも知りたく、数か月前から一日遅れの『琉球新報』の購読を始めた。今年の「慰霊の日」は沖縄で迎える予定だ。 (『ポトナム』2016年8月所収)

* 2015年 6月 29日
沖縄とジャーナリズム(1)短歌ジャーナリズムはどう向き合ったか

http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2015/06/post-cfd1.html

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