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2016年11月29日 (火)

天皇「生前退位」の行方~天皇制の本質については語られない(1)

あまりにも突然に

今年の713日、NHK「ニュース7」のトップで、天皇が宮内庁関係者に「生前退位」の意向を示しているという報道があり、突然のことで驚かされた。翌日の新聞やテレビはその後追い報道で埋め尽くされた。しかし、714日の定例記者会見で風岡宮内庁長官は天皇が具体的な制度に対して言及したことはない、と否定した。では、NHKの特ダネが誤報だったのか、ということになるが、日常的に、皇室報道には何かと神経をとがらせている宮内庁は、その報道にはなんらの抗議もコメントもしなかった。宮内庁と官邸、宮内庁のオクとオモテとかの攻防による情報操作の結果であったような報道も目にするが、国民には、その結果しかわからない。

折しも、710日の参院選で、改憲勢力が三分の二を超え、都知事選では、告示日直前に野党共闘の候補者が混迷のうちに決まったという時期でもあった。

 そして、88日午後3時、天皇の「お気持ち」表明のビデオメッセージが流されてから4か月になろうとしている。あの放送は、いったい何だったのか。法律的にはどういう位置づけだったのだろうと、いまでも疑問は去らない。記者会見でもない、メディアからの質問の回答文書でもない。行事における「おことば」でもない。11分間、テレビのキー局をすべて独占した「玉音」放送による メディアジャックのように思われた。放送をしないという選択をした放送局は一部の地方テレビ局だけだった。

 

メデイアは、どう伝えたか

その後のメディアには、天皇の「お気持ち」、憲法上の天皇、皇室典範上の天皇、天皇家の将来、天皇の健康状態、公務や「行幸」実績など膨大な情報が流れた。

NHK報道があった713日以降、全国紙を中心に、その社説や記事を概観してみた。手元の切り抜きだけでも膨大な量になるのだが、各紙の基調は、88日の天皇のビデオメッセージ直後の社説(いずれも89日付)に集約されるだろう。つぎのように、私はまとめてみた。なお、『公明新聞』と『赤旗』には「社説」らしきものが見つからなかったので、山口代表は政府の意向を見守ると言い、志位委員長は、政治の責任として生前退位について真剣な検討が必要だというにとどまっている(『赤旗』2016年8月9日)。各紙の*以降は、特徴的な主張とみられる事項を記した。

朝日新聞:気持ちを前向きに受け止め、国民「総意」への議論深めよう。政治に怠慢と不作為の責任がある。決めるのは国民で、皇室活動の再定義が必要である。

*一連の事態は、象徴天皇制という仕組みを、自然人である陛下とそのご一家が背負っていくことに伴う矛盾や困難を浮かびあがらせた。どうやってそれを解きほぐし、将来の皇室像を描くかが課題。

産経新聞:皇位の安定的継承のため、国の未来を見据えた丁寧で緊急な議論が必要だ。

*天皇と宮内庁、内閣との意見疎通は十分だったか、摂政、男子系継承、旧宮家復帰などにも踏み込むべきだ。

東京新聞:超高齢社会への備えも怠ってきた中で、皇室の在り方への問題提起と受け止め、天皇制永続のための改革にも踏み込むべきである。

*誇るべきは、男系・女系ではなく一系にこそ。

日本経済新聞:高齢化社会の象徴天皇制の在り方を考えよう。議論を怠ってきた政治責任は重い。

*特別な日時を設定したてビデオメッセージの形で表明する方法も適切であったのかの検証が必要である。

毎日新聞:気持ちを前向きに受け止めたい。各種世論調査でも共感が多く、高齢化社会での安定的な皇位継承は時代の要請でもあるから、多角的な国民全体の議論深めたい。

*政治的圧力による退位の排除、女性天皇も議論の対象になり得る。

読売新聞:思いを真摯に受け止め、象徴天皇の在り方幅広く議論する契機としたい。

*自発的退位と国民総意の矛盾、強制的退位の恐れなどの問題、負担の軽減・分担などによる方策の可能性もあり得るか。

琉球新報:生前退位を認め、議論を深めよう。

*訪沖10回及び昭和天皇の戦争責任、民主主義との葛藤のなかで、好意的な県民も多い。

 さまざまな発言の中で 

どの社説においても、憲法における象徴天皇制が国民の間に定着していることを前提に、今回の天皇の意向表明を契機に議論を深めていこうという趣旨は、共通しているように読めた。しかし、私がここで思うのは、象徴天皇制が定着している、というよりは、象徴天皇制についての無関心な要素が大きく反映しているのではないかという危惧なのである。これは、教育やメディアが、そして何よりも、政府や政治権力が、正面切って「象徴天皇制」について考える情報を提供してこなかったことによるものではないかと思うのだ。昭和天皇の死去及び即位の礼、在位10年、20年の折も、情緒的な報道に終始していたのではないか。

 象徴天皇制の特に皇位継承についての政治の怠慢を指摘する数紙があったことは、まず記憶にとどめておこう。また、明確ではないながら、今回、「朝日」の社説が「象徴天皇制という仕組みを、自然人である陛下とそのご一家が背負っていくことに伴う矛盾や困難」を指摘している点、また「日経」がビデオメッセージによる意向表明が一斉に行われたことへの疑問を投げかけていたことには注目したい。これまで、現憲法の象徴天皇制が憲法の基本理念とする民主主義・平等主義との内部矛盾に釈然としない思いを持つ者にとっては、大事な指摘だと思った。しかし、現実には、そこには、目が向けられそうにもない。公明党が、宗教上、「象徴天皇制」との関係については明言していないし、共産党も、近年は、象徴天皇制にすり寄っている感がぬぐえない。さらに、ジャーナリストや識者たちも、そこにはあえて触れようとしない。

 もちろん、多くを読み得てはいないし、断片的ながら、ビデオメッセージ直後の発言の中で、私が、注目したものをいくつか挙げておこう。

 西村裕一(憲法学者 北海道大学准教授 1981年生)「象徴天皇のあり方」『朝日新聞』201689日: 現天皇は積極的に「象徴としての務め」の範囲を広げてきました。とくに先の大戦にまつわる「慰霊の旅」ように「平成流」に好ましい効果があることは確かです。しかしそれは、民主的な 政治プロセスが果たすべき役割を天皇にアウトソーシングするものといえます。(中略)仮に 天皇に退位の自由を認めるとしても、別の「誰か」の人権が制約されることに変わりはありま せん。天皇制は、一人の人間に非人間的な生を要求するもので、「個人の尊厳」を核とする立 憲主義とは原理的に矛盾します。生前退位の可否が論じられるということは、天皇制が抱える こうした問題が国民に突きつけられる、ということを意味しています。

河西秀哉(神戸女学院大学准教授・日本近現代史 1977年生)「天皇と戦争をどう考える」『朝日新聞』2016823日: 戦争で犠牲になった人々全体を悼み、苦しみを分かち合う姿勢は海外でも受け入れられている反面、日本の責任が見えにくくなるところがある。また、韓国訪問はまだ果たせず、植民地支配の問題までは踏み込めていない。政治的な意味合いを帯びかねない天皇の海外慰霊は、そもそも憲法が想定していない(とも指摘)。こうした公的行為の拡大は、天皇の権威性を高めることになり問題だ。

北田暁大(東京大学教授 1971年生)・原武史(放送大学教授 1962年生)「北田暁大が聞く危機の20年・生前退位」『毎日新聞』2016827日:
北田;(ビデオメッセージによる意向表明は)政治・立法過程を吹っ飛ばして国民との一体性を表明する。今、天皇が憲法の規定する国事行為を超えた行動ができることについて、世の中が何も言わないというのは、象徴天皇制の完成を見た思いがします。
;今回衝撃的だったのは、憲法で規定された国事行為よりも、憲法で規定されていない宮中祭祀と行幸こそが「象徴」の中核なのだ、ということを天皇自身が雄弁に語ったということです。

辺見庸(作家1944年生)「『ご意向のにじむお言葉』について」『生活と自治』201612月:

 あのおかたは、父すなわち昭和天皇の戦争責任について、いちどでも言及したことがあっただろうか。そのような『ご意向のにじむお言葉』をもらしたことがあっただろうか。(中略)「深く思いを致」すというなら、現行憲法の第一章「国民」ないしは「人民」ではなく、なにゆえに「天皇」であるのか、その不条理についてなのであり、「伝統の継承」ではない。

①において「民主的な 政治プロセスが果たすべき役割を天皇にアウトソーシングするものといえます」のくだりは、私がこれまで拙著で述べてきたこと―天皇や皇族の障がい者施設の訪問、被災地視察、慰霊の旅から「おことば」や短歌の発信に至るまで、行政の行き届かない、福祉・防災・戦後対策などの補完の役目を果たしているという主旨を「アウトソーシング」とも指摘ていて納得したものである。

③においては、北田は天皇制の問題について、とくにリベラル系の研究者による議論はあまりなく天皇制が必要なのかという、本格的な議論もせず、「平成の後がある」ことを忘れていたか、忘れたふりをしてきたと指摘する。

 以下、次の記事では、政府や国民はどう受け止めたのかを、有識者会議の動向や世論調査をもとに検証したい。

 

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