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2021年7月31日 (土)

コロナとオリンピックに隠れて~皇位継承、いつまでも結論が出せない政府

 7月26日、オリンピックとコロナ感染拡大のニュースに隠れてしまったが、安定的な皇位継承を検討する政府の有識者会議が、皇族数の確保策としての二案を発表した。ことし3月から10回の会議を経て、女性皇族が結婚後も皇室に残る案と戦後に皇族を離れた旧宮家の男系男子が養子縁組をして皇籍に復帰する案である。この論点整理は、二〇二一年秋の衆議院選挙後に報告される予定だという。女性天皇などが選挙の争点にならないよう、皇位継承権が拡大することに踏み込まないまま、選挙戦に臨み、男系天皇固守の保守層の取り込みを狙ったものと言えそうだ(参考「皇位継承の国会報告、衆院選後に 女性天皇などの争点化回避」『毎日新聞』6月6日)。
 私はかねてより、天皇制自体が、現憲法の基本理念と相いれないのだから、皇位が途切れてしまうのなら、無理に継承する必要はないと思っている。どの家でも、「お家断絶」はあり得ることで、夫婦別姓制度が採り入れられれば、「お家」自体が、もはや無意味になってくるだろう。宮家の名のみで、姓名を持たない皇族方の処遇は、どうするのかは、別に考えたい。 明仁天皇の生前退位表明以来、皇位継承については、生前退位は今回一代限りとする「特例法」でしのいできた政府は、今もって、先送りの状況である。
 この有識者会議のメンバーというのが、大橋真由美上智大教授(行政法)、冨田哲郎JR東日本会長、細谷雄一慶大教授(国際政治)、宮崎緑千葉商科大教授(元キャスター)、女優の中江有里、座長の清家篤日本私立学校振興・共済事業団理事長(元慶大塾長、労働経済)の男女各三人、計6人、なのである。疑問も多い人選で、さまざまな省庁の審議会の常連であるのが共通点である。この6人に、皇室について格別の知見があるとも思えないが、各界の21人のヒアリングと質疑をおこない、その様子は、以下の「議事次第」における各自の説明資料と「議事の記録」に公表されている。その結果をまとめようとしたが、厖大な資料の読みこみが必要であり、お手上げ状態である。新聞社はヒアリングの度ごとに断片的に報道するが、網羅的にまとめたものは少ない。あっても、「不明」とする項目が多い。ヒアリングの当事者の説明資料では、さまざまな条件や留保を付しての意見表明であったり、起こり得る問題や課題を客観的に述べ、問題提起にとどまったり、肝心の自身の意見表明に至らない場合が多く、曖昧この上ない。これも「不明」となる。

 「女性天皇」「女系天皇」の是か非かはもちろん、「女性宮家」「旧皇族の皇族復帰」にしても、どの範囲にすべきか、女性皇族の夫や子どもをどうするのか、旧皇族復帰を主張する場合は、男性に限るのだろうが、すでに80年近い年月を一般国民として過ごしている人々の、どの範囲でどの順位で認めようとするのか、など、実に様々なことが想定されるわけで、これらを法律上クリアすることは容易なことではないはずである。ただ、つぎのよう『毎日新聞』(6月8日)の論点整理を参考にしながら、以下の記事や表を見て欲しい。

6

 

「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/taii_tokurei/index.html

開催状況

回数

日付


資料

第1回

令和3年3月23日

議事次第

議事の記録(PDF/110KB)

第2回

令和3年4月 8日

議事次第

議事の記録(PDF/377KB)

第3回

令和3年4月21日

議事次第

議事の記録(PDF/300KB)

第4回

令和3年5月10日

議事次第

議事の記録(PDF/324KB)

第5回

令和3年5月31日

議事次第

議事の記録(PDF/379KB)

第6回

令和3年6月 7日

議事次第

議事の記録(PDF/295KB)

第7回

令和3年6月16日

議事次第

議事の記録(PDF/167KB)

第8回

令和3年6月30日

議事次第

議事の記録(PDF/160KB)

第9回

令和3年7月 9日

議事次第

議事の記録(PDF/150KB)

第10回

令和3年7月26日

議事次第

議事の記録

4月8日
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/taii_tokurei/dai2/gijisidai.htm

岩井 克己 ジャーナリスト 説明資料(PDF/1,024KB)
 笠原 英彦 慶應義塾大学教授 説明資料(PDF/576KB)
 櫻井 よしこ ジャーナリスト・公益財団法人国家基本問題研究所理事長 説明資料(PDF/ 186KB)
 新田 均 皇學館大学教授 説明資料(PDF/347KB)
 八木 秀次 麗澤大学教授 説明資料(PDF/3,983KB)
 新田 均 皇學館大学教授 補足説明資料(PDF/175KB)

4月21日
今谷 明 国際日本文化研究センター名誉教授 説明資料(PDF/292KB)
所 功 京都産業大学名誉教授 説明資料(PDF/4,520KB)
古川 隆久 日本大学文理学部教授 説明資料(PDF/546KB)

本郷 恵子 東京大学史料編纂所所長 説明資料(PDF/325KB)

5月10日
岡部 喜代子 元最高裁判所判事 説明資料(PDF/441KB)
 
大石 眞 京都大学名誉教授 説明資料(PDF/362KB)
 
宍戸 常寿 東京大学教授 説明資料(PDF/284KB)
 
百地 章 国士舘大学特任教授 説明資料(PDF/2,308KB)
 
所 功 京都産業大学名誉教授 補足説明資料(PDF/134KB)

5月31日
君塚 直隆 関東学院大学国際文化学部教授 説明資料(PDF/226KB)
曽根 香奈子 公益社団法人日本青年会議所監事 説明資料(PDF/320KB)
橋本 有生 早稲田大学法学学術院准教授 説明資料(PDF/522KB)
都倉 武之 慶應義塾大学准教授 説明資料(PDF/426KB)

6月7日
綿矢 りさ 小説家 説明資料(PDF/261KB)
半井 小絵 気象予報士・女優 説明資料(PDF/265KB)
里中 満智子 マンガ家 説明資料(PDF/235KB)
松本 久史 國學院大學教授 説明資料(PDF/622KB)

 以下の表は、注にあるように、上記の資料ならびに新聞記事により作成したが、意見の判定部分は、とりあえず、『東奥日報』の記事をそのまま載せた。他社の調査とは異なる場合もあり、私自身も判定のつかない場合が多かった。ヒアリング聴取者の人選には、問題も多いのではないか。「特例法」の際のヒアリングと重なる人物も多い。女性が三分の一でしかないし、世代的なバランスも、将来的な問題にもかかわらず、20~40代が圧倒的に少ない。各分野のバランスも悪い。突然、なつかしい?半井小絵気象予報士が登場したかと思えば、彼女は、百地章教授と近しいらしく、しばしば対談などがなされている仲だった。

  ここには、登場しないが、いわゆる「リベラル派」と称される人たちやフェミニストたちでさえ、「男女平等の憲法下で、女性天皇を認めないのはおかしい」などの発言が多いが、このヒアリングでも、女性天皇容認が過半数を占めているのがわかる。女性天皇や女系天皇を認めない人たちは、男系の血統を重視するのだろうけれど、長い天皇制の歴史の中では、むしろ無意味に近い。さらに、旧皇族の復帰などは無視されるかと思われたが、かなりの数の賛成と曖昧な意見が多いのに驚いている。
  皇位継承者数確保の二案とて、さまざまな矛盾や実現可能性の有無をはらみ、混迷を深めるだろう。
  天皇の存在の有無によって「国のかたち」が変わるとも思えない。一般国民の意識や生活に決定的な影響を及ぼすとも考えられない。戦前の遺制は、各所で残るものの、敗戦後に享受してきた「民主主義」が、そんなに軟弱なものだったとは考えたくないし、簡単に後戻りできるものかどうか、これまでの生活と意見を維持しながら、私は注視したい。

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