安定的な皇位継承策の迷走、もはや名案はないのでは!
2020年11月、有識者会議は、安定的な皇位継承策の”迷案“二案(①女性皇族が結婚した後も皇族として残る ②女性皇族は、旧皇族男子と養子縁組をして皇族に復帰する)が政府に提出され、2022年1月には国会に提出されたものの、いっこうに論議は進まなかった。2024年4月、自民党を最後に、各党の対応が公表され、6月の通常国会では、皇室典範の改正が論議されるかに思われたが、政府・国会はそれどころではなく、政治とカネの問題で揺れた。
というのも、そもそも議論に値する二案とも思われず、いずれの案も、安定的な皇位継承の対策案に直結するものではなく、二案とも天皇家を含む皇族の基本的自由原則に反するもので、違憲というほかない。
皇族の男子にしても、女子にしても、子を産むことを前提にし、皇位継承の安定をはかるという法改正は、皇位継承を男子に限るとする現皇室典範ともども、憲法に定める基本的人権原則に反するものではないか。それにしても、憲法の平等原則に反する天皇という存在自体が日本国憲法の矛盾を露呈していることを、声を大にして言う政治家も研究者も滅多に出遭わないのが私には不思議に思えてならない。
マス・メディアは、新聞もテレビも、毎日どこかで、天皇夫妻が、秋篠宮夫妻が、愛子さんが、佳子さんが、悠仁さんがどうしたこうした、果ては上皇夫妻がどこへ出かけたとか・・・、宮内庁の広報室が流している情報を、そのまま、競うように報じている。週刊誌はといえば、愛子さんの日赤就職を働く女性のごとくに報じているが、皇后が名誉総裁なのだから究極の縁故採用ということになる。佳子さんがギリシャの訪問先で激安のブラウスを“お召し”になっていることを報じるが、それがなんだというのだろう。悠仁さんの進学先の憶測が乱れ飛んでいるが・・・。ともかく、宮内庁は、極端な誤報でなければ見て見ぬふりして、広報室情報とともに、皇室への関心を高めるべく必死のようにも思える。
天皇の英国訪問のなぜ?
しかし、メディアの皇室情報の発信には、皇室への、国民の関心を高めることに寄与する以上に、もう一つの大きな役割を果たしているにもかかわらず、国民には伝わりにくい情報がある。というより、意図的に伝えようとしない部分あることを、あらためて知ることになったのが、今回の天皇夫妻の英国訪問であった。
そもそも皇族の外国訪問は、外務省が宮内庁とで決められていく。天皇は政治的発言や活動は憲法上認められないことになっているので、政府サイドは「皇室外交」という言葉は使用せず「親善訪問」と表現する。
天皇夫妻による6月22日から8日間にわたる英国訪問に先立って、岸田首相は「皇室と王室との間の交流を通じて両国の友好と親善を改めて確認し、両国の従来からの良好な関係が一層強化されるものと確信」すると語り(2024年6月4日談話)、帰国後は、林官房長官が「今回の御訪問を契機に、今後我が国と英国との間の友好関係及び我が国皇室と英国王室との親善関係がなお一層発展することを期待」すると述べている(6月29日談話)。
天皇自身は、出発直前の6月19日の宮内記者会の代表質問に答えて、17世紀以降の日英両国の関係史、近代歴代天皇と英国交流史から語り始め、両国の若い世代の交流に着目、期待するとの発言に続き、後半は、妻との共通の英国体験、オックスフォード大学などの思い出の地を訪ねる楽しみを、饒舌なまでに語っている。
そして、日本のメディアでは、6月25日のチャールズ3世国王主催のきらびやかな晩餐会、パレードを歓迎する沿道の人々、天皇夫妻のセンチメンタルジャーニーのエピソードと体調が懸念された雅子さんの笑顔の写真や動画を報じるばかりであった。
ところが、6月28日、天皇夫妻の公式行事を終えたことを受け、ジュリア・ロングボトム駐日大使は、次のような「総括コメント」を発表している。
「我々はこれまでCPTPP(米国抜きの環太平洋経済連携協定)、GCAP(グローバル戦闘航空プログラム)、サイバーセキュリティー、デジタル、洋上風力発電、科学技術など、さまざまな重要分野において新たなパートナーシップを築いてきました。特に、昨年の広島アコードの合意は、これらの協力関係をさらに促進させる追い風となりました。(中略)国王陛下と天皇陛下が生物多様性と環境保全に共通の関心を抱いていることが示すように、王室と皇室の親密さも含まれています。国際的な金融およびビジネスサービスの先駆的なエコシステムであり、革新的な研究機関や学術機関も包括するシティー・オブ・ロンドンが主催した晩餐会には、「両国のビジネス界を代表するゲストの方々がご出席されました。晩餐会は、両国の市場間や自治体間の連携を通じた、歴史に根付く日英協力の深化を象徴するものでした。」
なんとここでは、今回の訪問の政治的、経済的意図を明確に語っているのである。さらに、後半では、「2025年の万博への英国の貢献」や「来年の空母打撃群の訪問」という「未来志向」にも及んだ。
なお、「広島アコード」とは、BBC NewsワールドニュースTVによれば、昨年2023年5月の広島サミットの折、19日からの主要7カ国(G7)首脳会議に先駆けて行われたリシ・スーナク英首相と日本の岸田文雄首相は18日夜のワーキングディナー(夕食会)で、安全保障や経済、世界的な課題など、幅広い分野で戦略的な日英の連携を深めていく「広島アコード」に合意、欧州とアジアにおけるもっとも近いパートナーとして、安全保障と防衛での協力にいっそう努力するという確認であった(2023年5月18日)。相手国英国が明確にしているものを、日本政府は、天皇の政治利用を覆い隠し、日本のメディアも言及することがない。
また、英国駐日大使のコメントにある「空母打撃群の訪問」って、聞き慣れないので調べてみると「空母を中核として護衛艦、航空機などの編成になる機動部隊」のことらしく、2021年にもインド太平洋地域に派遣されている。英政府は2023年5月17日、2025年には、日本、米国、英国がインド太平洋地域で定期的に合同演習をすると発表している。「空母打撃群」が派遣されて、日本にも寄るのでよろしく?ということなのだろう。前回のときは空母内でコロナ患者が大勢出て問題にもなったらしいが、それも思い出せないでいる。
本当に知らないことが多すぎる中、天皇が、皇族が現実に果たしている、あるいは、利用されている実相を注視してゆきたい。
こうした事態は、今回に限らず、例えば1992年の明仁天皇の中国訪問時の日中の攻防、日本国内での対立の調整の結果であったことも、私は、ようやく知ることになったのである(「天皇訪中 曲折の1992年」『朝日新聞』2023年12月21日)。
頂きものだけれどと、娘からのおすそ分けの桃とネクタリン。農園からの直送とのことで、まだ固そうなので。
最近のコメント