落ちぶれて武器ありますの暖簾(のれん)出す
(大阪府 小倉三歩 朝日川柳 朝日新聞 2026年4月22日)
これは、1976年5月の衆議院外務委員会で、永末英一委員(民社党)の「一体わが国として兵器貿易というものをどう見るのか」の質問に、宮澤喜一外務大臣の答弁「何がしかの外貨の黒字がかせげるといたしましても、わが国は兵器の輸出をして金をかせぐほど落ちぶれてはいないといいますか、もう少し高い理想を持った国として今後も続けていくべきなのであろう。」を踏まえての作ではないか。注1
注1)衆議院外務委員会8号1976年5月14日https://kokkai.ndl.go.jp/txt/107703968X00819760514
同上委員会における宮澤喜一外務大臣の答弁https://kokkai.ndl.go.jp/txt/107703968X00819760514/46
4月22日の朝刊はいっせいに一面で、4月21日、午前中の閣議と持ち回りの9大臣による国家安全保障会議(NSC)で、「防衛装備移転三原則」「防衛装備移転三原則の運用方針」を改訂したことを報じている。今回の改訂により、これまで輸出できる装備品を「救難・輸送・警戒・監視・掃海」の5類型に限っていたものを殺傷能力のある武器の輸出が解禁されるのである。こんな大事なことを、閣議決定と、しかも持ち回りのNSCで決まって行くのだと思うと、やはり、おそろしい思いが先に立つ。「落ちぶれた」というより「壊れた」という衝撃であった。注2
注2)「防衛装備移転三原則」について(内閣官房)https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/bouei.html
そんな状況の中で、1976年の宮澤外務大臣の答弁が、あらためて、各所で引用され始めた。たとえば、日本共産党は、今般の衆議院選挙における政策として「武器輸出」について、「1976年に当時の三木政権が表明した「武器輸出三原則」は、「国際紛争を助長しない」という「平和国家」としての理念にもとづき事実上武器輸出を全面禁止し、1981年には衆参両院本会議が同三原則の厳格な運用を求める決議を全会一致で可決しました。自民党政府のもとでも、これが日本の基本方針でした。」に続いて、宮澤の答弁を引用している。
3月17日の参議院予算委員会で、西田実仁(公明党)委員は、宮澤の答弁を引用して「平和よりも一時的な経済利益を貪欲に追求する国であってよいのか」質問しているが「もう時代が変わった」と高市総理が答えている。
「東京新聞」も「かつて武器輸出を「全面禁止」した日本が、高市政権で「解禁」するまでの50年を振り返る」題し、「三木武夫内閣が1976年に事実上の全面禁輸に踏み切ってから半世紀。政府は段階的に緩和してきた武器輸出を解禁した」との方針転換を、1976年の宮澤答弁に対する高市総理は「もう時代が変わった」と正当化した、と報じた(2026年4月21日)。
そもそも、武器輸出三原則は、1967年4月の佐藤栄作内閣による武器輸出禁止規定に由来する。共産圏諸国、国連決議により武器等の輸出が禁止されている国、国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けへの武器輸出を禁止することを内容とするもので、衆議院決算委員会において、華山親義(日本社会党)からの質問に対する答弁だったのである。注3
注3)衆議院決算委員会(1967年4月21日、佐藤栄作総理大臣の答弁)https://kokkai.ndl.go.jp/txt/105504103X00519670421/129
ともかく、自民党政権において、まがりなりにも受け継がれてきた「武器輸出三原則」は、「武器輸出」を「防衛装備移転」と言い替えて、2014年安倍晋三内閣によって大きく変質したのである。その後の経過は以下の表によくまとめられている。

殺傷能力ある武器の輸出可能に、政府が装備移転三原則の運用指針見直し(Reuters2026年4月21日)より
今回改訂の「防衛装備移転三原則」について、高市首相は4月21日の記者会見で、武器輸出が全面的に解禁されることへの懸念を問われて、「安全保障環境の厳しさが増し、自国だけでは平和と安全を守ることができなくなった。防衛装備面でもお互いを支え合うパートナーが必要で、そのパートナーからの防衛装備品への期待も大きい」「ニーズに応えた防衛装備移転はパートナー国の防衛力向上、紛争発生を未然に防ぐ」ことにつながるという主旨の答弁がなされた。
しかし、先に示した今回改訂の「三原則」の全文を読むと「防衛装備の海外への移転は、 特にインド太平洋地域における平和と安定のために、力による一方的な現状変更を抑止して、我が国にとって望ましい安全保障環境の創出」し、また「防衛装備の適切な海外移転は、いわば防衛力そのものと位置付けられる我が国の防衛生産・技術基盤の維持・強化、ひいては我が国の防衛力の向上に資する」ものであるとしている。さらに「継戦能力確保の重要性が増す中にあって、防衛装備移転の推進により、共通の装備品を運用する同志国等を増やし、強固な防衛産業を保持し、拡大することは、有事に必要な継戦能力を支える生産能力を国内で確保する上でも大きな意義」を強調している。
会見での答弁では、「三原則」の内容の重大さは伝わらず、「東南アジアへの防衛装備品の輸出拡大、防衛産業の拡大」などには言及せず、スルーしている。近年の防衛費増額とともに、なりふり構わない「政府、(防衛装備品)売り込みに躍起」(毎日新聞 2026年4月22日)する姿には、「死の商人」という言葉がよぎる。私などは、「殺傷能力」「継戰能力」という言葉を聞くだけでも、自らの空襲体験、現在止むことのないロシアのウクライナ侵攻、アメリカのイラン爆撃、イスラエルとパレスチナ侵攻による死者と瓦礫の街を想起してしまう。
さらに、軍備拡大による「抑止力」云々に至っては、日本におけるアメリカの基地の存在自体が、紛争のリスクや攻撃の標的になり得ることは、イランの周辺国のアメリカ基地爆撃を見ても明らかではないのか。3月13日のウオール・ストリート・ジャーナルの報道として、すでに中東には「米海軍第7艦隊に所属し、佐世保基地(長崎県)に配備されている強襲揚陸艦「トリポリ」と、キャンプ・ハンセン(沖縄県)の第31海兵遠征部隊」が派遣されているという(読売新聞 2026年3月14日)。
「三原則」の閣議決定当日の4月21日の「NHKテレビニュース7」では、北海道・三陸沖地震、大分県陸上自衛隊基地での3人の死者を出した事故、アメリカ・イランの停戦協議とホルムス海峡封鎖の現況のつぎに、この「三原則」改訂の報道がなされた。そのねらいとして、①同盟国・同志国との防衛強化 ②防衛産業の育成と基盤強化 の二点をあげ、歯止め策を強調していた。これって政府広報では、の印象が強かった。
<参考>
●「武器輸出禁止三原則等」(外務省ホームページ)https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/arms/mine/sanngen.html
1.武器輸出三原則(1967.4.21)
武器輸出三原則とは、次の三つの場合には武器輸出を認めないという政策をいう。
(1)共産圏諸国向けの場合
(2)国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
(3)国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合
[佐藤総理(当時)が衆院決算委(1967.4.21)における答弁で表明]
2. 武器輸出に関する政府統一見解(1976.2.27)
「武器」の輸出については、平和国家としての我が国の立場から、それによって国際紛争等を助長することを回避するため、政府としては、従来から慎重に対処しており、今後とも、次の方針により処理するものとし、その輸出を促進することはしない。
(1)三原則対象地域については「武器」の輸出を認めない。
(2)三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。
(3)武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。
[三木総理(当時)が衆院予算委(1976.2.27)における答弁において「武器輸出に関する政府統一見解」として表明]
(注)わが国の武器輸出政策として引用する場合、通常、「武器輸出三原則」(上記1.)と「武器輸出に関する政府統一見解」(上記2.)を総称して「武器輸出三原則等」と呼ぶことが多い。
●防衛装備移転三原則(2014年4月1日閣議決定)(内閣官房ホームページ)
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/pdf/bouei1.pdf
以下の項目に当てはまる場合には防衛装備の海外移転を認めない
①当該移転が我が国の締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合
②当該移転が国連安保理の決議に基づく義務に違反する場合
③紛争当事国への移転となる場合
●武器輸出禁止三原則(1967年4月21日衆議院決算委員会答弁)(国会会議録検索システム)https://kokkai.ndl.go.jp/txt/105504103X00519670421/129
佐藤内閣総理大臣 いま申しますように、防衛のために、また自国の自衛力整備のために使われるものならば差しつかえないのではないか、かように私は申しておるのであります。輸出貿易管理令で特に制限をして、こういう場合は送ってはならぬという場合があります。それはいま申し上げましたように、戦争をしている国、あるいはまた共産国向けの場合、あるいは国連決議により武器等の輸出の禁止がされている国向けの場合、それとただいま国際紛争中の当事国またはそのおそれのある国向け、こういうのは輸出してはならない。こういうことになっております。これは厳に慎んでそのとおりやるつもりであります。
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