2025年3月10日 (月)

「私の言いたかったこと」を報告しましたが~大嘗祭に思うこと

  3月8日、新・フェミニズム批評の会の例会で、即位・大嘗祭違憲訴訟の東京高等裁判所での陳述において「私が言いたかったこと」を報告することができました。私のパソコンのzoomの不調で、ご迷惑かけましたが、なんとかお話しすることができました。質問や感想も多く出されました。とくに印象に残ったのは、私の陳述では直接触れていませんが、皇室典範を改正して、女性天皇、女系天皇をまず実現する方がよいのではないか、と言うものでした。昨年5月の毎日新聞の世論調査でも、女性天皇容認が81%を占めています。

  一見、平等原則に近づくようには思えますが、陳述で述べたように宗教色の濃厚な違憲性の高い儀式や伝統ならざる“伝統”的な皇室行事に放り込まれるわけですし、法的根拠のない伝統・慣例という名による基本的人権が損なわれるという厚い壁に直面するのは明らかです。

  もう1件は、まったく実現性のない議論をしても仕方がないのではないか、今日の議論は余り参考にならなかったという趣旨の発言でした。

 以下は、今回、話したわけではないのですが、日頃思っていることなので、そんな気持ちが、報告にも出てしまったかもしれません。たしかに、少し古い2019年4月の毎日新聞の世論調査でも天皇制の廃止に賛成する人は、わずか7%に過ぎません。他の世論調査でも5%前後を推移しています。一挙に廃止するのは、たしかに困難かと思うのですが、現在の皇族方の特権を外し、基本的人権を保障し、同時に予算も縮小し、皇居も有効活用し、一般国民の生活に近づき、しずかに暮らしていく中で自活の道を切り開いもらいたいです。そうした過程で、憲法第一章を無化し、憲法改正を進めることくらいしか、私には思い浮かびません。

 天皇制を維持しようとする人たちには、それを利用しようとする人たちと、なんとなくあってもいい、愛子天皇も悪くない程度に考えている人たちとがいて、後者が多いのです。しかし、皇族たちの暮らしやあちこち出かけて一流のホテルに宿泊し、慰霊や祈念をしたり、イベントで挨拶したりしている姿を目の当たりにするうちに、それらの費用は、すべて私たちの税金、国費でささえていることに気づくはずではないでしょうか。となると、天皇ってなに?あの広い皇居ってなに?とその存在意義が問われてくるのではないかと思います。

 報告が終わってから、そう、今日は国際女性デーだったことに気づき、旧居近くのお宅の庭をはみ出して、咲いていたミモザの樹を思い出したのです。

 当日、配布した報告概要と参考資料なのですが一部補充しました。
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<報告概要>

    (新・フェミニズム批評の会 202538日)

「即位・大嘗祭違憲訴訟」の陳述で言いたかったこと〈報告概要〉     

1.即位・大嘗祭違憲訴訟の裁判の経過

2018年1210日 東京地裁に提訴(原告241名)

2024年1月31日 東京地裁判決棄却

 政教分離原則は、制度的保障であって私人の信教の自由を直接保障しない。
 政教分離原則違反の国の行為が直ちに、私人の信教の自由を侵すものではない

2025年228日 東京高裁判決棄却

 諸儀式に国費を支出したことは、憲法201項の信教の自由は制度的保障であって個人の信教の自由を保障するものではない。諸儀式へ     の参加の強制には当たらず、宗教的活動したとはいえず、諸儀式が個人の宗教的感情や思想と相容れないものであり、内心の葛藤があ    ったとしても、国が不当な圧迫や干渉があったというのは余りにも間接的であって損害賠償の対象とはならない。

2.剣璽等承継の儀【1951日】の違憲性

  神話等にもとづく三種の神器の承継(宗教性が高い):信教の自由の侵害
  儀式の法的根拠がない:主権在民原則違反、政教分離原則違反

「天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う国の儀式等の挙行に係る基本方針について 」「閣議決定」【1843日】その内容は:

 ・ 憲法の趣旨に沿い皇室の伝統等を尊重
 ・ 基本的な考え方や内容は平成の代替わりを踏襲=1909年公布「登極令」
 ・ 国事行為(国費)

3.即位礼の違憲性

賢所大前の儀:賢所(天照大神を祀る)・皇霊殿・神殿各所でのお告げ文(宗教性が高い):信教の自由の侵害
即位礼正殿の儀:儀式の根拠は「閣議決定」のみ(法的根拠がない):主権在民原則違反
高御座・御帳台/首相が天皇仰ぐ祝辞と萬歳三唱:平等原則、主権在民原則違反

4.大嘗祭【191022日~23日】の違憲性

 例年は皇室行事で行う新嘗祭が代替わりのときに限り大嘗祭となる

儀式の根拠:「閣議口頭了解」【1843日】、1989年の「閣議口頭了解」の踏襲。その内容は:
 ・ 皇位継承の一世一度の重要な儀式
 ・ 神への安寧・五穀豊穣・への感謝、国家・国民のため安寧・五穀豊穣祈 
   念は宗教上の儀式である
ことを否定できない
 ・ 国が立ち入ることできない性格の儀式なので国事行為とするのは困難
 ・ 国の関心と挙行への手立ては 当然なので公的性格あり
 ・ 皇室行事として宮廷費から支出

 悠紀殿・主基殿の秘事
 日付をまたいで、天皇と神とが寝食を共にすることによって皇位継承がなされる
 供え物の産地(都道府県)を決めるのは亀卜という占いによる

 儀式の根拠 宮内庁文書「大嘗祭について」【19102日】=「貞観儀式」「登極殿」の踏襲

 5.私の主張:以上の儀式は、廃止された「登極殿」などを踏襲する「閣議決定」「閣議口頭了解」を根拠とするもので、主権在民原則違反であり、これらの儀式が国費をもって実施されたことは政教分離原則違反、信教の自由の侵害による精神的苦痛は多大かつ持続しているので国に対する損害賠償を求める。

政教分離原則:憲法上にこの文言はないが、以下の規定を言う。

宗教団体に特別の法的地位、特権の付与の禁止及び宗教団体による政治上の権力の不行使(憲法第201項後段)
国の政治活動の禁止(第203項)
宗教上の組織に対する公金支出の禁止(第89条)

第二十条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。
いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
② 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
③ 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

制度的保障:公権力、特に立法による人権制限がなされないよう、制度を守ること。「信教の自由」を守るために政教分離原則という制度を守る

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<参考資料(2025年3月8日新・フェミニズム批評の会配布資料)>

 1.類似裁判判決
1977年7月13日津地鎮祭最高裁(大法廷)判決:目的効果基準の採用

起工式は、宗教とかかわり合いをもつものであることを否定しえないが、その目的は建築着工に際し土地の平安堅固、工事の無事安全を願い、社会の一般的慣習に従った儀礼を行うという専ら世俗的なものと認められ、その効果は神道を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められないのであるから、憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動にはあたらないと解するのが、相当である。(藤林益三裁判長、5人の少数意見藤林、団藤重光ほか)

199539日大阪市民による即位礼大嘗祭訴訟の大阪高裁判決:納税者基本権に基づく諸行事への国費支出差し止め、精神的苦痛の損害賠償請求(←19921124日大阪地裁)
(「反天皇制市民1700」創刊~)
即位礼支出差し止めは、すでに支出済み、納税者の地位にもとづいて国に対して国の具体的な行為是正などを求める訴訟提起することは制度として認められず、いずれも不適法。大嘗祭について、「大嘗祭が神道儀式としての性格は明白であり、これを公的な皇室行事として宮廷費をもって執行したことは、前記最高裁大法廷判(津地鎮祭判決1977年7月13日)が示したいわゆる目的効果基準に照らしても、少なくとも国家神道に対する助長、促進になるような行為として、政教分離規定に反するのではないかとの疑義は一概に否定できない」
 即位の礼についても 「国事行為として実施することは法令上の根拠にもとづくものと解せられる(憲法7条10号、皇室典範24条)。しかしながら現実に実施された本件即位礼正殿の儀は、旧登極令及び同附式を概ね踏襲しており、剣、璽とともに御璽、国璽がおかれたこと、海部首相が正殿上で萬歳三唱したこと等、旧登極令及び同附式よりも宗教的の要素を薄め、憲法の国民主権原則の趣旨の添わせるための工夫が一部為された。
*神道儀式である大嘗祭諸儀式・行事と関連づけて行われたこと、天孫降臨の神話を具象化したものといわれる高御座や剣や璽を使用したこと等、宗教的な要素を払拭しておらず、大嘗祭と同様の趣旨で政教分離原則に違反するのではないかとのうたがいを一概に否定できないし」**天皇が主権者の代表である首相を見おろす位置で、「お言葉」を発したこと、首相が天皇を仰ぎ見る位置で「寿詞」を読み上げたこと等、国民を主権者とする現憲法の趣旨に相応しくないと思われる点が存在することも否定できない。

 2.剣璽承継の儀 2019年5月1日(松の間写真/配置図)

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3.賢所大前の儀 2029年5月1日

賢所に向かう皇后
歯を食いしばっているようにも見えます。裾を持ってかがんだまま移動する女官の姿と言い、美しい姿には見えません。

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賢所に向かう皇族たち
2019年5月1日は雨風の強い日でしたから、ドレスの裾が汚れないか心配でもありました。2枚の写真のちぐはぐさには”伝統”なるものが感じられませんでした。

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 4.代替わり関連予算/宮内庁関連予算 

費目

金額

参考事項

即位礼正殿の儀*

176700万  


国事行為(国費)

饗宴の儀

46600万  

祝賀御列の儀 

1億2800

大型モニター30

14900

オープンカー

  8000

賓客用滞在費

508000

警備費 

381900万 

儀仗など   

28700

大嘗祭

 271900

皇室行事(宮廷費)

総額

1674100

1239000万(昭和から平成)

「即位儀式と両陛下の歩み」jijicom201910月配信)より作成
195か国からの賓客などの接待費用で、前回の5倍超になる
**大嘗宮の設営関係費は解体費も含め19700万の予算がとられた

 2024年度宮内庁関係予算


宮内庁費*


                       126


皇室費


宮廷費


        95


内廷費


       3.2


皇族費


   2.6


合計


      226.8

*宮内庁には、別途国家公務員として特別職70人、一般職986人の職員がいる。二為に使用される

通常の宮内庁予算と比べてみて、代替わり予算がいかに多いのかがわかります。2019年10月22日・23日の2日間しか使用されない大嘗宮のために19億も支出されるとは。また通常の宮内庁関連予算と千人以上の国家公務員を抱える宮内庁と知って、少し驚きました。数少ない皇族方のため、いったい何をしているのかとも。皇居も含め、あちこちにある天皇陵や御料地などは国立公園などにして、緑を残し周辺の環境整備をし、御物と言うものがあるなら国立博物館として、開放してはどうかとなどとも思うのでした。

 

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2025年2月 7日 (金)

即位・大嘗祭違憲訴訟の控訴審陳述書、「反天ジャーナル」に転載されました。

当ブログでも、お知らせしましたように「即位・大嘗祭違憲訴訟」
控訴審での私の「陳述書」が全文読めるようになりましたが、下記
の「反天ジャーナル」(20205年2月5日)に転載されました。

ほかに重厚な力作やユニークな記事も満載ですので、お立ち寄りい
ただければと思います。


「反天ジャーナル」(2025年2月5日)
https://www.jca.apc.org/hanten-journal/ 

ご参考までに、当ブログ記事も。
2024年12月22日 (日)
大嘗祭違憲訴訟の東京高裁での陳述書が掲載されました.
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2024/12/post-0daf4b.html

 


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2024年12月22日 (日)

大嘗祭違憲訴訟の東京高裁での陳述書が掲載されました

 11月12日、大嘗祭違憲訴訟の控訴審、東京高裁に提出した私の陳述書が「即位・大嘗祭違憲訴訟の会NEWS」24号に掲載されました。この陳述の概略については、以下の当ブログ記事に書きましたが、今回は、提出した陳述書全文が収録されています。代替わりの一連の儀式、とくに大嘗祭関連の儀式についてはにわか勉強ではありましたが、調べて分かった限りのことを書きました。どう考えても、民主主義国家が国費を使ってなすべき儀式とは到底思えませんでした。天皇家の宗教「神道」に則って代替わりの儀式を行うこと自体、「国民統合の象徴」である天皇である以上、違憲と考えざるを得ないと思ったのです。

生まれて初めて法廷に立った! 即位礼・大嘗祭はなぜ違憲なのか : 内野光子のブログ
(2024年11月13日)

 

「即位・大嘗祭違憲訴訟の会NEWS」24号(2024年12月11日)は以下の2頁からご覧ください。

ダウンロード - 2024e5b9b411e69c8812e697a5e5a4a7e59897e7a5ade8a8b4e8a89fe69db1e4baace9ab98e8a381e999b3e8bfb0.pdf

 

 なお、11月12日、法廷での陳述は、提出した陳述書とは、若干異なり、自分なりに少し整理したり、補ったりしたこともありましたが、これは裁判記録に残るとのことです。

 

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2024年11月23日 (土)

「再稼働の女川原発で父娘半世紀の闘い」を見ましたか

 今日の「報道特集」の<特集・再稼働の女川原発で父娘半世紀の闘い>は、女川の原発反対運動を半世紀以上も続けてこられた故阿部宗悦さんと娘の阿部美紀子さんに焦点をあてたものだった。2016年、旅の途中ながら、知人から紹介された阿部美紀子さんに女川町の津波の被害から復旧さなかの町と原発近くまで案内していただいたのだ。以降、女川から目が離せなくなって、当ブログでも何本かの記事を書いている。

当時の阿部美紀子さんは、東日本大震災の翌年亡くなられた父親の遺志を継いで町議をされていた。東京の大学を卒業して以来、船問屋だった宗悦さんたちの原発建設反対運動を共にすることになったという。原発が建ってしまった後も、さまざまな形の活動の中心的な役割を果たし、東北電力と対峙してきたことになる。番組では、10月29日の再稼働を目の当たりした口惜しさを何度も語っていた。

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阿部さんは、仕事(町議を三期務めた)を辞めたそうだが、今年の7月7日、父宗悦さんの十三回忌に再稼働反対のデモ行進の様子が映されていた。参加した人々の掲げるさまざまなプラカードの言葉に東北電力はどう応えるのか。宗悦さんもきびしく見守っているに違いない。

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阿部美紀子さんが、25歳頃の父宗悦さんとの写真。

 2016年、鳴り砂で有名だった浜に海抜29メートルの防潮堤の先にある原発が見える小屋取浜に案内してくださった阿部美紀さんが、長い反対運動を振り返って、しずかに語る、いくたびも味わった口惜しさは、私もいたく動揺しながら、胸に迫るものがあった。

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<関連の過去記事のいくつか>

女川原発2号機、9月に再稼働か―電気料金が安くなる?(2024年6月20日 )
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2024/06/post-f2b257.html

 写真集『原発のまち 50年のかお』(一葉社)の勁さとやさしさ(2022年11月15日)
 http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2022/11/post-3f4728.html

 女川原発2号機はどうなるのか~再稼働反対の声は届かない(2020年10月30日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2020/10/post-bb75a1.html

 連休前、5年後の被災地へ、初めての盛岡・石巻・女川へ(6)(7)(2016年5月14日)
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2016/05/5-5cf0.html

 

 

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2024年11月13日 (水)

生まれて初めて法廷に立った! 即位礼・大嘗祭はなぜ違憲なのか

 即位礼・大嘗祭違憲裁判は、平成から令和への天皇代替わりの即位礼の諸儀式と大嘗祭の違憲性を問うもので、2024年1月31日、東京地裁の一審判決は、憲法判断を回避、政教分離原則や信教、思想の自由について、憲法は制度的に保障したもので、個々の私人の信教の自由を直接保障するものではないとして棄却するものでした。私たち原告は、東京高裁に控訴、といっても、私などは、8月31日の集会に初めて出て、話をさせてもらった程度のことながら、事務局の勧めで、11月12日、控訴審の第1回口頭弁論で、陳述することになりました。

 8月31日の集会で話したことは「短歌と勲章~通過点としての歌会始」でした。事務局の方は、ご自由に思いのたけを書いてよいとは言うものの、それでは陳述にはなりそうもありません。さてと、ということで、分厚い「控訴理由書」を何度読んでも、むずかしい。それならばと、開き直って、代替わり当時の諸儀式を、テレビや新聞で見る限りではあるが、なんとも、時代離れした、あるときは滑稽にも思えたり、あるときは新天皇夫妻が気の毒になったり、付き合っている参列者たちって、どうなの?と思ったりしたことを書いてみてもいいのではないかと。
 儀式を三つほどに絞って、あらためて思い出しながら、いったいこの儀式の法的根拠はあるのかと調べてみて、驚くことばかりでした。 

 以下が私の陳述の要旨で、約15分、実際は、「ですます調」で丁寧に?話したつもりです。なお、冒頭には、自己紹介的なもので、なぜ即位礼・大嘗祭に関心を持ったかも述べました。傍聴席には30人以上いたように思います。

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「剣璽等承継の儀」 2019年5月1日の映像で見るかぎり、三権の長など二十数人がひかえた松の間に式部官長と宮内庁長官の先導で新天皇、秋篠宮、常陸宮が入り、壁際にしつらえた壇上の中央に天皇が立ち、壇の下の左右に秋篠宮、車いすの常陸宮が控えている。そこへ剣と璽をそれぞれ捧げ持った侍従たちが、天皇の前の二つの「案」と呼ばれる台に恭しく置く。さらに、国事行為で使われる御璽(天皇の印)と国璽(国の印)が捧げられた後、直ちに、侍従たちが台の上から引き取り、ふたたび捧げ持ち、天皇たちとともに部屋を退出する。男性たちの床を打つ靴音ばかりが響く6~7分間ほどの無言の儀式であった。女性の皇族は参列できないのが慣例で、今回は参列者側に、当時の安倍内閣の閣僚、片山さつき議員が女性として初めて参列したと報じられている。

 皇位の継承の証である「三種の神器」のうちの剣は熱田神宮に、鏡はは伊勢神宮に収められ、宮中にある剣と鏡は、形代(かたしろ)と呼ばれるレプリカだ。その鏡は賢所に、剣と勾玉は、吹上御所の「剣璽の間」に置かれているそうだ。しかし、代々の天皇すら、それらの包みを開いて中身を見てはならないものとされている。

 少なくとも「三種の神器」の「剣」に関していえば、これらの由来は、古事記・日本書紀にある、素戔嗚尊の八岐大蛇退治の折、尻尾から出てきた剣であり、後に天照大神に献上したのが「草薙剣」であるといった神話が由来です。この神話は寓話であり得ても、裏付けのある史実でもなく、伝統でもない、荒唐無稽な、グロテスクなフィクションではないでしょうか。天皇自身も「天照大神」の「子孫」であるとは信じていないでしょうし、国民の大かたも信じられない中で、見てもいない「剣」を大真面目に承継したとして、演じなければならない「剣璽等承継の儀」での姿は滑稽に思えてしまう。

「剣璽等承継の儀」の法的根拠は、皇室典範にも日本国憲法にもなく、根拠というならば、「天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う国の儀式等の挙行に係る基本方針について 」という長い件名の「閣議決定」(2018年4月3日)だ。時の政府によっていかようにもできるという証左ではないか。その「閣議決定」では、「各式典は、憲法の趣旨に沿い、かつ、皇室の伝統等を尊重したものとすること」、「各式典についての基本的な考え方や内容は平成の代替わりを踏襲されるべきものであること」と記され、「剣璽等承継の儀」については国事行為である国の儀式として、宮中において行う。」とされている。

 承継されるべき「三種の神器」なるものがもっぱら「神話」にもとづいたものもあり、長い歴史の中での承継、移転の経緯にも疑問が多い。「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」の地位継承の儀式を、「国事行為」の中の「儀式を行ふこと」に含めるという「閣議決定」は、憲法第7条十項を拡大解釈したものと言わざるを得ない。

 今回の各式典は、基本的に昭和から平成の代替わりにおける「考え方や内容は踏襲されるべきもの」とされた。1915年の大正、1928年の昭和、1989年の平成への代替わりの儀式は、明治42年、1909年2月11日に公布された「登極令」によって実施されたことになる。令和の代替わり儀式が、1947年廃止されたはずの「登極令」と内容的に変わらない2018年の「閣議決定」によって実施されたことは、形式的にも、内容的にも新憲法下では認めがたいもので、違憲性が高いと考える。

即位礼正殿の儀 2019年10月22日に行われた「即位礼」の最初の儀式は、「賢所大前の儀」。賢所は、「天照大神」が祀られているというところ。天皇は、格式の高いという白の束帯姿、剣と勾玉を捧げ持つ侍従たちに先導されて賢所への回廊を進み、さらに皇霊殿、神殿を巡り、皇后も白の十二単姿で続く。侍従や女官が長い裾を、腰をかがめて移動する姿は、決して美しい姿とは言い難い。天皇は、その各所で「お告げ文」なるものが読まれているそうだが、その声を聞いた者はない。そして、秋篠宮を先頭にロングドレスの女性皇族の7人が傘をさして、あの日は雨風の強い日だったので、砂利道を賢所に向かう姿のちぐはぐな光景には、「伝統」なるものの異様さに気づかされる。

 続いて午後に行われた「即位礼正殿の儀」は、松の間に設えた天皇用の「高御座」、皇后用の「御帳台」が並ぶ。高御座の正面から束帯姿の天皇、御帳台から皇后も異なる色鮮やかな十二単で現れた。ここでも、天皇の前には剣と璽が置かれ、ここで発する天皇の「お言葉」といえば、「日本国憲法及び皇室典範特例法の定めるところにより皇位を継承」したことを内外に宣明し、これに対して安倍首相が祝辞「寿詞」(よごと)を述べ、首相の万歳三唱に、参列者が唱和していた。
  ここで、6.5mの高御座、5.7mの「御帳台」、天皇は、床上1.3mの位置から「お言葉」を述べ、首相が天皇を見上げて読む祝辞は「私たち国民一同は、天皇陛下を日本国及び日本国民統合の象徴と仰ぎ」とあり、「令和の代(よ)の平安と天皇陛下の弥栄(いやさか)をお祈り申し上げます」との言葉で結んでいる。

この一連の流れの中にはつぎのような問題点があると考える。
・これらの儀式は、憲法、皇室典範、皇室典範特例法上の定めにもなく、あるのは「閣議決定」(2018年4月3日)のみ。
「高御座」「御帳台」の設えの違いは何なのか。これら二つの設えも時代によって異なり確固たる伝統なるものはないうえ    に憲法上の平等規定に違反。
・憲法第一条「日本国及び日本国民統合の象徴」であり、「主権の存する日本国民の総意に基く」天皇は仰ぐ存在ではない。にもかかわらず、首相の祝辞は、「大日本帝国憲法」の「天皇制」を引きずっているとしか思えず。

 大嘗祭 毎年11月に行われる皇室行事の新嘗祭は、天皇の代替わりの折には大嘗祭として行われていた歴史上記録もあるが、永らく中断したり、その儀式としてのあり様も様々な変遷をたどったりしている。
 今回、大嘗祭以外の諸行事「剣璽承継の儀」「即位後朝見の儀」「即位礼正殿の儀」「祝賀御列の儀」「饗宴の儀」は、2018年4月3日「閣議決定」の基本方針により「国事行為」とされた。大嘗祭は、同日の「内閣口頭了解」という3行ほどの文書で決められた。それも、平成への代替わりのときの大嘗祭についての 「閣議口頭了解」(1989年12月21日)を踏襲する、とだけ記されている。
 その踏襲された「閣議口頭了解」では、つぎのような理由で、宮内庁が取り仕切る皇室行事として宮廷費からの支出により実施することが決められた。
・皇室の長い伝統を受け継いだ、皇位継承に伴う一世に一度の重要な儀式である
・天皇が祖先や神(皇祖及び天神地祇)に対し、安寧と五穀豊穣などを感謝されるとともに、国家・国民のために安寧と五穀
 豊穣などを祈念される儀式であり、この趣旨・形式等からして、宗教上の儀式としての性格を有するものと見られることは
 否定することはできない
・国がその内容に立ち入ることにはなじまない性格の儀式なので大嘗祭を国事行為として行うことは困難である
・その儀式について国としても深い関心を持ち、その挙行を可能にする手だてを講ずることは当然と考えられる。その意味に おいて、大嘗祭は、公的性格がある

  ここで、問題なのは、大嘗祭の「趣旨・形式等からして、宗教上の儀式としての性格を有するものと見られることは」否定せず、さらに、「国がその内容に立ち入ることにはなじまない性格の儀式」としながら、大嘗祭は公的性格があるとするのは大きな飛躍でしかない。あきらかに憲法20条の政教分離の原則、89条の「公の財産の支出又は利用の制限」に反すると考える。
 宮内庁の「大嘗祭について」(2019年10月2日)の文書でも明らかなように、この儀式の次第は「貞観儀式」(平安時代中期、870年代)「登極令」(1909年)などの記述と「基本的に異なるところはない」とも記され、今回も平成の代替わりと同様に行う、されていた。

 さらに、大嘗祭のメインと言われる悠紀殿、主基殿において天皇と神とが寝食を共にすることによって皇位継承がなされるという「秘事」に至っては、あまりにも現実離れした「ままごと」のようでもある。「秘事」と称して、天皇と二人の女官しか知り得ない作業や行為であるとしながらも、さまざまな準備や用意をする人々の手を借りねばならないはずで、「秘事」はもはや建て前にしか思えない。にもかかわらず、参列者や国民には知らされないという矛盾に満ちた儀式といえよう。なお、悠紀殿、主基殿における供え物の新穀の産地を決めるのは、亀の甲羅を火にくべて、その割れ具合による「亀卜」という占いによって都道府県が決めたというが、これも秘密裏に行われているので、その実態は分からない。

これまで見てきたように、大嘗祭の諸儀式は、すでに廃止された「登極令」を持ち出して踏襲しており、現在の法的な根拠もなく、日本国民統合の象徴であって、その地位は主権の存する国民総意に基づく天皇がなすべき行為、儀式とは言えず、憲法第一条に反する。

 したがって、上記で述べた、少なくとも「剣璽等承継の儀」「即位礼正殿の儀」「大嘗祭」は、過去の閣議決定、閣議口頭了解や廃止された「登極令」などを踏襲するもので、法的根拠はないまま実施されたことはきわめて違憲性が高いと考える。その憲法判断を求めるものである。同時に、これらの儀式が国費をもって実施したことによって、私が受けた精神的な苦痛は多大かつ持続しているので、国に対する損害賠償を求めるものである。 

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 五人の陳述が終わると、谷口園恵裁判長は、双方の弁護士と二言三言話していたが、よく聞き取れなかったのです。裁判長が「これで結審・・・・」のような声がしたかのような瞬間、傍聴席から「逃げるな」の声や、原告の弁護士から「忌避申し立て」などの声が飛んで、裁判官たちは退席していったのです。

 後の報告集会で、ようやく閉廷前後の顛末がわかりました。弁護士、陳述人が順次感想を述べ、質疑に入りました。きょうで結審、次は判決ということになるのが、控訴審では多いそうです。谷口裁判長の来歴なども紹介され、判決には期待できないが、これからも頑張りましょうということになりました。
 これからは、裁判の傍聴ならばいざ知らず、法廷に立つことはまずないでしょう。貴重な体験でした。事務局の桜井大子さん、弁護士の吉田哲也さんには、お気遣いいただきました。ありがとうございます。

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地裁から報告集会会場の日比谷図書館に向かう。なつかしい西幸門、NHKへの抗議デモやモリ・カケ問題のデモの出発地点であった。また、野音のさまざまな集会のたびに通った門。集会後、夕暮れ近い公園の黄葉はまだ始まったばかりのようだった。傍聴した連れ合いともども「やっぱり疲れた」と、ここも久しぶりの「松本楼」で夕食をとった。

 

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2024年10月16日 (水)

即位・大嘗祭違憲訴訟の控訴審第1回弁論は11月12日となりました

8月31日、即位・大嘗祭違憲訴訟の控訴をひかえた集会について、以下の記事で紹介しましたが、第1回の口頭弁論の期日が決まりました。

台風はどこへ~「短歌と勲章~<歌会始>という通過点」と題して話しました。(1): 内野光子のブログ (cocolog-nifty.com)

台風はどこへ~「短歌と勲章~<歌会始>という通過点」と題して話しました。(2)文化勲章への道~国家的褒章はだれが選考するのか: 内野光子のブログ (cocolog-nifty.com)

2024年11月12日(火)
東京高等裁判所、14時開廷
(傍聴の方は30分前に裁判所前に集合)
終了後、日比谷図書文化館にて報告集会があります)

 「即位・大嘗祭違憲訴訟の会NEWS」23号(2024年10月1日)には、8月31日の集会の模様を桜井大子さんがまとめてくださっています。その末尾に、参加者の感想が寄せられていたことも書かれていました。少し面はゆい気もしますが、やはり励まされる思いがいたします。ありがとうございました。 

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2021年10月 1日 (金)

NHK提訴、第1回口頭弁論の傍聴へ。森下経営委員長は出廷せよ!

 9月28日、秋晴れの下、久しぶりの東京、霞が関も久しぶりのことだった。今回のNHK裁判までの経過はなかなか厄介なのだが、朝日デジタルは、その日の夜、つぎのように報じている。

かんぽ報道で会長厳重注意の議事録 開示訴訟でNHK側争う姿勢
宮田裕介2021年9月28日 19時59分)
 かんぽ生命保険の不正販売を報じた番組を巡り、NHKの経営委員会が2018年、当時の上田良一会長を厳重注意した問題で、市民ら約100人がNHKと森下俊三・現経営委員長を相手取り、厳重注意の経緯がわかる経営委の議事録の全面開示などを求めて提訴した訴訟の第1回口頭弁論が28日、東京地裁であった。NHKと森下氏は請求の棄却を求め、争う姿勢を示した。原告側は議事録などの開示を4月に求めたのに、応じていないのは違法だとして、6月に提訴していた。・・・

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東京地裁に入る原告団(筆者撮影)

 原告の私たちが求めているのは、日本放送協会NHKに対しては経営委員会の議事録の全面開示と森下経営委員長には、放送法に規定のある経営委員会議事録を遅滞なく開示する義務を怠ったことによる損害賠償請求であった。100人を超える原告団の一人として、提訴に至るまで、NHK視聴者団体の一つで少しばかり手伝いをしてきた者として、やはり傍聴しておきたかった。定員98人の大きな法廷ながら、コロナ感染対策のため、今回の傍聴席はその約半分、抽選で入れなかった方もいらした。私たち原告のあらかじめ申請した13人は黄色い傍聴券を渡され、その席は、片側に特定され、何回も人数を確認された。

 裁判までの経過をたどると・・・2018年4月24日、NHKは「クローズアップ現代+」で、日本郵政のかんぽ不正販売問題を報道した。その後、日本郵政グループからの抗議を取り次いだNHK経営委員会から上田NHK会長は「厳重注意」を受けていた。同年8月10日に放送予定だった「クローズアップ現代+」の続編は、郵政との関係が深い森下俊三経営委員長代行ほか多くの経営委員から、その内容にまでクレームがつき、放送は延期になっていた。これらの経過を、2019年9月26日、毎日新聞がスクープし、10月には、野党のヒアリングで森下委員長代行は、上田会長への厳重注意をした時の議事録は作っていないと発言。2019年12月には、森下委員長代行は委員長に選出された。その後、毎日新聞が件の経営委員会議事録の全面開示を求めたところNHKは拒否したとの報道がなされたのは毎日新聞2020年2月27日だった。

 2020年3月6日、市民グループが議事録の全面開示と森下委員長の辞任を求める要望書を提出、辞任署名を提出したところ、NHK内部に設置されている情報公開審議会から、開示せよとの答申が二度出されたにもかかわらず、全面開示に至らなかったのである。
 この間、市民グループは、森下委員長の罷免を求める国会請願、森下委員長の再任反対署名などを実施、2021年6月14日、上記提訴に踏み切ると、NHKはあわてて?議事録開示と称して原告らに提示されたものは、不備の多い正式なものではなかったのである。
 かくて、9月28日第1回口頭弁論に至ったわけである。原告側は、市民グループで運動を続けてきた二人と元NHKプロデューサーの三人の原告と主任弁護人の意見陳述がなされたが、NHK側は、弁護士や関係職員が出廷しながら、一言の意見陳述もなされなかったし、森下経営委員長とその代理人弁護士も出廷していなかった。

 これは一体どういうことなのだろう。森下経営委員長は原告側の主張を認め、争うつもりがないのか。そうでないとしたら、この提訴を軽視しているからなのか。森下経営委員長の陳述を聞かねばならない。
 「クローズアップ現代+」の続編の放送延期の間、かんぽ生命保険不正販売の続行によって、多くの被害者が出すに至ったことへの責任も大きい。何よりも放送の自由と表現の自由にかかる重大な裁判であることは間違いなく、私も生まれて初めて「原告」を体験することになった次第である。
 裁判後の司法クラブでの記者会見、その後の報告会の模様は、以下のユープランさんのフルバージョンの録画で見ることができる。陳述などの資料も添付されている。

https://www.youtube.com/watch?v=XSl5OmhEQ20

 

 

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2019年10月20日 (日)

政治利用されない「天皇制」って、ありですか?~パレード延期と恩赦に思う

「祝賀御列の儀」というパレード

 天皇即位に伴う祝賀パレードが10月22日から11月10日に延期された。また、即位に伴う恩赦の政令が出されることになった。ともに、10月18日の閣議で決定されたのだが、パレード延期の件は、すでに、NHKwebnewsでは、 10月17日に安倍首相は被災地の宮城県丸森町で「延期する方針で検討」と語り、延期の方針、午後3時49分付では、11月10日に延期との報道があり、新聞では18日朝刊で「政府の方針」として先ぶれ報道がなされた。恩赦については、18日午前中の閣議で決定された後に報道されている。
 私には、この報道の微妙な時間差を意図した政府広報、メディア・コントロールこそが天皇即位自体と関連報道を、フルに政治利用をしている場面に思えたのだ。
 パレード延期の理由が「甚大な被害を出した台風19号の被災地に配慮」して、とのことであった。前日までは、「淡々と進めている」と記者に答えていた菅官房長官だったが、17日の会見では「諸般の状況を総合的に勘案した」としている。首相は、被災地のぶら下がりで、延期の方針を発表したかったのだろう。それに、あまり評判の良くない「恩赦」と同時発表は避けなければならかったにちがいない。
 被災地への配慮というならば、直近では、15号台風の被災地、被災者の現状、さかのぼれば、東日本大震災、福島原発事故の被災地・被災者の実態を知らないわけではないだろう。11月10日に延期したところで、状況が大きく改善するわけもない。

 菅官房長官は、「宮内庁と相談したが、あくまでも内閣として判断した」と会見で語っていた。しかし、報道によれば、宮内庁関係者は「突然でびっくり」ともらし(毎日新聞10月18日)、政府関係者は「台風によりパレードの警備にあたる警察官の確保が難しくなったという事情」を語ったという(東京新聞10月18日)。被災地や被災者に配慮したとは、たてまえからも実態からも大きく離れてはいないか。さらに、国事行為として行われる内外の要人を迎えての祝宴や首相夫妻の晩餐会などの一連の行事とて、被災地や被災者を配慮するというのならば、中止して、その経費や労力を災害復旧・復興に充てるくらいの決断があってもよいのではないか。祝宴にしても晩餐会にしても、即位を利用しての政府の大判振る舞いに過ぎない。一般国民の生活に何ら寄与しないではないか。今の憲法下で、政治的権能を有しない天皇の存在自体が、死去ないし退位、改元・即位、結婚などに伴うさまざまなイベントや活動が、時の政府に組み込まれ、加担、補完する役割を果たすことになるのは、むしろ当然の成り行きであろう。

 私などからすれば、日本国憲法に「第一章」がある限り、とりあえず、天皇、皇族方には、「象徴」などというあいまいな役まわりをさぼってもいいので、ひっそりと自由に、退任でも、代替わりでも、結婚でもなさったら、よろしいのにとも申し上げたい。そして、現代の日本にとっての「象徴天皇制」は必要なのかの問いに対峙したい。

日本は、これで法治国家?

 政府は、都合が悪くなると、日本は「法治国家」だからといって、法律に従い、粛々と、淡々とことを進めてしまい、進めた結果の責任はだれも取らないのが、日本の法治国家の実態である。

 「恩赦」は、旧憲法下では、天皇の大権事項であったが、日本国憲法下では、天皇の国事行為(7条6号)で、内閣が決定する天皇の認証事項である。大赦、特赦、減刑、刑の免除、復権とあるが、いずれにしても、一度、裁判所が犯罪者の処罰を決めるという「司法権」に「行政権」を持つ内閣が介入して「処罰」がなかったことにする制度である。今回は、罰金刑により制限された資格を復活させる「復権」が大半という。その対象の55万人のうち、道路交通法違反者が65.2%で三分の二を占めるが、他は過失運転死傷、傷害・暴行・窃盗の罪を犯した者、公職選挙法違反者たちが含まれるのである。
  具体的に、今回の政令恩赦では、2016年10月21日までに罰金を納めた約55万人が対象となった。罰金刑を受けると、原則として医師や看護師など国家資格を取得する権利が5年間制限されており、こうした権利が回復する。法務省によると、対象者の約8割が道路交通法や自動車運転処罰法などの違反。公職選挙法違反による罰金納付から3年がたった約430人の公民権なども回復されることになる(JIJI.com10月18日)。
 しかし一定の条件をクリアしただけで「自らの過ちを悔い、行状を改め、再犯のおそれ」がなくなった者への更生の励みや再犯防止策になるという建前ながら、実態はどうなのか、疑問は尽きない。今回も当初、法務省は、皇室の慶事による恩赦は「社会への影響が大きく、三権分立を揺るがしかねない」とその不合理性を指摘、実施すべきではないとし、また、一律の政令による恩赦でなく、対象者を個別に審査する「特別基準恩赦」のみの実施を訴えたという(朝日新聞10月19日)。しかし、政府としては踏み切ったのである。その過程や決定の不明瞭さはぬぐえず、そもそも、内閣の恣意性が問われ、そのチェック制度がない恩赦は、実施すべきではなかったのではないか。

 諸外国において、たとえば、イギリスでは、恩赦権は大法官・法務大臣の助言に従う国王大権の一つであるが、その運用にあっては、罪や刑罰を定めて一律に行う大赦は、1930年以降実施されておらず、過去20年間に行われた特赦2件、他の恩赦も厳しい条件のもとに実施されている。フランスでは、他のヨーロッパ諸国に恩赦制度が実施されることはまれなことから、大統領選ごとに行われていた慣例的な恩赦も2007年以降実施されなくなった。アメリカでは、大統領に恩赦権はあり、司法長官の助言を受けて実施するが、減刑や罰金刑減額などは、別の制度によるとされ、2018年度に承認した恩赦は、特赦、減刑あわせて10人であった。

 日本のように、行政府が、恣意的に一律に大量に行う「恩赦」などは、もはや特異な例と言わねばならない。今後は、皇室の慶事にかこつけてなされる「恩赦」を内閣には実施させない選択を迫るべきではないか。

 こうして、利用されるだけの「象徴天皇制」を少しづつでも無化するには、どうしたらいいのか。

<参考>

・小山春希「恩赦制度の概要」『調査と情報』No.1027
(2018126)file:///C:/Users/Owner/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/JDLUCL85/digidepo_11195781_po_IB1027%20(1).pdf

・法務省のQ&A「なぜ恩赦は必要なのですか?」
http://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo_hogo10.html#02

・法務省「「復権令」及び「即位の礼に当たり行う特例恩赦基準」について」
20191018日)
http://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo08_00006.html

・晴天とら日和「恩赦に反対します」(2019年10月20日)新聞記事などのまとめあり
http://blog.livedoor.jp/hanatora53bann/archives/52334331.html

 

 

 

 

 

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